3年後
あれから3年、今もふと蘇る記憶の数々。
初対面の女性と駅まで歩いた思い出はもしかしたら、僕の若かりしころ、幸せのピークを象徴するものとなるかもしれない―――
駅について再び泣きはじめてしまったカオリと一緒に電車に乗り、そのまま家まで送ることに。
電車を乗り継ぎ、首都圏から1時間ほど北上した片田舎。最寄り駅に着いてはファミレスで小休憩、早めの夕食がてら話し続けること数時間。さすがにころあいとなり、店を出てバイバイ。
周りを見渡すと、着いたときよりさらに暗く静まり返っていた。
カオリは泣き尽くしたことによる清々しい笑顔で手をふり、停めてあった軽ワゴンに乗り込む。父親らしき白髪混じりの男性がUターンしてその場を後に。
見送ってから一瞬帰る方向がわからなくなる。視界の半分は畑、平屋の工場といくつかの住宅を背に歩きはじめる。
休日には人で溢れるだろう駅前のターミナルはすでにまばら。駅ビルもいくつかの店はシャッターを下ろしていた。そんな中、登録したばかりのSNSが受信。やはり見かけた人は父親であり、心配で迎えに来てくれたとのこと。「つきあってるのか」などと聞かれて困ったなどとやり取りし、カオリがようやく落ち着いたとわかり安堵。
乗った電車で戻り、帰宅したのは夜中にさしかかる時間帯。家に着いてまもなく再び受信し、いい忘れたことでもあったのかと見てみると送信者は結那。
「あの人は新しい彼女?」
わけのわからない質問にどう答えようか考えるうち、ベッドに倒れ込んでいた。
夢うつつの中、結那の新しいバイト先が確かS駅周辺だったと思い出す。カオリと歩いていたのを目撃されたと気づいたものの、やはりどう返事すべきかわからず眠りについた。
それが結那からの最後の送信となった―――
「たとえば、ですけど……もし羽田さんが、ワタシのことを少しでも思ってるなら」
とある居酒屋。
毎年恒例の新入社員歓迎会。去年の僕らと違い今年は着慣れないパリッとしたスーツ姿が実に初々しい3人の男女。
乾杯早々、対面にすわる主賓のひとりである佐野真理亜とすっかり打ち解けて2時間あまり。時事ネタからエピソードトークまで話し尽きてはお決まりの恋バナ、そして突然のギアチェンジ。若いってすごいな……20代半ばにして若さを憂う今日このごろ。
「それは彼がいない、もしくは好きな人がいないっていう前提で、もし違う人から好意を寄せられたらっていう……?」
「はい。やっぱり好きっていわれたら、最初はそうじゃなくても思いはじめることもあるのかなって」
僕へのアピールではもちろんなく、僕の隣にいるイケメン男子へカマをかけているというのは、これまであまり恋愛経験がない僕でもすぐにピンときた。
「だとしたら、羽田さんはワタシのこと……?」
明らかに斜向かいの反応を気にしつつ、僕の目を純粋な瞳を向けるしたたかさ。ピエロにしかなりえないとわかっているのに、真面目に考えてしまう性分がほとほと情けなくなる。
「そうだな……佐野さんにそういう気持ちが少しでもあるとすれば、やっぱりこっちもそれなりに好意を寄せるかな」
相手への気持ちを残した微妙な返しをしたはずなのに、彼女はまったくのノーリアクション。会話に加わっていたとばかりお目当ての相手が別グループとの会話に移ってしまったためだ。
場はますますそっち側で盛り上がってしまい、僕らの話は単なる合コンの探りあいで終了。荒れ狂うかと思われた海原も何ごともなかった凪へ。
僕はしかたなく、話の切れ目と思しきタイミングで強引に割って入ると、
「え、それってハッシー的にどうなの。あ、ゴメン橋本くん。突然だけどハッシーって呼んでいい?」
去年同期入社の年下、橋本央士が赤ら顔でふり向く。色白の彼はアルコールが少しでも入るとすぐに赤くなってしまうタイプ。のらりくらりとした口調もあいまり、同僚からは“王子”として飲み会に欠かせなくなった存在。
目尻にシワを作ってクシャッと顔を崩し「イイっすよ」と笑う。
「その呼び方、何かキモッ」
真理亜は声高々に注目を引きつけては「ハッシーさんめっちゃ顔赤い」とさっそくあだ名で呼ぶと、それまで見たことのない満面の笑みで橋本を見つめる。
顔色について説明しだしてはじまった2人の会話を聞きながら、僕はふとアルコールを欲してしまい追加のジョッキをひとり頼んだ。
Bad ending of “Kaori & Yuna”




