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その裏技、三百年前に法規制されました  作者: やまだ
レベル99なら倒せる、だから止められない
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22/28

上級生のレベル上げ、同時開始

 安全審査会から三週間後。


 その間に、一体、五体、十体を使った段階試験が行われた。


 最初に使った一体は、二つに分裂した。


 職員は攻撃せず、氷結板と捕獲網で八秒後に封じた。


 五体を使った試験では分裂なし。


 十体を使った試験では一体が分裂し、九秒で処理された。


 負傷者なし。


 設備破損なし。


 区画外へ出た個体もない。


 分裂しないとは証明できなかった。


 代わりに、予定された手順を守れば、小規模な分裂は封じられると確認された。


 条件付き実施通知は、正式な実施許可へ変わった。


 三週間で、二重柵と捕獲網が取り付けられた。


 低レベルの通信操作員は、封印の確認、緊急開封、発言記録の訓練を繰り返した。


 上級職課程移行実習の当日、五会場の開始時刻はすべて午前九時だった。


 俺とバルク、セドリック先生、ガルドは、西部第一実習場の中央安全室にいた。


 俺は学校側の観察記録。


 バルクは追加設備の点検。


 もう一人の操作員は、封印された金電話の前で管理記録をつけている。


 ルナは、窓の向こうにいた。


 移行実習の参加者として、第一調整区画の説明線に並んでいる。


 セドリック先生は、第一実習場の学校監督者。


 ガルドは五会場を統括する牧場側の責任者として、同じ部屋にいる。


 金電話は、壁際の学校管理庫へ封印されたままだった。


 ほかの四会場にも、通信操作を練習した低レベルの生徒が二人ずつ来ている。ただし、役目は試験機の管理と記録だけ。災害時条項が使われない限り、箱へ触れることもできない。


 窓の外には、安全審査会で追加された設備が並んでいた。


 白い柵の外側に、目の細かい金網。


 排水口には捕獲網。


 水路の前には、遠隔操作できる遮断扉。


 体力調整区画の職員は、以前の二倍。


 一度に扱う王冠銀粘体は、当初計画の三分の一。


 危険の可能性は、目に見える設備へ変えられている。


「第四実習場、開始準備完了」


 暗殺者通信で届いた確認書を、連絡係が掲示板へ留める。


 署名、施設印、技能痕跡。


 五会場分が揃った。


 金電話より時間はかかる。


 その代わり、誰が準備完了と判断したのかが残る。


「予定どおり実施します」


 ガルドが開始確認書へ署名した。


 セドリック先生も、学校側の安全確認欄へ署名する。


 開始を決めたのは、一人ではない。


 第一実習場の上級生が、一人ずつ説明線の内側へ入った。


 ルナやバルクと同じくらいの年齢。


 何年も基本職を履修し、力加減を学び、進む上級職課程まで決まった生徒たちである。


 今日、最後の経験値を受け取ればレベル99になる。


 来週から、暗殺者、騎士、賢者、魔導士などの専門課程で、レベル99の出力を使う授業が始まる。


 俺とバルクは、まだその段階ではなかった。


 ルナだけが、今日、その入口へ立っている。


 俺が最初の基礎成長実習で使った物と同じ安全棒が、人数分並んでいた。


 ルナも一本を受け取り、核を叩く位置を確かめる。


 午前八時五十九分。


 各調整区画で、レベル99の職員が杖を構える。


 王冠銀粘体は鎮静枠へ収まり、銀色の身体から核を浮かべている。


 午前九時。


 開始鐘が鳴った。


 魔法使いの職員が、一括体力調整術式を発動する。


 青白い光が、複数の区画で同時に走る。


 ルナの前にいる一体が、平たく潰れた。


 銀色の縁から、小さな分裂体が二つ飛び出す。


「第一調整区画、分裂確認」


 職員の声は落ち着いていた。


 一人がルナを説明線の外へ下げる。


 もう一人が分裂体を氷で覆う。


 ルナは安全棒を振らなかった。


 最後の一撃を入れていない。


 当然、経験値も入らない。


 レベル72のまま、待機線まで下がった。


 安全審査会で決めたとおりの動きだった。


 八秒で処理が終わる。


「第一調整区画、停止。参加者を第二待機所へ」


 異常は区画の中で止まった。


 少なくとも、その一件だけなら。


「第三調整区画、分裂」


 別の職員が叫んだ。


「第五も確認」


「第六、分裂体四」


 報告が重なる。


 氷結板が床へ触れる硬い音と、捕獲網の留め具が閉まる音が、厚い窓越しにも絶え間なく重なった。


 同じ時刻に一括体力調整術式を受けた個体が、次々に形を崩していく。


 すべてではない。


 ある区画では三体に一体。


 別の区画では十体に一体。


 分裂する割合は区画ごとに違う。


 だが、これまでの一件ずつとは数が違った。


「全調整区画を停止。生徒を建物内へ避難させてください」


 ガルドが命じた。


 避難鐘が鳴る。


 職員は生徒の前へ立ち、建物までの通路を確保した。


 一体一体の分裂体は遅い。


 眠り粘体より小さく、人へ飛びかかる様子もない。


 レベル99の職員なら、足元へ来る前に何体でも止められる。


 問題は、止め方だった。


 調整区画の職員は、段階試験と同じように攻撃を止めた。


 氷結板を置く。


 捕獲網を狭める。


 大部分の分裂体は、その内側で止まった。


 第二柵の近くで、銀色の塊が一体動いた。


 捕獲網の端を抜け、区画線を越える。


 壁の警報表示が変わった。


《調整対象・分裂体》


 その文字が消える。


《区画外魔物》


 区画外で待機していた地域救援班の魔法使いが杖を向けた。


 段階試験では、一体も区画線を越えなかった。


 牧場の捕獲手順から、地域の制圧手順へ担当が移る場面そのものが、初めてだった。


 光が当たる。


 分裂体は消えなかった。


 四つに割れた。


 さらに小さくなった塊が、それぞれ別の方向へ滑り始める。


「攻撃で分かれた?」


 俺が言うのと、別の区画で爆発音がするのは同時だった。


 柵を越えようとした別の分裂体へ、同じ救援班の戦士が衝撃を当てた。


 一体が八体ほどに散る。


 大きな塊なら止められた捕獲網を、小さな銀色が通り抜けた。


 その先には、第二待機所へ移動中のルナたちがいた。


 引率職員が大盾を地面へ立てる。


 銀色の粒が盾へ当たり、左右へ流れた。


 一つだけが盾の下を抜け、ルナの靴先で止まる。


 ルナは手に残していた安全棒を上げた。


 だが、叩かなかった。


 棒を床へ置き、後ろへ下がって職員へ位置を示す。


 別の職員が土壁を作り、参加者全員を内側へ収めた。


 怪我人はいない。


 ただ、中央安全室へ戻る通路と第二待機所の間に、分裂体が広がった。


 ルナたちの一団は、防壁の内側で動けなくなった。


「新たな攻撃を止めてください」


 セドリック先生が、第一実習場の全職員と救援班へ指示する。


 近くの区画では攻撃が止まった。


 だが、実習場は広い。


 別棟で待機していた地域救援班も、警報表示に従って区画外の魔物を制圧している。


 安全室から正式な場内停止命令が届くまでにも、分裂体の数は増えた。


 追加した金網は、大きな塊を止めた。


 攻撃で細かくなった塊は、網目へ身体を押し込んだ。


 排水路の捕獲網へ、銀色の粒が重なる。


 一層。


 二層。


 水の流れが弱くなる。


「東排水路、閉鎖します」


 職員が遮断扉を下ろした。


 地域水路へ出る前に止めるための、正しい操作だった。


 行き場を失った水が調整区画へ戻り、床へ薄く広がる。


 分裂体は水に乗った。


 柵の隙間へ入る。


 通気口へ張り付く。


 避難通路の手前まで、銀色の筋が伸びていく。


 大部分の生徒は、すでに建物へ入っている。


 ルナたちも職員の防壁に守られている。


 負傷者はいない。


 職員の避難誘導も間に合った。


 それでも、通路を安全だと確認できなくなった。


「第二実習場から緊急便」


 暗殺者通信の連絡係が、安全室へ飛び込んだ。


 筒から報告書を抜き、技能痕跡を確認する。


《複数調整区画で分裂。実習停止。負傷者なし》


 数十秒後、第三実習場。


 第四。


 第五。


 文章は少しずつ違う。


 共通しているのは、分裂、実習停止、負傷者なし。


 安全室の地域図へ、赤い札が一枚ずつ置かれた。


 第一実習場。


 第二実習場。


 第三実習場。


 第四実習場。


 第五実習場。


 五つの開始時刻は同じだった。


 五つの警報も、ほとんど同じ時刻に鳴っていた。


 地域図へ五枚目の札が置かれた瞬間、窓の外が暗くなった。


 救援隊の本隊が、第一実習場の上空へ到着していた。


 遅れて、床が一度だけ低く震えた。

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