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その裏技、三百年前に法規制されました  作者: やまだ
レベル99なら倒せる、だから止められない
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全員が正しい会議

 安全審査会では、誰も「危険はない」とは言わなかった。


 翌日の午後、学校の大会議室へ関係者が集まった。


 国民育成学校。


 国営育成牧場。


 治療院。


 保護者会。


 通信局。


 机の中央には、俺たちの比較表と、ガルドが提出した安全対策案が置かれている。


 最初にセドリック先生が、五件の事実を説明した。


 新系統の近い繁殖群。


 一括体力調整術式の高出力域。


 生じた分裂体は合計八体。


 負傷者なし。


 設備被害なし。


 処理時間は、最長でも十秒。


「学校としては、上級職課程移行実習前の再現試験を求めます」


 セドリック先生は言った。


「強い魔力が分裂の引き金である場合、多数の個体へ同時に使う結果が予測できません。再現条件が分かるまで、新系統の使用を延期すべきです」


 次にガルドが、安全対策を説明した。


 個体数の削減。


 職員の増員。


 二重柵。


 排水路の捕獲網。


 区画ごとの即時中止。


「分裂が起きる可能性は、対策へ含めます」


 ガルドは言った。


「ただし、確認された分裂体は弱く、既存の氷結と捕獲で処理できています。全会場の全面延期ではなく、規模を減らした実施を申請します」


 治療院の代表は、五件の診療記録を確認した。


「現時点で人体への直接危険は認められません」


 そこで言葉を切り、分裂体の大きさを示す図を持ち上げる。


「ただし、弱いことと安全であることは同じではありません。通路へ大量に入れば、転倒、避難遅延、治療搬送の妨げになります。攻撃力だけで危険度を決めないでください」


 俺が台車を考えたときと同じだった。


 人を殴れない物でも、人の動きを止めることはできる。


 通信局の代表は、五会場の配置図を開いた。


「各会場への正式命令は、暗殺者通信で保証できます。通常時の連絡能力に問題はありません」


 投擲経路と中継塔が、細い線で結ばれている。


「ただし、五会場で状況が同時に変化した場合、中央への報告と各会場への返信が往復します。命令の真正性は保証できますが、全会場が同じ瞬間の情報を共有する仕組みではありません」


 金電話の試験記録も提出されていた。


 多地点で話せる。


 だが、本人確認が不完全で、会話の自動記録もない。


 正式通信の代わりにはできない。


「実験設備を安全対策へ数えることには反対します」


 通信局の代表は言った。


「正式命令は、これまでどおり暗殺者通信で送るべきです」


 ルナは反論しなかった。


 暗殺者志望としても、金電話の製作者としても、正しい指摘だと分かっている。


 保護者会の代表が、移行予定者の一覧へ手を置いた。


「延期で安全が確認できるなら、待たせたいと思う親は多いでしょう」


 四千人を超える名前を見渡す。


「同時に、研修枠や資格日程を失う可能性まで本人へ負わせることには反対です。延期するなら、学校と国が進路を保証してください」


 ルナが挙手した。


「先に、立場を申告します。私は研究報告の作成者であり、今回の移行実習の参加者です」


 安全審査の代表が、議事録へ両方を記した。


「研究上の事実確認には参加できます。実施の可否を決める立場には加えません」


「承知しました」


 ルナは異議を唱えなかった。


 会議室が静かになった。


 安全審査会には、上級職課程全体の日程を変更する権限がない。


 治療院の研修枠を二か月空けることも、全国の建築実習を一日で組み直すこともできない。


「実習場ごとに時刻をずらす案は?」


 保護者の一人が尋ねた。


 ガルドは運用計画を開いた。


「一会場ごとの危険度は変わりません。五会場には別々の職員と救援班を配置しています。時間を分ければ全日程が延び、新系統の調整時の状態が揃う時間帯も外れます」


 王冠銀粘体は、朝の飼料後、身体の硬さと経験値量が安定する時間が限られている。


 飼料時刻から組み直して別日に分ければ、全個体の再測定が必要になる。


「同時に起きること自体が、危険を増やす可能性は?」


 セドリック先生が確認した。


「会場ごとの封じ込め設備は独立しています」


 ガルドは答えた。


「地域水路へつながる排水口も、異常時には各会場の遮断扉を閉じます。現行評価では、一会場の分裂がほかの会場へ影響する経路はありません」


 一件ずつなら止められた。


 だから、五件が同時でも、それぞれ止められる。


 計算上はそうなる。


 俺たちの表が示したのは、共通条件までだった。


 百体へ同時に一括体力調整術式を使った記録はない。


 強い攻撃を繰り返したとき、何体まで増えるかも分からない。


「一体から始めて、五体、十体と増やす段階試験はできませんか」


 保護者会の代表が尋ねた。


 全面延期か、予定どおりの実施か。


 その間に置ける案だった。


 ガルドは試験用に確保できる個体数と、実習予定日までの三週間を確認した。


「十体までなら、三段階で実施できます。一体で高出力域を確認し、次に五体、最後に十体へ同時使用します」


「分裂した場合の合格条件は」


 安全審査の代表が尋ねる。


「その区画を即時停止。新たな攻撃は行わず、氷結板と捕獲網で十秒以内に封じます。一体でも区画外へ出た場合は、次の段階へ進みません」


「分裂体へ攻撃した場合の反応は調べないのですか」


 治療院の代表が確認した。


「実施手順では、調整区画内で分裂を確認した後の直接攻撃を行いません」


 ガルドは牧場規定を開いた。


「弱く攻撃性のない小型個体には、凍結と捕獲を使います。段階試験では、本番で実際に採る手順が機能するかを確認します」


 調整区画内で確認した分裂体をさらに強く攻撃することは、本番の手順に含まれていない。


 だから、試験にも含めない。


 危険な反応を隠したのではない。起こさないと決めた操作を、実施条件の外へ置いた。


 安全審査会は、段階試験の結果を見て最終判断することにした。


 起きると証明できない事故と、延期すれば起きる進路被害。


 会議は三時間続いた。


 誰かが事実を無視したわけではない。


 誰かが生徒を犠牲にしようとしたわけでもない。


 学校は事故を避けたい。


 牧場はレベル99到達と専門課程へ進む機会を守りたい。


 治療院は攻撃力以外の危険を見ている。


 保護者は命と進路の両方を守りたい。


 通信局は、命令の信頼性を捨てられない。


 全員が正しかった。


 正しい意見を全部並べても、未来の事実だけは増えなかった。


 この日の決定が読み上げられる。


 上級職課程移行実習は、段階試験の通過を条件に、規模を三分の一へ縮小して実施。


 一体、五体、十体の順に一括体力調整術式を使用。


 調整区画内で分裂を確認した場合は直接攻撃を行わず、十秒以内に封じ込める。


 区画外流出、負傷者、設備破損のいずれか一つでも発生した場合は、次の段階と移行実習を停止。


 調整区画の職員を倍増。


 二重柵と排水路捕獲網を追加。


 分裂確認区画は即時停止。


 五会場の学校監督者は、同時異常を確認した場合、中央安全室へ報告。


 そして、金電話は実施設備には数えない。


 五台とも学校管理庫へ封印したままにする。


「ただし、多地点で同時に施設異常が発生し、既存通信では避難調整が間に合わない場合に限り、学校監督者は災害時条項によって開封できるものとします」


 セドリック先生が、その一文を条件へ加えた。


 勝手に使わない。


 便利そうだから開けない。


 必要になったとき、責任を持つ大人が正式な例外を使う。


 通信局の代表も、正式命令を暗殺者通信で裏付ける条件を加えて同意した。


 段階試験を通過した場合の、実施当日の配置も決められた。


 俺とバルクは、移行実習を受ける生徒ではない。


 俺はレベル15。


 バルクは上級職の希望を決めているが、筆記科目が残っており、今回の移行名簿には載っていない。


 二人とも、研究報告を作った生徒として学校側の安全観察班へ正式に加えられた。


 俺は中央安全室で記録と金電話の管理。


 バルクは、追加された柵と水路設備の点検。


 第一実習場の金電話には、俺のほかに操作訓練を終えた生徒を一名置く。


 ルナは参加者として、午前九時の第一調整区画へ入る。


 異常時にはほかの参加者と同じく、最優先で待機棟へ退避する。退避完了後、学校監督者が安全な屋内経路を確認した場合に限り、登録済みの通信補助員へ戻れる。


 最初からルナを通信要員として数えることはできない。


 ほかの四会場にも、金電話の操作訓練を受けた低レベルの生徒を二名ずつ置く。


 その操作員たちは実習区画へ入らない。保護された中央室で、試験機の管理と観察記録だけを担当する。


 会議は終わった。


 即時の中止にはならなかった。


 安全策は、当初より大きく増えた。


 どちらか一方が勝ったのではない。


 証拠が足りないまま本番を選ぶのではなく、三週間で増やせる証拠を増やし、その結果へ従うことを選んだ。


 机の上には、五つの実習場へ送る条件付き実施通知が並んでいる。


 会場名は違う。


 開始時刻は、五枚とも同じだった。

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