8カ月後
あのときの抱擁があったからこそ、今の僕たちは成り立っている―――
とはいえ以前とは違う感情の揺れ動きが邪魔をし、数ヵ月はつかず離れずのような微妙な関係が続くことに。
夏にはようやく2人で映画を観たり、買いものに出かけたり、シーズン真っ只中には花火を観に出かけたりして、ようやくふつうの彼と彼女として日々を過ごしてゆく。
そして気づけばすっかり肌寒くなったある日に急展開。
ファミレスでの食事中、僕が以前から思っていたひとり暮らしの決意が一大転機を迎える。
「わたしもしてみようかな……」
そのときは結那が気分に乗じて返事しただけかと思っていた。
けれどその日のうちに結那は家族にも伝え、唐突な発言は家族会議にまで発展する一大事になったらしい。
両親、特に父親が大激怒。そんなふしだらな娘に育てた覚えはないとして、その考えに至った理由、家を出てどうするつもりかなどと執拗に詮索。そこで結那は僕を引きあいに出し、話は余計混迷を極める(家族の反応をおおかた読めていたはずなのに、話を押し通す結那も結那)。
それにより、まずは互いの両親に交際を容認してもらうことからスタート。実際会うとやさしい印象で、終始和やかなひとときを過ごしてひと山を乗り越える。そうこうするうちすっかり話が変わり「2人一緒に住むなら」という条件下で了承を得る形となった。
住む場所を探しながら、指摘された経済的不安を払拭しようと互いに就職を果たした。
怒涛の8カ月。
僕自身、正直こんな未来が訪れるとは思いもしなかった。
それぞれ職種が違うことで勤務時間も違うため、最初からすれ違いの生活になったものの、休日をあわせて家具をあつらえたりと充実した生活を送っている。
今、僕の心の中にはある言葉が刻みつけられている。
いつだってやり直しはきく。
あのときカオリとS駅まで歩かなければ決して起こらなかったできごと。咄嗟の機転によるあまりにミラクルな展開には何より驚くばかり。
けれど先が見えない不安に慌てふためくだけでなく、決して後悔しないよう考えてみる。それは時折降って湧くささいな選択を迫られるときに実感。そしてどちらかを選ぶ際には、不動の芯と化した相手への思いに基づいた行動を取る自分に少し誇らしく思っている。
―――先ほど届いた結那からのメッセージ。
「今日は遅くなるから、ご飯は買って帰ってね」
来月は師走。
仕事は定時で片づけ、今日はクリスマスプレゼントを本気で決めるつもりだったので好都合。あらかじめ候補はいくつか選んでいたので、どれだけ店を回って実物を見られるか、そして値段。今年1年を締めくくるにふさわしいイベントにしたいのはもちろん、ふり返ったときにかならずよかったと思えるようにしたい。
僕は書類の束を持ち上げ、トントンとまてめてからカバンにしまうと、デスクから軽快に立ち上がる。
明日まず最初にすべきことを今日の仕事の残務と頭にインプットした僕は、赤鼻のトナカイを無意識に口ずさんでいた。
Happy ending of “Yuna ”




