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その裏技、三百年前に法規制されました  作者: やまだ
レベル99なら倒せる、だから止められない
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まず、攻撃をやめてください

 五会場分の声が混ざれば、言葉は一つも聞き取れなかった。


『第二実習――水位が――』


『こちら第五、通気口――』


『第三から第一、応答を――』


 全員、必要な報告をしている。


 だからこそ、誰かが止めなければならない。


 俺は話す側の金板へ魔力を流した。


「緊急停止。全会場、発言を止めてください」


 すぐには静かにならない。


「繰り返します。緊急停止。発言を止めてください」


 ルナが木札を一度、強く鳴らした。


 乾いた音が、金電話を通して五会場へ届く。


 第二実習場の声が止まる。


 第四。


 第五。


 最後の雑音が消えた。


 急に静かになった安全室で、自分の荒い呼吸と、ルナの筆が紙を擦る音だけが聞こえた。


「第一実習場中央安全室、三枝透。午前九時十二分。学校監督者の許可により、五地点緊急通信を開始します」


 隣でセドリック先生が、正式な指示書の番号を読み上げた。


 各会場には、暗殺者通信で同じ番号の開封命令が届いている。


 金電話の声だけで本人を証明することはできない。


 手元の正式文書と組み合わせれば、いま聞こえている指示が何に基づくかは確認できる。


「発言は、指名された会場だけ。会場名、報告者、現在時刻、自分で見た事実の順です。第二実習場、報告してください」


『第二実習場中央室、操作員エナ・ロウ。午前九時十二分。目視報告です。西水路の遮断扉は、現在閉鎖。水位は扉の手前で上昇中。分裂体は捕獲網周辺に多数。正確な数は確認不能』


 ルナが時刻と「目視」を記録する。


 筆先が一度だけ紙へ食い込み、「目視」の横に小さな穴を開けた。ルナは穴の横へ同じ語を書き直し、手を止めなかった。


「西水路閉鎖。水位上昇。分裂体多数、数は不明。復唱に誤りは?」


『ありません』


「第三実習場」


『第三実習場中央室、操作員トム・ハイル。午前九時十三分。目視報告。北排水路から場内へ水が逆流。避難路二を閉鎖。生徒は避難棟内、負傷者なし』


 第四。


 第五。


 最後に、第一実習場の現場責任者。


 一会場ずつなら、声ははっきり聞こえた。


 五つの実習場が、初めて同じ時刻の状態へ揃っていく。


 バルクが地域図へ色の違う駒を置いた。


 青が水。


 銀が分裂体。


 白が避難済みの生徒。


「第二が水を止めて、第三へ戻ってる」


 バルクは水路の傾きを確かめた。


「第四が開けた補助門の水は、第五の南側へ流れる。各会場が自分の排水を守るほど、別の会場の水位が変わる」


 五つの現場は、独立していなかった。


 柵の内側は別でも、水と命令は地域全体を動いている。


「まず、新たな攻撃を止めます」


 俺が言うと、セドリック先生が指示書へ署名した。


「五会場共通の緊急指示です」


 先生自身が金板へ向かう。


「分裂体への新たな攻撃を停止。生徒の避難、盾、壁、氷結板による移動制限は継続してください。各会場の学校監督者は、手元の文書番号と照合後、復唱を」


 第二実習場が復唱する。


 第三。


 第四。


 第五。


 第一実習場の現場責任者も復唱した。


 指示は学生の思いつきとして届いたのではない。


 現場の事実を集めたうえで出された、セドリック先生の正式な緊急指示だった。


 レベル99の救援隊は、すぐ従った。


 攻撃魔法が止まる。


 戦士は武器を下ろし、代わりに大盾を並べる。


 魔法使いは分裂体へ直接当てず、進行方向の地面だけを凍らせる。


 僧侶は避難棟の確認を続ける。


 一分後、各会場から報告を集め直した。


 動いている分裂体は残っている。


 水路へ入った個体もいる。


 だが、新しく細かな粒が生じたという報告は止まった。


「攻撃が、数を増やしていました」


 ルナが発言記録を見た。


「私が第二待機所への通路で見た個体も、救援の衝撃を受けた直後に増えました。ほかの会場でも、攻撃停止後に新たな分裂は報告されていません」


 断定はしない。


 自分で見た事実と、五会場から集めた記録の範囲を分けて言う。


「倒すのではなく、集めて閉じ込める必要がある」


 俺は言った。


「何へ反応するか分かれば」


「記録があります」


 ガルドが、部屋の奥に置かれた牧場資料箱を開けた。


 新系統の繁殖系図。


 飼料試験。


 硬さの測定。


 鎮静性。


 分裂事例だけではない、育成開始からの全記録だった。


「安全審査へ提出したのは、分裂と魔法出力に関係する資料です。ここには、危険性が低いとして分けていた飼育特性も含まれています」


 ガルドは記録を隠していたのではない。


 飼育を楽にする長所と判断し、安全資料へ入れていなかった。


 彼はその分類を守ろうとはしなかった。


「すべて使ってください」


 俺とルナが飼料試験を読む。


 バルクは設備記録と照らす。


 新系統は、飼料時刻になると弱い鐘の音へ集まりやすい。


 飼育員が発声補助と同じ程度の微弱魔力を鐘へ流すと、反応がさらに安定する。


 野生の王冠銀粘体は、少し強い魔力を感じれば逃げた。


 新系統は、弱い魔力へ近づく個体を選んで育てられている。


「強い魔力では分かれる。弱い魔力には集まる」


 俺は二つの記録を並べた。


「飼料鐘は五会場にありますか」


 ガルドが各会場の設備表を確認する。


「同じ規格の物があります。通常は飼育区画へ固定しています」


 バルクが図面へ目を走らせた。


「外せる。台車に載せれば、別の区画へ動かせる」


「音を出す人は?」


「俺たちです」


 ルナが答えた。


「金電話を操作している生徒なら、金板を壊さない程度の微弱魔力を維持できます」


 大人が弱い魔力を出せないわけではない。


 訓練すれば扱える。


 ただ、いまこの場で、板を壊さず何十分も操作しているのは低レベルの生徒たちだった。


「生徒を危険区画へ出すことは許可しません」


 セドリック先生が先に条件を置いた。


「飼料鐘の設置と防壁は、職員が行います。生徒は安全室か、保護された操作所から魔力を送る方法を考えてください」


 強い大人が設備を運ぶ。


 弱い学生が合図を作る。


 暗殺者が正式な配置図を届ける。


 金電話で五会場の開始時刻を揃える。


 役割が見え始めた。


 まだ分裂体は水路と通路を動いている。


 攻撃を止めただけでは、事故は終わらない。


 それでも、数が増え続ける状態は止めた。


 次に五会場で同時に使うものは、高出力の攻撃魔法ではない。


 この世界で最も弱い側にいる俺たちの、小さな合図だった。

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