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その裏技、三百年前に法規制されました  作者: やまだ
役に立たないなら、使い道を変える
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14/28

手紙を投げるのが国防です

 翌朝、俺はルナの通信実習に同行した。


 学校から北へ二十分。


 石造りの通信塔が、街道を見下ろす丘に立っている。


 レベル72のルナなら数分で着く距離だが、今日は俺の歩調に合わせていた。


「先に行ってもいい」


「見学者を置いていく通信実習はありません」


 正しい。


 塔の一階には、配達先ごとに分けられた細い筒が並んでいた。


 学校。


 治療院。


 農業管理所。


 冒険者登録所。


 遠方の町は、途中の塔を示す番号で分けられている。


 ルナは台車の試験配置申請を三通に写した。


「同じ書類を三枚作るんだな」


「受取先が三か所ですから」


 内容を照合し、それぞれ別の筒へ入れる。


 封蝋。


 時刻印。


 差出人の署名。


 最後に、ルナが指先で封へ触れた。


 淡い線が一本残る。


「技能痕跡です。投擲した者の魔力制御が、封へ記録されます」


「他人が同じ痕跡を付けることは?」


「完全な再現は困難です。筆跡、印章、経由塔の記録と合わせて確認します」


 一つだけに頼らない。


 本人確認の方法が、何重にも重なっている。


 塔の上階へ進む。


 窓の外には、次の通信塔が細い柱のように見えた。


 壁には風向き、距離、投擲角度の表。


 床には、受け取った投擲具を止める網。


 ルナは、クナイに似た細長い投擲具へ筒を固定した。


 刃は落とされている。


 人を傷つけるためではなく、風の中でも姿勢を保つための形だった。


「第一便。学校生活法担当。中継一回」


 担当教師が宛先と時刻を復唱する。


「投擲を許可します」


 ルナが腕を振る。


 音が遅れて聞こえた。


 投擲具は、俺の目では途中から見えない。


 数秒後、遠くの塔で白い旗が上がった。


「受領確認」


 次は工作室。


 最後が治療室。


 三通を送るのに、一分もかからなかった。


「郵便より速い」


「緊急便なら、受取人まで暗殺者課程の技能者が直接走ります。これは通常の公的連絡です」


 数分後、別の塔から返信が飛んできた。


 受取網が柔らかく沈み、投擲具を止める。


 担当者は筒を外し、封、技能痕跡、経由記録を確認した。


 中身は、工作室からの承認だった。


 書類そのものを高速で運ぶ。


 声だけではなく、地図、図面、現物の小さな試料も送れる。


 ゲームでは攻撃に使っていた投擲技能が、社会では信頼できる通信網になっている。


「これなら、電話がなくても困らないか」


「電話?」


「離れた相手と、その場で会話する道具だ。俺のいた場所にあった」


 ルナは少し考えた。


「相手の返事が必要なら、返信を優先便で送ります」


 十分に速い。


 俺が宿の主人へ一言伝える程度なら、電話との違いは小さい。


「五か所で相談するときは?」


「同じ内容を五通作ります」


「一か所から質問が返ったら?」


「回答を作り、必要な送付先へもう一度送ります」


 ルナは当然の手順として答える。


 通信制度として完成している。


 一対一なら速く、記録が残り、送り主も確認できる。


 機密文書も現物も運べる。


 ただし、宛先の数だけ手紙が必要だった。


 五か所が同時に状況を変え、そのたび互いの返事を聞きたい場合、手紙の本数は急に増える。


「そういう相談は、中央へ情報を集めて判断します」


 担当教師が説明した。


「各地が勝手に話し合うより、正式な指揮系統を通した方が、命令の責任も明確です」


 それも正しい。


 全員が同時に話せれば、混乱する。


 誰が本物か分からない声で命令が届けば、危険でもある。


 電話が常に優れているわけではない。


 むしろ、正式命令を送るなら、この通信の方が優れている。


 午後までに、台車の申請書は三通とも戻ってきた。


 筆跡、印章、技能痕跡が揃っている。


 治療室への試験配置が正式に認められた。


 俺の小さな提案が、ルナの技能を通して学校の制度へ入った。


 塔を出る前、壁の経路図をもう一度見る。


 一通の手紙には、一つの行き先がある。


 だから速く、確実に届く。


 もし、離れた全員が同じ声を同時に聞く必要が生まれたら。


 その用途に合う仕組みだけが、まだ見当たらなかった。

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