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その裏技、三百年前に法規制されました  作者: やまだ
役に立たないなら、使い道を変える
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12/28

攻略をやめたら、学校が見えた

 レベル15になった翌朝、俺は授業で一度も手を挙げなかった。


 教師が経験値配分の例題を出しても、知っている古い方法を話さない。


 休み時間に教科書の職業補正表を開いても、最短の履修順を計算しなかった。


 計算したところで、現地の教科書の方が詳しい。


 天然狩場を三日走って作った最短記録も、国営育成牧場では十分で追い越された。


 俺が黙っていても、授業は進む。


 当然のことだった。


 ルナは暗号法の課題を解き、バルクは戦士科の構造計算をしている。


 二人には、通信局と建築という目標がある。


 俺には、この世界で何になるかという目標がない。


 帰る方法は探したい。だが、何から始めればいいのか分からなかった。目を覚ました草原にも、ゲームの物語にも、転移そのものを説明する手がかりはない。


 レベル99まで上げた後、何になりたいのか。


 その質問へ答えられないまま、数字だけ上げる意味も分からなくなった。


 昼休み、ルナが向かいの席へ座った。


「体調が悪いですか」


「身体は、昨日より軽いくらいだ」


「では、何か考えていますね」


「何も思いつかないことを考えている」


 ルナは無理に聞き出さなかった。


「午後の共同作業は、資料庫の整理です。身体を動かした方がよければ、一緒に行きましょう」


「そうする」


 資料庫には、授業で使う石板と模型が積まれていた。


 戦士職を履修している生徒が、大きな教材箱を一人で抱える。


 魔法使い職の生徒は、埃を水球へ吸い込み、床を濡らさずに外へ運ぶ。


 盗賊職の生徒は、破れた教材袋を指先だけで縫い直していく。


 全員、俺より速い。


 俺に任されたのは、整理番号を読み、棚の位置を記録する仕事だった。


 箱は持てなくても、文字は読める。


 番号を小さい順に並べ、使用する授業ごとに分ける。


 作業を始めると、気づくことがあった。


 教材箱を運んでいた生徒が別の授業へ呼ばれる。


 その瞬間、重い箱の移動が止まった。


 水魔法の生徒が水場へ行く。


 床掃除が止まった。


 袋を直していた生徒がいなくなると、裁縫も止まる。


 代わりの生徒が来れば、すぐ再開する。


 誰も困り果ててはいない。


 ただ、仕事と技能を持つ本人が、切り離せない。


「三枝さん、次はどの棚ですか」


 戻ってきた生徒へ番号を伝える。


 俺が指示すると、教材箱は一息で移動した。


 学校の人々は有能だった。


 有能な人がその場にいることを前提に、学校全体が作られている。


 資料庫を出ると、廊下の先で教師の声がした。


「道を空けてください」


 基礎魔法の授業を受けていた生徒が、床へ座り込んでいる。


 怪我はない。


 初めて使った加熱魔法で魔力を使いすぎ、立つと目が回るらしい。


 治療室までは、校舎を一つ挟んだ先だった。


 体育教師なら、一人で抱えて数秒で運べる。


 だが、いまは別の運動場にいる。


 魔法の教師は、乱れた魔力を両手で抑えているため、生徒を抱き上げられない。


「担架を持ってきます」


 ルナが走ろうとした。


 バルクが止める。


「担架は俺が運べる。ルナは治療室へ知らせてくれ」


 二人が別々の方向へ消えた。


 戻ってきたバルクは、布を張った二本の棒を一人で抱えている。


 倒れた生徒を寝かせると、もう一人の戦士履修者が呼ばれた。


 二人で持ち上げ、歩幅を合わせる。


 運ぶ側は十分に強い。


 問題は、寝かされた生徒の方だった。


 廊下の曲がり角で担架が少し傾くたび、顔をしかめている。


「もっとゆっくり」


 魔法教師が声をかける。


 二人は即座に速度を落とした。


 それでも、前後の高さを完全に揃えたまま運ぶには、二人の呼吸が必要だった。


 俺が代われば、担架の片側を持ち上げられない。


 レベル99の大人が一人いれば、担架全体を支えて水平に運べる。


 高レベルの生徒が二人なら運べるが、前後の高さを揃えるには呼吸を合わせなければならない。


 低レベルの人間だけでは、怪我人一人を水平に保ち、安全に運ぶ余裕がない。


 治療室へ着くと、担当の僧侶が生徒を診察した。


「魔力切れですね。しばらく横になれば治ります」


 大事ではなかった。


 ルナとバルクも安心している。


 俺だけが、廊下へ置かれた担架を見ていた。


「どうしました」


 バルクが聞いた。


「人が持たなくても、これを水平のまま動かせないかと思って」


「浮遊魔法か?」


「いや。もっと単純な物だ」


 教室へ戻り、ノートを開く。


 長方形を描く。


 下に、丸を四つ。


 寝台へ小さな車輪を付け、人が押す。


 馬車ほど大きくする必要はない。


 担架を持ち上げ続けなくても、床の上を転がせればいい。


 バルクは図を見た。


「荷車を低くして、人を寝かせるのか」


「そうだ。俺でも押せるくらいにしたい」


「このままでは曲がれない。床の段差でも跳ねる」


「作れないか」


「作れないとは言っていない」


 バルクは俺の手から鉛筆を取り、四つの丸へ軸を書き足した。


「本当に動かしたいなら、次は寸法を決める」


 レベルを上げる目的は、まだ見つからない。


 代わりに、明日の工作室で試すことが一つできた。

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