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日は誰よりも愛されて、月は星を守るよ。

一応3話。前回の締めくくりの部分を軽く。

ずっと月路のことを探し続けていたせいで、テスト期間中勉強ができなかった美星。

自分のせいで、美星がテスト勉強できなかったということで、責任感じてしまう月路。

テスト勉強をしないといけないと気付いた月路は、美星の家まで行って、能率よく勉強ができるようにと軽い夜食を作った後姿を消す…。そして…。

どうにか、赤点は逃れた…のだろうか?


今回、やっぱり暗記物と英語がきつかった…


英語31点…

本当に危なかった…



本日終えたばかりのテストは返ってきてはないけど、なんとかなりそうだろうか?


こんな日なので、目にクマがある…かもしれない。



今日は卒業アルバムに載せる部活動の写真を撮るらしいので、園芸部は花園に集合することになっている。


俺はそこでとんでもないことを目の当たりにする。



そこにいたのは日芽子と…



「オヤジっ!!」



俺は思わず飛び出しかけたが、いきなり後ろから何者かに掴まれた。


「シ―――っ!」


誰かと思ったら、この間見た留学生?候補?だった。


「離せよっ!」


俺はそいつに掴まれたまま、ジタバタしていた。


「コウシテミルト オニアイノ カッポーネ」


「だから許せないんだろうがっ!」


「ソウネ ワタシモ クヤシーネ」


「だろ?わかったら離せ!」


「シ――――ッ チョット マツネ」


その時だった。



“パシャッ”



あ…


シャッターを切る音がした。



「え…?」



「ああ、今すごくいい顔していたので、つい…。」


「もう、おはずかしいです…」


パシャパシャ


「あ、その顔もいい。」



オヤジはもう遠慮なく日芽子を撮り続けていた。

これすごくまずい…

あのカメラを使って、今まで何人の女が騙されてきたことだか…

だから、何としても阻止しないと…



次の瞬間。


パシャッ



「イェーイ」



いつの間にか、例の留学生候補が日芽子の背後から巻き付いて、Vサインして、日芽子と一緒に写真を撮られていた。



「ああ!」



しかも、留学生候補はオヤジ以上に日芽子にとんでもないことをしていた。


「お前!なんてことするんだー!?」


「?」


「この人に気安く触れるなー!」


俺はオヤジがいることすら忘れて、すごい勢いで怒っていた。

俺は日芽子に出会ってから、ここまで馴れ馴れしく密着してる男は見たことはなかった。


「ドーシテヨ? ヒメコ キレイ ヒメコ ステキ コンナニイイジョセー ホッテオクコト デキマセ―ン」


こいつそこまで言い切っていた。


「おい!お前!日芽子先生だろ!?留学生なら先生を呼び捨てにするな!」


「それ、いつも私が言ってること…」


「オーノー ワタ―シ リュネンセー デハ アリマセーン」


「留学生な…」


留学生を留年生とか…

ここまで日本語を理解できてないとなると、彼は確かに留年生かもしれん。



「あのね。リトナン君は、今回園芸部のボランティアに立候補してくれた方で、私と同い年なの…。だから留学生ではないわ。」


日芽子と同い年だと?

留学生じゃないから、呼び捨て呼びがありだとー!?

すっげー羨ましすぎる――――!

俺と変われや。ボランティアA!

それにしても馴れ馴れしすぎやしないか?



俺はめちゃくちゃ悔しかった。



「絶対許さん!日芽子から離れろ!」


「オー ヒメコ コノヒト コワイネ」



「えっと…、春風先生と言いましょうね…」



いつも通り日芽子が俺に注意した時だった。


「先生。この子ですかね?いつも先生のことを、呼び捨てで呼ぶ生徒とは?」


この声…

俺は重要なことをすっかり忘れていた。

ここには…



「お、オヤジ…?」


オヤジがいたんでしたー。


振り返ればオヤジがニコニコしながら、俺を見てる…

これ、絶対内心は怒ってる顔だ…


「え?あの…」


俺はすかさず逃げようとした。

ところが俺は瞬殺で捕まってしまった。

192センチもある大男に毎度叶うわけがない。


「まさか、お父様で?」



「ども。1年D組大空美星の父です。」



「え――――――っ!」


この場にいた全員が呆気に取られていた。


「みほしー。お前のせいでこんなにでかい子の子持ちだってバレちゃったやんw

まぁ俺が二十歳の時の子だから、しゃーないわなw

俺も今年36で、先生とはちょうど一回りも違うんだよなぁ。ホント年取るのは早いわー。」


そう、俺はおやじが二十歳の時の子。

おまけにオヤジがどう見ても20代後半にしか見えない若々しい見た目で、俺らを見る人見る人、ホント驚いていく。

中学の時から、俺とオヤジは親子というより、兄弟にしか見られなかった。


実はオヤジの歴代彼女ですら、俺が弟ではなく実子だということに気が付かない人が多くて、ほとんどの人が騙されていた。

そして俺の家は父子家庭で母親はいない。だから、むしろ兄弟に見られる方が自然だったりする。


「まさか、スタジオオリオンさんが美星くんのお父様とは思いませんでした…。ごめん美星君…一応名指しでは言わなかったんだけど、つい会話の流れで…」


俺のオヤジはカメラマンであり、スタジオオリオンの経営者でもある。

今日みたいに近辺の学校とかの集合写真や卒業アルバムなどで活躍している。


「ホントうちの愚息が、大変失礼なことをいたしまして、申し訳ございませんでした。ほら美星も謝る。」


ああ、日芽子の前で愚息呼ばわりされてしまった。

おまけに無理やり頭下げさせられた。

それでも雷が落ちるよりかはマシか…。


「せっつぁーん」


オヤジをそう呼ぶ聞きなれた声が聞こえてきた。


「ああシグ、もう終わったんか?」


父の仕事で相方の時雨くんだ。父の高校での同級生でもある。

彼が大学生の時、就職先がなかなか決まらず彷徨っていたところを父が拾ったスタジオオリオンで唯一正規で雇っている人である。本職は事務経理担当なのだが、こうして現場に来ていることもよくある。


「いや、それが忘れ物しちゃって。あれ?そっちの美人さんは?」


ああこれ…時雨くんまで、日芽子に?

もう、ライバル増えすぎだ。あと俺の担任の夏目も狙ってるんだっけ?

ホントにイヤになる…

はっきり言って、この中で一番不利なのは俺じゃないか。


「おいオヤジ。」


「ん?」


「あとで俺と日芽子のツーショット写真ヨロ。」


「!!?」


「あいつばっかりずるい!」


あのリトナンとかいうボランティアヤローを指さして言った。

久しぶりに顔を見たオヤジに、今日ばかりは思いっきりわがままを言ってしまった。


「ふーん…。ま、いいけど…」



この時、俺はオヤジの笑顔が微妙なニヤ付き顔だったことに気付いた。

ああ。これはやっぱり気づいたのだろうな…

それでも一枚でもいいから、日芽子とのツーショット写真が欲しい!

というか今、絶対的にそれを撮っておきたいと思った。


それほどまでに、日芽子はきれいすぎる…


だからこそなのか、何なのかよく分からないけど、今撮っておかないとずっと後悔しそうな気がしていた。



撮影はまず、全員集合写真からはじまった。

最前列センターに日芽子と桜野先輩が並ぶと聞いた時。「なぬ?」と思ったが、それはどうしてもずらせない位置らしい。じゃあ反対側の隣がいいと希望しても、前列は3年生優先らしい。で席が空けば、センターではなくサイド側で、下級生が入れる可能性があると聞いたけど、それじゃ意味がない。諦めて、リトナンと右後ろのサイドに並んで撮影した。


って?なんでリトナンやその連れ2人まで、最後列のサイドでちゃっかり映ってるんだ?こいつら留学生でもないのに…


「はい撮りますよー」


もう撮影寸前まで誰も何も言ってない様子なので、そのまま写真を撮った。


そして、各自作業している様子を撮影。

これも3年生メインで撮影される。他学年はあくまで脇役で写っている程度だ。

つまり、俺はすでにいてもいなくてもいい存在。


だが、あさってにあるバザーに備えて、園芸部も準備をしないといけないわけで、その作業のため部員は残ることになっている。


撮影は全部無事に終わった。


約束通り、最後に日芽子とツーショットをオヤジに撮ってもらった。



あれだけ堂々と写真を撮っていたというのに誰も何も言われなかったことを不思議に思っていたが、その原因はすぐに分かることになる。


「まさか、ずっと学校に来ている写真屋のお兄さんと大空くんが親子だとは思わなかったよ。」


と桜野先輩。


実は俺らがここで、わちゃわちゃ言い争ってる時点から、みんなその近くで勝手に集合していたそうだ。そしてその様を部員一同で、一部始終みていたとのこと…


じゃあ、俺が日芽子に頭下げていたところも見られてたってことじゃないか…

恥ずかしい…


「親子だからね。」って感じで、誰も何も言わなかっただけらしい。

それもそれで、なんか恥ずかしいな。

ホント、ガキみたいなわがままを言ってしまったなと今更ながら、恥ずかしくてたまらない。

そして桜野先輩は俺の気持ちを察したのか、


「そんなに恥ずかしがることではないよ。たまには親に甘えてみるのも悪くはないよ。

俺、父さんとは滅多に会えないから、ちょっとうらやましかったとは思えたけど。」


聞いたところ、桜野先輩のお父さんは航海士らしく、あまり家には帰ってこないらしい。

そりゃ俺のオヤジよりも、家に帰ってこないのも当然だ。

正直、俺の場合はオヤジが家にいてもいなくてもどっちでもいいのだが、そういう気遣いはなんか助かる。


俺は桜野先輩のおかげで、気を取り直すことができた。

やっぱりこの人、思っている以上に大人だ。

この人も微妙にライバル視していたけど、こんな俺にも気遣いできる優しい人に日芽子をとられたとするなら、他の奴に取られるよりかは、桜野先輩なら納得はできる気はした。



桜野先輩のおかげで、オヤジとの件も特に気にすることもなく、バザーの準備の手伝いをすることができた。


そして下校時間…。


同じ園芸部員で、同じ方向に帰るものは誰もいないため、一人で帰るのが当たり前。


でもやっぱり、ここ最近は違和感だらけだ。


なんか視線を感じるのだ。そして気が付いたら、微妙に何かいるような音はやっぱり聞こえる。

真理の言う通り、変なギャング団みたいなものが、やっぱりまだ学校にいるのだろうか?

真理は見たとは言っているが俺は見たことがない。


それに、こんなに遅い時間だというのに、まだオヤジが校内にいた。

さっき、誰かと一緒に校舎内に入っていったところを見た。

でも、それが誰なのかは見えなかった。これ以上学校でオヤジと接触する気はなかったので、俺はそのまま帰ることにした。


それがまた、イヤな再会をすることになるとは…思いもしなかった。


早く帰って、シャワー浴びたいと思って、アパートの前までやっとたどり着いた時、そこにいたのは…


「はい…契約の方向で行きたいと思います。」


40代後半ぐらいの中年女性と俺と同い年ぐらいの少女が、ここのアパートの大家さんと話していた。どうやら、新入居者が来るらしい。

どんな人が来るんだろうと思って顔を見たら…


俺の体は震えるほど…できれば、見間違いであってほしいと願うものを見た感じだった。

思わず、その場に座り込んでしまうほどだ…。



そこへ…


「美星!どうしたんだっ!?」


オヤジも帰ってきた。


オヤジの声に大家さんもさすがに気が付いて、


「おや?大空さんじゃないですか?あ、紹介します。ここの102号室の大空さんです。

あれ?どうされました?」


そして大家さんはさすがに俺が座り込んでいることに気が付いて、すごい心配している状態だった。


「あ―――!大空くん!」



どうやら、あっちも俺に気が付いたようだ。


赤坂色羽

俺の中学の時の同級生。真理の友人の一人だ。


俺はこいつを見て、あの時のトラウマがよみがえってきた。



色羽は俺とオヤジに近づいてきて、


「その節は、うちの姉が本当に申し訳ございませんでした。」


と真剣な顔で土下座して謝ってきた。俺が座り込んでいる体勢だから、俺より頭を下げるということはどうしてもそうなる。

態度からして、色羽の気持ちは本気らしい。

そう本当に問題だったのは、色羽本人ではなく、色羽の姉呉羽の方…。


赤坂呉羽

色羽の姉。俺をある意味共犯者にしようとした女。現在19歳。

青柳麗と違って、あれから一切付きまといはないが、思い出しただけで腹が立つ女だ。



ちなみに姉妹で顔は全く似てないが、それでも俺は色羽を見ただけでも、呉羽のことを思い出してしまうぐらい赤坂姉妹のことは嫌いだ。



「大空さんって?まさか…」


「なんで…?なんでここにいる……?」


「美星、どうした?大丈夫か??いったい何があったんだ?」


そうだな。

この中で、身内で唯一事情を知らないのはオヤジだけだ。


でもやっぱり、この事情はオヤジには話したくない。

青柳との黒歴史もすごいイヤな思いをしたが、赤坂の方も大概だ。

あの時、オヤジにはただでさえ青柳の方でがんばってくれたというのに、今度は赤坂の件まで、心配かけることはさすがにできない。



「とりあえず、お嬢ちゃんは顔をあげようか?」


「本当にごめんなさい。大空くん傷つけてしまったのは、私のせいです。」


「何があったんだ?」



オヤジは色羽から、事情を聞こうとしていた。


「もう、やめてくれっ!」



俺はもう、これ以上思い出したくもなかった。

俺は、全無視して部屋に戻った。


そのあと、30分ほどオヤジは帰ってこなかった。


やっぱりあの話…オヤジも聞いてしまうのだろうか…?

ホントはそれを阻止したい思いはあるものの、今の俺にはその気力すらなかった。


ああもうどうでもいい…



……俺に何があったかといえば…


俺は中2の時…

赤坂呉羽から共犯にされかけた。


あれはさすがに恐ろしかった…。

ちなみに俺のあとにも2人ほど、呉羽から被害に遭っていたらしい。

そしてその問題は、俺らとは全く関係なく解決したと赤坂の両親から聞かされていたが、一応は命まで関わっていた問題に共犯にされかけるのは、さすがに怖いものある。

最悪、一生十字架を背負うことになっていた。

あの時のことを抱えたまま、まともな顔して生きていけるとは思えなかった。


それもあの時丁度、青柳の件がやっとまとまりそうだった寸前の時期だったので、本当にヤバかった。


こんなこと、絶対に親にはバレたくないものだ。


でこいつらの滅茶苦茶騒動に巻き込まれた後に、俺をなんとか癒してくれたのは、鈴々だった。


あの後、やけくそになっていろんな女に手を出していたが、日芽子と出会って考えが変わった。さすがに今のままではダメだと気付いて、見境なしな行動は落ち着いてきた。


オヤジ…こんなひどい息子でごめん…



玄関が開く音がした。



「…」


「…」



オヤジは部屋まで入ってきた。

すごく険しい表情をしている。


ああこれ…

絶対殴られると覚悟した瞬間だった。


殴られはしなかった…


というか思いっきり抱きしめられた。



「美星…」


「?」


「ごめんな…辛いことを、一人で抱え込ませてしまって…」


オヤジは何も言わなかった。

何も聞かなかった。

オヤジはただひたすら、俺の頭を撫でてくれた。

俺はオヤジの胸でめいいっぱい泣いた。

この年で泣くのはものすごい恥ずかしいことだが、もはや涙なしではいられないぐらい辛かった。


あとで少し話を聞いてみたら、赤坂の両親は離婚したそうだ。

そこで、引っ越そうとしたのがこのアパートの204号室だったらしく、俺が帰ってきたところで契約を決めていたところだったらしい。

だが、このアパートにはすでに俺たち親子が住んでいることを知って、他をあたることにしたそうだ。


そして今は赤坂ではなく「薄紅色羽」という名前になったらしい。


「一応、部屋契約をする前に解決できてよかったな。」


ホントそれだ。

あの時、俺とオヤジもあの場にいなかったら、あのまま部屋は契約されていたこと考えるとやっぱりお互い気まずいだろうから、ここで別れるのが妥当だったと思えた。


これからは、アイツも呉羽に縛られない人生であることを願う。

俺にはもう関係のないことだけど…



「まぁ今日はなんだ。どこか食いに行くか。」


「いいの?じゃあ和心食堂いきたい!」


「おまえ結構、渋い場所を知ってるんだなぁ。まぁいいか、そこは俺もお気に入りだ。」



今日は和心食堂に食べに行った。


今日ぐらいはオヤジと一緒に夜が過ごせそうだと思ったけど、仕事が残っているとかで、食事をしたら、すぐに仕事場まで行ってしまった。


まぁいいか


今日は、いつもよりいっぱい親に甘えられたから。

こんな日は珍しい。

俺も今夜はゆっくり寝ることにした。





そして、来るは金曜日。PTA主催バザーの日。

茶道部、料理部、手芸部、文芸部、園芸部といった主に創作クラブからも、店を出すいう結構大掛かりなイベントの日だ。意味合い的には、文化部の学生は地味に部費を稼ぐことが目的である。

そのため、年によっては演劇部による大道芸や落語、占い屋などの催し物もたまにある。何らかの芸達者の生徒がいた年はそこでおひねりをもらうシステムである。



俺はまたここで、意外な人物と再会することになる。


「美星さん。」


これもまた久しぶりに聞く声である。

以前よりかは、ずいぶんと大人びた話し方ではあるが間違いない。

ふと振り向けば、


「四季子か」


紫藤四季子

12歳。現在中学一年生。小学生の時に付き合っていた俺の初カノだ。


は?ロリコンヤローだって?

人聞きの悪いこと言うなよ。彼女とは公園いったり児童館いったり、時に図書館で勉強会してただけで、極めて健全な付き合いだ。

一応、一回だけ遊園地に行ったり、クリスマスのイルミネーション見に行ったりしたことはあったが、本当にそれまでの付き合いだ。


それ以上の文句は誰にも言わせない!


それで俺が中学生に入ってすぐぐらいに時間が合わなくなって、自然消滅してしまったけど、こうして顔を合わせれば挨拶と適当な会話ぐらいはできる関係だ。



それに…俺と離れて翌年の年に…


「そういや最後に教育実習生好きになったとか言ってたけど、どうなった?」


そう、この子と付き合ったのは四季子からのアプローチだったので、俺から付き合ったわけではない。そして、会話でもわかるように四季子はホントに年上好きだ。


「もう、聞かないでくださいよ。無理でしたよ。」


「ほー、お前でも落とせなかったか。」


「10年したら考えてもいいとか言われちゃって、そこまで時間が過ぎてからじゃやっぱり無理だなって思ってね。」


俺はまた、いじわるにもそんなことを言ってしまったが、


「相手がまともな大人でよかったな」


と今度は思ったままの感想を言ってみた。


「うん、今冷静に考えてみたら、当時の自分もやばかったかもしれないと少しは反省した。」


なんだかんだ言って、四季子は俺が今まで深く関わった中で、一番最年少ではあるが一番しっかりした女の子だとはいえる。


「で?今は彼氏とかは?」


「いないかな…」


ふーんと思ったが、やっぱりこの子は手放さない方がよかったのかな?とさえ思える元カノだ。

何せあの時、四季子さえ手放さなかったら、あの後、青柳と付き合わなくても済んだのだから。それを考えると四季子は本当に分岐点の鍵みたいな存在だったよな。

相手がまだ小学生だっただからと言っても本当に侮れない存在だった。


「実はね。私2か月前ぐらいに3年の先輩に告ってふられてしまってね。」


「また年上かよ。」


「もうしばらくは、恋愛はいいかなって。」


「へぇー」


「もう中学生だし、勉強に部活も頑張らなきゃだし。」


ホント四季子はしっかりしてる。

年相応に自分がやるべきことが、分かっているところがすごい。


「四季子も大人になったな。」


「もう、からかわないでくださいよ。」


とりあえず俺は、初めての彼女が四季子で本当によかったと思っている。

ちょっとおませで年上好きだけど、そこは愛嬌として許せるレベルだ。



「あ、ナノカちゃんだ。」


四季子が見た方向には小学生の低学年ぐらいの小さな女の子がいた。


「誰?」


「ああ、去年同じ通学班にいた子でね。私が6年であの子が1年でペアだった子ね。

本来は隣の通学班にいた子なんだけど、そこの班長とそりが合わなくてね。途中から私の班に来たの。」


「え、それって?よほどのことじゃないか?」


「だから、どれだけ問題ある子かと思ったら、全然喋らないおとなしい子でね。

気質から考えてみれば、隣の班長の男子が相手だと合わなさすぎかもとは思ったのね。」


なるほど、そういう意味でも班変えしてしまうことがあるわけか。


「それにしても、小さい子がこんな遠いところにまで来てるなんてね。」


そう、俺は中学の時かなり問題を起こしてしまったので、なるべく人が選ばないような学校で、なおかつ比較的離れた学校を選んでいたので、引っ越す前にいたところからは、割と離れてはいる。言われてみれば、不自然だ。



「ちょっと挨拶してくるね。」


四季子はそのままナノカの方に行ってしまった。


あの四季子だったら、そういうおとなしい子とも、うまくやっていけるのだろうな。


と思っていた時だった。



「うふふふふ。もう、そんなこと言って、お上手なんだからぁ。」


日芽子の声が聞こえてきた。


その声がする方向を見ると、日芽子は年の頃なら30代前半か半ばぐらいのビシッとスーツで決めた男と談笑していた。おい、またライバルかよ!?

と思ったら、このバザーはほとんど父母向けのバザー。

あれぐらいの年の男なら、ギリ父母でもいける容姿だろう。

何せ、あれより若く見えるサンプルが身内にもいるのだから、ありえなくはないであろう。だから、この学校の誰かのオヤジであるかもしれないわけだ。


だとしたら、考えすぎか?


いや、あれだけ日芽子と仲睦まじくしゃべっているのは、やっぱり我慢ならん。



やっと話が終わったかと思ったら、



「あ、美星くん。この人もお花買っていくみたいだから、花束お願いできるかな?」


いつも通りのその黒い瞳で、お願いされてしまった。


もう


ホントこの人はずるい!


そんな瞳でお願いされたら、俺が断れなくなるだろうが。


天然なのか?それ分かってやっているのか?

ほんっとずるい!


俺はもう、やけくそになって適当ブーケを作り上げた。

おっさんは俺のセンスのなさに目を丸くしていたが、知った事か!

俺の日芽子と長々と親しくしゃべっているが悪い!


そう思いながらも「ありがとうございましたー」と雑対応して、おっさんに花束を渡した。


「ありがとうございました。」


と隣で俺と一緒に応対してくれたのは、


「大空くん。もっと丁寧に対応しようね。お客様なのだから。」


桜野先輩だった。


今日、久しぶりに見た四季子を見ても思ったのだが、俺もせめてこの人ぐらいには大人になりたいとそこで思えた。


簡単にヤキモチを焼いてしまう。そんな俺はさすがにガキっぽい思った。


そしてそんな様子もしっかり見ていた日芽子からも、


「そうよ。人を大事にすることは、自分も大事にされることにつながるのだからね。」


とまで言われてしまった。

やっぱり、もっと大人にならないといけないと改めて思い知らされた一言だった。





そして、このバザーで奇妙な行動をしてるものがいた。



さっき、四季子から話題に上がったナノカという少女だ。



なぜかは謎なのだが、さっきから何やらメモみたいな紙を、ランダムに人のポケットの中に入れていた。


そして、ナノカは日芽子には直接それを渡していた。


日芽子はそれを開いて読んだ途端、慌てて校舎の方へとかけていった。


なんなんだ?



そしてナノカは、今度はこっちのほうに近づいてきた。



え?今度は誰だ?



と思ったら…



何と俺だった…



「…」



ナノカは黙ったまま、俺にメモを差し出してきた。

どうやら受け取れということらしい。


俺はそれがなんか引っかかって、しばらく受け取らずにいたが、ナノカは俺が受け取るまで、そこから離れないらしいということは察した。

そして、ナノカの瞳も日芽子ほどではないが黒系だった。


仕方なく、そのメモを受け取った。


そしてそのメモを開いてみてみると、



“うしろ”


とたった一言。


言われるがままに後ろを振り向いてみると…


約30メートル先に青柳麗がいた…


俺は顔が真っ青になって、その場から高速で逃げだした。

俺は思い出した。

そういえば、この間の休日当番の日にファミレスで青柳に出くわした時には、制服着ていたということを。それで制服を調べてここまで来たということか…。


そして、校舎に逃げ込もうとした時だった。

全く違う方向からも二つの影が現れた。


都築と遠藤だ。


「え?」



俺たちはお互いにそう言って校舎に逃げ込んだ。


そして答え合わせをすると…



“あおやぎ”

“にげろ”

“うしろ”


と各自、全然違う言葉が送られていた。


「なんなんだ?」


不思議なこともあるもので、


「おい、ホントに青柳いたよな?」


「ああいた。マジで焦った。」


「で?あの女の子、誰だか知ってる?」


とはいえ二人ともやっぱり知らないらしい。

俺は一応、少しは知っていたが、あくまで又知り合いなので、正直分からないに等しい。


「どうしよう?」


「はっきり言って、もう戻れないよな。」


「俺、桜野先輩に相談する。」


とりあえず、俺は桜野先輩にnineで相談してみた。


“うん、確かにいるね”


という返事だった。

確かにボサボサ頭によれよれの服を着ている怪しげな特徴のある女を言えば、誰もが分かるほどだ。


“ちょっと文芸部の部長とも相談してみるね”


だった。


何だろう??

どうするんだろう?


俺たちはしばらく待ってみた。



“大丈夫。多分もう学校には来ないと思うよ。”


“今、帰っていった”


“あと30分ぐらいしたら出ておいで”


とのことだった。


て、あの青柳をどうやって追い返したんだろ?あの人?


桜野先輩も本当に不思議な人だ。。

最近、俺の周りで不思議な人多すぎないか?



どうも後で話を聞いたところ、桜野先輩は青柳には、俺は学校をやめたとウソ情報を伝えたらしい。


なるほどね。学校をやめたと分かると来なくなるわけだ。


多分まぁ、これでしばらくは来なくはなると思うけど、その嘘がバレたら再発はするよな。とりあえず応急処置は取ったという形か…。



次にあった時こそが怖いかもな…



一応今回は、あのナノカという女の子のおかげで命拾いした。


戻ってからも、俺は四季子とナノカを探してはいろいろ聞こうとしたが、もうすでに二人とも見あたらなかった。

仕方がないから日芽子に、ナノカから何を指示されていたのか聞こうとしたけど、日芽子すらいない。

更に桜野先輩のポケットに何か入ってなかったか聞いてみたけど、桜野先輩はなかったという。

残念なことに、ナノカが誰のポケットにメモを入れていたかということも、さっぱり覚えていない。


ホントに不思議すぎる話だ。




そして俺は…この夜…もとい夕方、さらに不思議に思うものを目の当たりにしてしまう。


本日金曜日。

俺はこの週から、金曜のバイトのシフトを入れるのをやめた。

何となくだがそうしないと後悔しそうな気がしていた。


バザーに誘ったはずの月路は現れなかったので、また夜の街で月路を探そうと思って出かけた先で…


何と月路が花束を持って現れたのであった。

それもその花束は俺があのおっさんのために作ったあの適当ブーケだった。



「おいお前、なんでその花束持ってるんだよ?」


とホントに思わず聞いてしまった。

何にしてもだ。その花束を売ったのは俺で、買ったのはあのおっさんだ。

それをなんで今、月路が持っているのかがすごい謎だ。



月路も月路で困った顔して…



「まぁいいじゃん。なんか無駄にでかいけど…よくね?」


としか答えなかった。

無駄にでかくてよくね?って…

なんだよ?それ?


それ、俺が何も考えないで作った花束で…

とはいえ、それを嬉しそうに抱えている月路を見て、「ま、いっか…」とさえ思えていた。


「そんなことよりさ、ちょっと買い出し付き合ってよ。」


「は?」



本日、連れていかれたのは普通のスーパーだった。



なんでこんなところに??

とかなり疑問だったが、ホントにただ食材を買い込んでいる状態だった。



でもって、女の買い物に付き合ったとなると、


「ごめんね。いろいろ持たせちゃって。」


結局こうなる。

その例の花束をずっと月路が抱えているせいもあるが、重いものは全部俺が持たされている。


いったい、これをどこへもっていくのやら?と思っていた矢先に…



「ああー!みつけたー!」



その声は…



「ああ、この間のパシリン君?どうしたの?」


そう目の前にパシリンが現れた。


「ああー!この間のお姉さん!」


「こんばんは」


こいつらはもう、完全になれあっている…。


「じゃなくて、用があるのはそっちのお前の方!」


「は?」


俺はいきなりパシリンに指名された。


「お前、この間リーダー倒しておいて、知らん顔してる嫌な奴だと聞いた!だからリベンジするとリーダーが言ってる!だから、俺について来い!」


うわっ、こいつカツアゲ未遂犯じゃないか。先週、うまく逃げたつもりだったけど、やっぱり気づかれてたか。


これはまずいぞ…。


あ、でも…


たおした?

知らん顔?

リベンジ?


というか俺、お前らにカツアゲされそうになった被害者なだけで、何もしてないぞ。

そもそもこいつら倒したのって…




月路じゃないか!?




ここははっきり言わないと


「あのな!誤解してるようだけど、お前ら倒したのは俺じゃなくて…」


あれ?


俺はこのまま「月路だ」といえなかった。


なぜなら、そうしてしまうと俺が月路から助けられてしまったということになってしまう。それがバレてしまうと同時に、標的が月路と変わってしまうではないか。


そう考えると事実が、とても言いづらくなってきた。


「まぁ…俺ってことでいいや…」


そこは諦めるしかない、そう思った時だった。


俺の背後で…


“ドカッ!バキッ!”



鈍い音がした……


振り返ると


「ってぇ…」


「お前!俺の………になんてことしやがるんだよっ!!?」


リーダーと言われている男が倒れていた。

そして、月路がリーダーに向かってキレていた。


「ふぁ?」


「!!?」



今、俺のなんて言った?さっぱり聞き取れなかった。


どちらにしても、その部分は反応的にここにいる誰もが聞き取れてなかったのであろう。



「こいつに触るな!」



と今度は後ろを振り返って、俺の背後にいると思われるパシリンを睨みつけていた。


「ひっ!」


俺も振り返って驚いたが、パシリンはあと3センチほどで、俺に触れそうになっていた状態のまま固まっていた。


それにしても、すごい覇気だ。


そういえば、以前も月路の一人称が「俺」だったことを思い出した。

その時はまともに姿を見ることができなかったから気づかなかったが、この豹変ぶりはまるで別人のようにしか見えない。


「…」


「…」


「…」



しばらく、誰も言葉が出なかった。



「で?お前らどうしたら気が済む?何が要望だ?」


その沈黙をやぶったのは月路だった。


「…俺をコケにした、そいつへのリベンジだ…。」


ホント不良の恨みって単純すぎる…。


「たったそれだけ?」


というか、もとはといえば、カツアゲしてきたお前が原因だろっ!


「俺らがあの日、3人そろって倒れているところをトミーさんにまで見られた。」


「トミーさん?なんか関係ある?」


「あの人にそんなところを見られたとなると、この地域での俺らのカースト順位が思いっきり落ちるんだわ。」


地域カーストって?知らないところで、そんなものが存在していたのか?

だからといって、そんな影響あるとか?俺的には信じられなかった。


「なるほど。お前らにとってそれが命がけってわけか…。」


不良に限って、そういうくだらないことにしがみついて拘るわけだ。


「で?カツアゲした理由も金銭的な面で余裕ないとマウントもとれないからか…。」


月路が問いかけたことは、こいつらにとって全部図星らしい。

ホント迷惑な話だ。

というか、今どき不良なんて化石みたいなものだというのに、未だにこんな恥ずかしいことをするとは…


「で?お前、いつまで暴力だけに頼るつもりだ?このご時世だと、そのうち捕まるけど。」


月路。それお前にも言える事ぞ。


とはいえ、この件に関しては月路を含め、全員そんなことは分かってはいるらしい。

それでもやっぱり、こいつらには不完全燃焼みたいなモヤっとする思いが残っているのだろう。


「よし!じゃあ、来週の金曜日18時。対戦場所はサバイバルセンターでどうだ?」



何を言い出すか思ったら…売られたケンカを大マジで買ったんかよ!?

それもサバイバルセンターって?ミリタリー好きたちがサバイバルごっことして愛用している遊び場じゃないか?

そんなレアな遊び場を知ってるお前はいったい何者なんだ?


「あ?なんだそりゃ?」


「今時、普通にケンカ勝負はさすがにまずい。こっちで手を打たないかと言っている。」


「……つまりは…そっちで勝負ということ…?」


「そういうことだ。悪くはないだろ?」



「…」


「…」


「…」


「…わかったよ……」



え?こんな交渉の仕方、ありなんか?


「よし!じゃあ、お互いメンツは5人までということで。それでも集まらないなら4人でもいいんだけどさ、当日人数は平等にいきましょ。それまで勝負はお預けだ!」


ってここまで、俺の承諾は一切なしかよ?


「でいいよな?」


そう思ったとたんに俺の意思を聞いてきよった…


まぁいいけどさ…避けられそうもないしな。


こんなこともあり、来週は変な決闘をすることになってしまった。




そりゃそうと…俺は今、無事に家に帰ってきてる。


それも月路と共に…


買い物は夕食の準備かと思ったら、まさにそうだった。

それもこの買い物は月路が家の人から頼まれたものかと思ったら…違っていた。


「前さ、冷蔵庫とか見てまともな食材がないと思ってさ、まともに食事してないんじゃないかって。今日もここでつくるから、ちゃんと食べなよ。」


ちょっと待て。

今までこんなに都合がよすぎることをしてくれるって…なんだ?




こいつ俺に気があるのか…?




「あたし作ってるから、先に風呂入ってきたら?」


風呂って?



え?



「ん?汗とか、かいてないの?」


あぁこんな季節だし、帰ったらシャワーぐらいは浴びたいものだ。


「大丈夫だって。毒なんかいれないから。」


「入れんなや!」


月路はくすっと笑う。


「…あ、じゃ入ってくる…」



なんか、こんなにも早い展開で…?

夫婦みたいになるオチ…?


イヤ、それもなんか違う気もする…


なんなんだ?あいつは?

ホントにいちいち調子が狂う。



風呂から上がると…月路の姿はなかった…


って!またかよ!?



もう、少し目を離した隙に月路が消えるというオチ…もうお約束になっているではないか?


「!!」


と思ったら、余計にとんでもないことになっていた。



何とオヤジの部屋の戸が開いていて、そこへ駆けつけると…


「おい!」


月路はいた…


「悪いけど、そっちの部屋は遠慮してもらおうか?」


「ごめん…」


「ここオヤジの部屋でな。」


見ればわかるとおり、ズボラなオヤジなため、部屋は当たり前のように散らかっている。一応、そんなオヤジでも仕事場はなぜかきれいなんだけど、自宅の自室となると見事に性格が出る。


そして月路が…



「ねぇあれ…」


と指さした先は、開けっ放しのクローゼットの上の段にあるスルーピーという犬のキャラクター付きの箱だった。

ずいぶんと古いものだが、やっぱり女の子って、そういうキャラとか気になるものなのか?という気持ちもあるかもだが…


「ああ、あれもオヤジのだ。」


オヤジが持っているキャラものグッズといえば、あの箱ぐらいなものだ。だから多分、オヤジも別にスルーピーが好きってわけでもないとは思うが…


「事情は不明だけど、あれには触れないでくれ。」


「え?」


「理由は分からんけど小さい頃、俺もあの箱が気になって、開けようとしたところをオヤジに見つかって、めちゃくちゃ怒られたことがあってな。

それ以降、俺はあの箱には触らないようにしているからな」


「へぇーそうなんだね…」


そういうとちょっと寂しそうな顔をしている。

そんなにもスルーピーが好きなのか?


あんな古い箱。今更開けたところでなんも意味がないはずだけどな。

おまけにあの箱には、錠前がかかっていて3桁の暗証番号がわからないと開かないことになっている。


どちらにしても、俺では開かなかったということだ。



「あ、そうだ!そろそろできたかも。」



ホントせわしい奴だ。



「今日はカレーだよ。」



今日の飯は何かと思ったら、カレーかよ。

悪くはない。


どうも、月路は料理ができると見せかけて、結局は簡単料理しかできないというタイプか。


まぁそういうところも、かわいいっちゃかわいい。


「ささ、召し上がってくださいな。」


「お前は食べないのか?」


「私はちょっと片づけてくるから、食べてていいよ。」


「そうか…」



月路はキッチンへといった。


とはいえ、ここからキッチンはよく見える位置にある。


先週みたいに食べていたらいつの間にかに消えるなんてことがないように、しっかり目で追っておかないと、月路はまた消えてしまうのでは?と心配でならなかった。


大丈夫、まだいる…



いきなり消えるから、本当に月路は実は人間じゃないのか?とも思えていたが、普通に片づけはしているので、ホッとしている。


ずっとキッチンを見ながら食べて、にらめっこしているのだが…

ここはいたずら心でちょっと近づいてみた…



そしたら…



「なに?」



もう少しで触れると思った位置でいきなり振り向かれた。

なんだよ?こいつ?気配に敏感なのか?


「……えっと…おかわり…」


「あ、はーい」


なんとかごまかせた。

ホントにつかみどころがなさすぎる…

あの不良たちもこいつにはかなわないのも分からんでもない。



とにかく、今日という今日は月路を勝手に帰らせてはいけない。

とって食うのか?と言われればそれも違う。

今日こそはきちんと家まで送っていきたいと思っている。

多分そうしないと、月路の正体は分からない気がしてならないとこの頃からそう思えていた。


そして…


「おいこら!」


「え?なに?」


「また逃げる気か?」


「逃げるって?人聞きの悪い。帰るだけだよ。」


「ていうか、黙って帰るな!」


なんかいろいろ屁理屈言われているけど、


「帰るときぐらい挨拶ぐらいはしろ!」


である。

月路はまた少し考えこんで顔した後、


「それはごめんなさい。」


「分かればよろしい」


「では帰らせていただきます。見送りは結構です。」


「は?」



やっぱりそれかよ!?

この女、どうしても家まで送って行くことだけは、毎度頑なに拒んでいる。

そこがものすごく怪しい。


変な奴。

それでも俺は月路から目を離さなかった…


「そんなに見られてると帰れなくなるじゃない。」


帰れなくなるって?

なら泊っていけるものなら、泊っていけや!と煽りたい気持ちをここで辛抱して言わずにいたら…


「そうだ!じゃあさ、あたしもシャワー浴びてくるからさ。部屋で待ってて。」


「は―――――っ??」


シャワーって…それ…?


「絶対黙って帰るんだろ!?それ!?俺は騙されないからな!」


「逃げないって!もういいから部屋で待ってて!」



月路は俺を無理やり部屋へと推し込んだ。戸が閉まったと思ったら。


「いい?絶対におとなしく部屋で待っててね。」


とまた戸を開けたと思ったらそれだけ言って、

本当にシャワーを浴びだした…。浴室からシャワーの音がする。


…ちょまて……マジかよ…?


だとするなら、アイツ緊張感なさすぎないか?

俺の気持ちがここまでヤバくて、アイツなんであんなにも落ち着いていられるんだ?

今までどんな女でも、こんな時にここまで落ち着いた行動をしてる女など見たことがなかった。


多分のかなりの確率で、すぐに逃げると予想してだ。


もし、月路が仮に部屋に入ってきたとしたら、どんな顔で入ってくるのだろう?


こんな何も想定できないでいるドキドキする展開、マジで初めてだ。



一応、軽くシャワーは浴びて出てきたみたいだけど、ドライヤーの音も聞こえてはいたので頭も洗ったと思われる。そのあともなんかいろいろゴソゴソしていて、かなり待たされた。


さてはやっぱり逃げる準備でもしてるのだろうなと思っていたら…


ドアが開く音がした…。


マジか、ホントに逃げなかった…



「お待たせ。ちょっと支度してたよ。」


どこから引っ張り出してきたか分からんが、エコバッグを持っていた。

まず、それを机の上に置いた。


そして月路はにこりと笑って、俺に近づいてくる…


「…お前この状況、どういう意味か分かってるのか?」


それでも、月路は俺の方へと近づいてくる…。

それなのに俺は微妙に後ずさりしている…。


もう俺の方が、気がおかしくなりそうだ…。



この後…俺は………





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