祖父の話
序章
「なあ、じいちゃん」
「ん?」
「新選組って、本当に強かったの?」
縁側に並んで座り、蝉の声を聞いていた。
祖父は湯飲みを口に運びながら、しばらく考えた。
「そりゃあ強かったさ」
「誰が一番?」
「近藤勇かな」
「やっぱり局長?」
「ああ」
祖父は嬉しそうに笑った。
俺は祖父のこういう顔が好きだった。
新選組の話をしているときだけ、祖父は少しだけ少年に戻る。
「土方歳三は?」
「強いぞ」
「沖田総司は?」
「もっと強い」
「じゃあ沖田が一番?」
「いや、近藤だ」
「なんで?」
「仲間を大事にしたからだ」
俺は首を傾げた。
「強さと関係ある?」
祖父は笑った。
「あるさ」
「刀が強いとかじゃなくて?」
「ああ」
祖父は遠くを見た。
「人間、一人じゃ何もできん」
「でも新選組って、敵をいっぱい斬ったんでしょ?」
「そうだな」
「怖くなかったのかな」
祖父は少し黙った。
「怖かったと思うぞ」
意外な答えだった。
「近藤勇も?」
「ああ」
「土方も?」
「ああ」
「沖田も?」
「ああ」
「じゃあ、なんで戦ったの?」
祖父は俺の頭を撫でた。
「仲間がいたからじゃないか」
その答えが、俺は好きだった。
だから俺は新選組が好きになった。
近藤勇。
土方歳三。
沖田総司。
山南敬助。
永倉新八。
原田左之助。
斎藤一。
名前を覚えるたびに、祖父は嬉しそうに頷いた。
俺もいつか幕末に行ってみたい。
そんなことを思ったこともある。
ただし。
「俺が幕末にいたら、新選組には入らないけどね」
「なんでだ?」
「怖いから」
「ははは!」
祖父は腹を抱えて笑った。
「お前は本当に臆病だな」
「悪い?」
「いや」
祖父は笑いながら、俺の頭を撫でた。
そして、いつものように言った。
「それでいい」
「え?」
「人を斬るのが怖いと思えるなら、それでいい」
俺には、その意味が分からなかった。
最後に祖父が言った言葉の意味を知るのは――
ずっと後のことだった。




