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Scene.24「2人の世界」

 僕は途方に暮れつつも、今までの経緯は誤解のないよう説明すべきだと思い、走って後を追いかけた。


 それはくしくも過去の懺悔と重なった。ただし今回は興味本位とも呼べる、何をするでもない人間が本能の赴くまま取った行動に過ぎなかった。

 僕はただ単純に、これまでの経緯と彼に対して簡単な自己紹介を話そうと思っていただけ。


 すぐに追いつき、彼と目をあわせる。

 正直いうと、カオリの彼を見ておきたかった。遠くからわざわざ足を運んでまで思いを募らせる相手……いくらか軽やかだった足取りだったにもかかわらず、いざ2人のもとに辿り着く数歩前から急激に足が重くなった。

 それもそのはず、彼と彼女の世界において僕はまるで唐揚げやフライドポテトの山に添えられたパセリくらい邪魔者この上ない。

 さっそく彼からは刺すような目で睨まれる。


「何ですか?」

「あ、いや……その、僕は……」


 僕は一瞬で後を追ったことを後悔、いうべきことが頭から吹っ飛んでしまっていた。

 すぐにカオリがフォロー。


「この人は羽田くん。私が道に迷ってたとき、ここまでくる道を教えてくれた上にずっと案内してくれた恩人なの。そんな顔で見ないで」

「ああッ、そうだったんですね。本当にありがとうございました」

「いえ、それほどでも……」


 彼から敵意は消えたものの、カオリからも敬語でお礼をいわれ、この場にそぐわない空気をしっかり送られる。

 僕は苦笑いを浮かべつつ遠くへ視線を逸らす。するとちょうど駅前ターミナルのあるものを捉えていた。

 一定間隔で整然と並んで停められた自転車。その中にひときわ目立つ車輪の小さな赤い自転車。それは何年も前から目にしている、結那愛用の自転車で間違いなかった。


 帰り道に並走したり、押して帰ったり、僕の長ったらしい告白の傍らで聞いていた自転車。僕の思い出の中ではかならず結那とセットで存在していたそれを見つけては記憶の断片が頭に浮かび上がってきた。


 ―――新しい仕事、見つかった?

 ―――今はS駅前の惣菜の仕事してるんだ。


 僕は離れるべきとは理解しつつ、石像のようにじっとその場に突っ立つだけだった。

 これまで結那との膨大な会話がいっせいに押し寄せては全身を打ちのめしていた。

 すぐそばでカオリがフォローを挟み、彼が理解し、ひとしきり言葉をやり取りし、最後はバツが悪そうに会釈しては2人は駅構内へ消える。その間も僕はひたすらその場から動くことはなかった。


 それからどのくらい時間が経ったかはわからない。

 でもそれは待つというには長すぎる、運命と呼ぶには短い時間。

 すっかり辺りは暗くなり、人もまばらになった駅前。従業員専用出入口からひとりの小柄な影が現れ、赤い自転車に近寄るや鍵を解除しはじめる。


「ユナ……」


 ふりむいた結那にゆっくり近づくと、相手も予期していたような視線を向ける。

 まずは話を聞いてくれるか。

 もう少し、近づいてもよいか。

 動物的本能の感覚でそれらをクリアして初めて僕はついに視界がボヤける。


「ユナ……」


 僕は想いの丈を精一杯伝え、うつむいていた結那が許しを請うような目を向けては強く抱きしめていた。


「ハネちゃん、ちょ、ちょっと……力強すぎ」


 不満げにいいながら、僕が力を緩めて体を離すまで、ずっと肩越しに顔を乗せ、されるがままの結那。


「ユナ、いきなりあんなこといわれると……」


 僕が今日いいたかったこと、伝えたかった気持ちはまだまだ先があったけれど、呼吸すらまともにできなくなるほど息が上がり、言葉が止まってしまっていた。だからせめて行動で表そうと夢中で抱きしめていたのだった。

 ようやく冷静になってからひとこと謝ると、先導するように帰り道を一緒に歩きはじめた。


 →8カ月後へ


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