3カ月後
しばらくカオリが姿を見せることはなかった。
もちろん僕自身、本当に翌週に会えるとも思っていなかった。ただ予想よりはかなり長かったように感じる。
季節はすっかり梅雨。
最高気温は真夏日に迫り、S駅構内は蒸した空気がどんよりと充満。
何だか騙されたような思いで日々過ぎてゆく。それでも僕はいつのまにか、ハチ公のように意味もなく駅前をうろつくのが習慣になっていた。
最近は脇汗との戦い。
あれから結那の姿は一度も見ていないけれど、例の自転車は定位置に停められている。
まさかカオリは自分たち同様僕らの復縁を望んでいるのだろうか?
あのとき一瞬見せたカオリの表情を思い浮かべる。二度と会わない人に向けてしたのなら完全に確信犯。もしくは日常のよくあるできごととして忘れ去っただけか。
僕自身も半ばあきらめかけていたそのとき。
「羽田くん」
駅前でどこからともなく突然声がかかる。キャッチセールスや道案内以上に名前を呼ばれ、さらには聞き覚えのある声に僕は何が起こったのかすぐには理解できなかった。
再び目にしたカオリは抱いていたイメージを一新。
黒のキャミソールに淡いシアー素材のシャツを羽織った季節先取りの格好。前回よりかなり地元になじんだコーデに思える。
僕は長い間石膏のように固まっていた顔をようやく崩し、今一度頭からつま先までの容姿を見入る。彼女は僕の気持ちを察してか、時折目を伏せたり所在なげに体をぶらつかせたりしてはにかむ。
通行の邪魔にならないようメインの広場から離れるや、
「彼とは仲直り……した?」
ついに果たした再会。僕はいいたくてしかたなかったことをそのまま口にしてみる。それでもひどく冷静さを欠いていたのは何より、漠然とした未来の分岐点にさしかかっていると気づいたから。
「もちろん……」
カオリは僕の目を見ては何かひとつひとつを確認するように微妙に視線をさ迷わせる。
そしていいかけた言葉を飲み込むとすぐに、
「羽田くんは? 彼女とはあれから、どうなの?」
「えッ……」
質問を答えきらないうちから新たに質問を投げかけられ、思わず面食らう。
カオリの言葉の続きは復縁か別れ、場合によっては新しい恋のスタートをほのめかせると予想。
答えをはぐらかしかったにしろ、カオリの質問はかなりおかしい。僕の口からいわずとも、明らかな結論をカオリ自身現場に同席して知っているはずなのに。
「僕は……」
言葉を続けようとする僕を見たカオリはみるみる笑顔が消えてゆく。
いい終えてはまたいつかのように置き去りにしないよう、僕は素直な気持ちを打ち明ける。
「カオリさんを待ってたんだよ」
カオリは聞こえていないとばかり、まったく姿勢を動かさなかった。
僕はそんな言葉を吐いたことに我ながら信じられず、それならいっそ究極の理想を叶えてみようとゆっくり近づく。
するとカオリは抵抗と思しき前かがみになると、そのまま後ろへ向いて改札へ走り出した。
ただし前のときとは違う力ないスピードに、僕は小走りで追いかけつつなぜかホッとする。ただ背中からは近づかないよう制する圧力で満ちていた。
カオリは改札を通過するとゆっくりふり返る。表情はすべてをリセットしたかのようなすっきりとし表情。
一瞬思った。
改札をくぐり、カオリに今の気持ちを伝えたとしたら……?
そんな思惑をよそに、カオリは背を向け歩きはじめる。
僕はもう一度、これから何カ月とも知れない待ちぼうけを楽しむことを選んだ。カオリの後ろ姿からまた会おうというメッセージが込められている気がしたからだ。
おそらくカオリは彼と別れ、今日は僕に会いに来てくれた。僕の気持ちを確認するためだけに。
連絡先に匹敵する強い絆を得たと信じることにする。カオリはきっとまた会いに来てくれる。そのときこそ……
意思と反し、たちまちぼやけてゆく視界の中、改札の奥からカオリが再びふり向く。口元に手をあてがい何かを叫び、僕がうなずいたのを見たカオリは笑顔で手をふり人の波に姿を消した。
しばらく立ちすくみ、湧き上がる感情を噛みしめる。寂しさだけではない思いにどうしても涙が止まらなかった。
Happy ending of “Kaori”…?




