刀
大好きだった…
祖父が死んだ。
俺が十五歳の夏だった。
いきなりの訃報だった。
体調を崩していたのは知っていた。
だけど、実の娘である母も
「大したことないから、すぐ良くなるわよ」
と言っていたから安心していたんだ。
言い訳じゃないんだ。
だから、大丈夫だと思った。
「いつか、近いうちに」
なんて思っていたんだ。
それが…それが…
葬儀が終わった日の夕方。
親戚たちが帰っていく中、俺は一人で祖父の家に残った。
大好きだった場所…
静かだった。
あれだけ人がいた家なのに。
祖父の声がないだけで…
こんなにも広く感じる。
俺は廊下を歩いた。
昔、祖父と一緒に歩いた廊下。
庭。
縁側。
そして――
蔵。
俺は足を止めた。
ここだけは、昔から入るなと言われていた。
理由を聞いても祖父は教えてくれなかった。
「大したものはない」
いつもそう言っていた。
俺は扉に手をかけた。
もう怒る人はいない。
そう思った瞬間。
妙に寂しくなった。
「……じいちゃん」
返事はない。
俺は扉を開けた。
---
蔵の中は暗かった。
埃の匂いがした。
古い箱。
古い本。
使われなくなった家具。
その一番奥、薄暗くなっている場所に一つだけ長い箱があった。
なぜか、それが気になった。
箱を引っ張り出す。
蓋を開ける。
中にあったのは――
一本の日本刀だった。
「……刀?」
触れる。
冷たい。
なのに、どこか懐かしい。
祖父がこの刀を見ていた記憶がある。
ずっと昔。
俺がまだ小さかった頃。
「これはまだ、お前には早い」
そう言っていた。
俺は刀を持ち上げた。
思ったより重い。
鞘に手をかける。
「……ちょっとだけ」
刀を抜いた。
――瞬間。
世界が消えた。
音も。
光も。
自分の身体も。
全部。
そして最後に、誰かの声が聞こえた。
――強くなれ。
俺は叫んだ。
「じいちゃん!」
その瞬間、意識が途切れた。




