5年後
あれからもう、5年の月日が経とうとしている。
いろんなことがあった。何から話せばいいだろう。
まずは結那。
あの日の夜にでもすぐに「この大根役者!」などと連絡してくれたほうがよかったけれど、そんなに都合よくはいかない。もとは恋人から友達への降格通知なのだから。
僕は変な自戒の念に苛まれ、よせばいいのに時折スマホを使って謝罪の弁を述べてみたり、駅前で偶然を装ってはご機嫌とりをしたりする日々。
しまいに結那から「もう会わないほうがいいと思う」とはっきりいわれてしまい完全に終了。半年ほどでいっさい連絡を取ることはなくなった。
次にカオリ。
あの日の偶発的できごとをきっかけに連絡先を得たわけだけど、しばらくは何も変わらず日々が過ぎた。
年末になってふとカオリにコメントを送ってみると、あたりさわりない返事がきた。期待以上に僕はうれしくなってしまう。
以来コンスタントにやり取りするようになってから数年。結那への未練もある中、何度か真剣にアプローチを試みたものの体よくかわされた。
カオリはいつでもカオリのまま。遠距離恋愛の絆はときに脆くときに強く、何か問題が起こっては別れる、それでも元サヤに戻るをくり返していたようだった。
せめて気軽に会うことや話すことはできないものかとかと考えたあげく、僕は仲のよい友人としてのスタンスを作り出す。
たとえば姉の出産祝いは何がよいかとか、今シーズンの流行りコーデとかを相談。それでカオリもだんだんと心を解いたというか、突然買い物につきあってほしいといってきたり、口コミでおいしいと評判のお店が本当においしいかどうか知りたいなどと誘ってくるように。
諸事情で偶然知りあった僕らは、諸事情を介することで関係をつなぎ止めた。
「どう、仕事は順調?」
「まあ、おかげさまで」
月に一度は会うようになっていた定例会のような食事。周りからすればどこにでもいるごくふつうのカップルに映るのだろうか。
今日は彼へのプレゼントを一緒に選んでほしいとカオリからいわれて半日ネクタイ選びにつきあった。そういえば去年もいろいろ見て回った記憶がある。
ここへきて本気で就職を志す僕に、カオリは惜しみない協力をしてくれた。上京まもなくいくつか働いていた中のとある海外ブランド営業職を紹介され、先月中途入社できたのだ。
カオリにはもはや頭が上がらない。これから何年かけてでも恩返ししたいという決意を新たにする僕。
それにしても、胸にネクタイをあてがうカオリにはどうしても憧れめいた錯覚にとらわれてしまった。
まだ見ぬ将来の家族像。
カオリがそばにいてくれたら、どんな未来が待っているだろう……彼への嫉妬心は少なからずあるものの、友人として静かにカオリを見守ってゆければと思う。
「はい、これ」
カオリは細長く薄い箱を差し出す。
「これって……さっき選んでたのだよね?」
驚きを隠せずにいる僕に「就職祝い。これから頑張るんだよ」とカオリは笑う。
「あの人にあうのがなかなか見つからなくて。そしたら、羽田くんにピッタリだと思ったから」
「……ありがとう」
ちょうどオーダーした品が届き、カオリは「しまってしまって」とテーブルを広げるよう促す。
僕はカオリにはまず報告しておこうと思っていたことをつい話しそびれてしまう。今後進展があるだろうし、次回会うときでいいと思ったのだ。
それからまた1年経った。
僕は今、同じ職場の先輩であり2つ下の人と正式につきあいはじめたところ。関係が密になってゆくのと比例してカオリとは極端に連絡が取れなくなった。最初は仕事が忙しいとのことだったけれど、だんだんと避けられているのがわかるように。
彼女と初めて迎えるクリスマス。
去年と同じように相対してプレゼント交換をすませたとき、カオリと最後に会ったときのことがふと頭によぎる。
ささいな表情の変化に彼女は何を思ったのか、一時期一緒に仕事して仲よくなったある女性のことを口にする。その人とはたまに連絡しあうようで、昨年末に8年越しの大恋愛に終止符を打ったらしい。
「私たちは、ずっといられるといいね…」
Bad Ending of “Yuna & Kaori”




