1-6. Cleared for takeoff Runway 1.
「おーし、HR始めるぞォ」
担任の田川先生が出席簿を叩きながら入ってきた。僕たちはいつも通り席に着く。田川先生はいつもどおり退屈な連絡を退屈にこなしていく。
何気なく窓の外を見やると、バラバラと音がする。窓の外を見やるとチヌークが比較的高い空を飛んできていて、その両脇を別のヘリが護衛するように飛んでいる。扁平な胴体、大きな増槽。対して軍事に詳しくない僕でもわかる特徴的な機体。UH-60。通称ブラックホーク。チヌーク単機でないということは、よっぽど大切な何かを運んでいるのだろうか。
三機のヘリは、窓の向こうからやってきて、僕らの頭上を通過していった。僕は静かになった空の遠くをぼんやりと眺めていた。
「えー……最後に、クラスメイトが一人増えることになった」
目尻で教室全体が少し浮足立つのを捕らえる。中学校からこの学校にいて四年と少し、幾度となく転入してくる者と転校していく者を見た。とはいえ、それでも新しいメンバーが教室に加わる時には心が何となく浮かれるものだし、誰かが教室から離れていくときには何となく寂しさを感じる。それが思春期なのだと思う。
「入ってきなさい」
それはあくまで、転入してくるやつも転校していくやつも、僕の世界には入ってこないことが保証されているからだ。そういうやつらは大概、僕のように教室の窓際で情報狂の悪友とダラダラ喋ったり、所在なさげに窓の外のヘリを眺めたりしないで、クラスの中心にいるやつらと表面上のツルツルしたやりとりを楽しむのだ。
だから、ガラリと扉を開けて入ってきたそいつも、僕の世界にはまるで縁がないまま同じ空間を過ごし、そして、いつの間にか、元の東国へ帰っていくのだ。
僕はそう思っていた。
「はい」
――聞き憶えのある声がした。
僕は顔を教室の中に戻した。
焦げ茶色のハーフアップヘア。
薄い目元と対照的な高い鼻、鳶色の瞳。
きびきびとした歩き方。
小柄で俊敏な、軍人としての十分な資質を備えた身体。
暴力のすぐ隣で奏でられる、優しく、艶やかで、柔らかな声。
間違いなく、昨日の彼女だった。
名前を黒板に、と促された彼女は、チョークで淡々と線を引いていく。
乙姫侑里。それが彼女の名前。
彼女はクラス全体を見渡して――一瞬だけ、僕と目が合った。彼女は直ぐに視線を逸らす。僕を知っているのではないか、と誰かに悟られないためであるかのように。
深々と一礼して、彼女は言った。
「乙姫侑里といいます。新潟から来ました。よろしくお願いします」
六月二十六日。それは、乙姫侑里が、僕の世界に侵入した日だ。




