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その裏技、三百年前に法規制されました  作者: やまだ
二十六歳、未就学児として入学
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10/28

第一志望は暗殺者、勇者科は定員割れ

 職業課程説明会は、午前の基本職説明から始まった。


 戦士、魔法使い、盗賊、僧侶、弓使い。


 どれもゲームでは、戦闘の序盤を支える職業である。


 最初は戦士科。


 壇上へ上がった教師は、厚い石板を片手で持っている。


「戦士技能の主要な進路は、建築、解体、重量物輸送、災害救助です」


 石板を空中へ放り、落ちてくる前に支柱を三本組み立てる。


 支柱の上へ石板が収まり、即席の屋根になった。


「強く壊すだけではなく、必要な場所で止めること。崩れる順番を読み、人と建物を守ることを学びます」


 バルクが身を乗り出している。


 説明が終わると、戦士科の相談列へ真っ先に並んだ。


 次は魔法使い科。


 攻撃魔法の実演が始まると思った。


 壇上には畑の模型と、凍った魚、煮込み鍋が置かれた。


 一人の教師が指を動かす。


 細い水流が畝だけを潤し、冷気が魚を包み、火が鍋底を一定の温度で温めた。


「農業用水、食品保存、加熱、冷却、気象補助。広い出力と、長時間の安定制御が必要な分野です」


 炎の球を撃つ場面はなかった。


 それでも農業地域や食品組合の求人が多く、希望者は戦士科より多い。


 三番目は盗賊科だった。


 会場の空気が変わった。


 ゲームでは、鍵開けと罠の解除、短剣による素早い攻撃を得意とする職業である。


 壇上へ現れた教師は、短剣ではなく、料理包丁と縫い針を並べた。


「盗賊技能の本質は、指先の速度、触覚、精密動作、狭い場所の把握です」


 一個の果実を空中へ投げる。


 包丁が動いたようには見えなかった。


 落ちてきた果実は、皮、果肉、種へきれいに分かれ、それぞれ別の皿へ収まった。


 次に、破れた薄布へ針を通す。


 縫い目が見えないほど細かく、元の一枚へ戻っていく。


「高級調理、精密加工、仕立て、設備検査。採用試験では速度より、傷を増やさないことが評価されます」


 老婆が生まれてからずっと仕立て屋だと言っていたことを思い出した。


 戦闘職でなくても強いのではない。


 この社会では、戦闘用に見えた能力を生活の仕事へ使っている。


 盗賊科の重点履修枠は、希望倍率六・四倍。


 名前だけなら悪い印象の職業が、ここまでで一番人気だった。


 このあと、治療と生活支援の基礎を学ぶ僧侶科、遠距離の精密作業と森林管理を学ぶ弓使い科が続いた。


 基本職は、一つを選んで終わりではない。


 低レベルの間に複数を履修し、生活技能と成長補正を集める。その履歴と適性を使い、高レベルになるほど専門的な上級職へ進む。


 午後は、上級職の説明だった。


 賢者は、魔法使いと僧侶の履歴を中心に進む複合上級職である。主な仕事は、治療、農業管理、教育、研究。


 魔法と職業履歴の両方で高い成績を求められるため、希望者は多いが課程も長い。


 戦士系の上級職としては、騎士と勇者が並んでいた。


 騎士が建築、災害現場の指揮、重要施設の警備へ特化する一方、勇者は戦士技能を軸に、基礎魔法、治療、野外行動まで広く扱う。


「勇者技能は、複数の武器、基礎魔法、治療、野外行動へ均等な補正を持ちます」


 壇上の教師は、剣、杖、盾、治療具を順番に扱った。


 どれも正確だった。


 弱い職業ではない。


「一方、建築では戦士、精密加工では盗賊、治療では賢者が優先採用される傾向があります。卒業後の主な進路は、地方総合職、欠員時の代替要員、複数分野の巡回補助です」


 求人票にも、《災害時の総合補助》《地方施設の何でも相談員》《専門職不在時の代行》と並んでいる。


 ゲームでは、どんな場面にも対応できることが強さだった。


 一人のプレイヤーが、戦闘、探索、回復を全部こなすからである。


 社会では、治療だけを一生研究した賢者や、建築だけを磨いた戦士と仕事を競う。


 万能は、専門性がないとも言い換えられる。


「定員には余裕があります。第二志望からの変更も歓迎します」


 教師は真剣だった。


 説明後の相談時間になっても、勇者科の前には空いた椅子が目立った。


 横に置かれた《随時相談受付中》の札が寂しかった。


 騎士、魔導士など、ほかの上級職の説明も続いた。


 最後に、盗賊系の上級職課程が紹介された。


 担当教師が会場正面の窓を開く。遠くに、細い塔が立っていた。


 司会の教師が資料を掲げる。


《盗賊系上級職課程・暗殺者》


 名前が出た瞬間、会場で一番大きな拍手が起きた。


 座っていた生徒が一斉に立ち、前方の希望者席が埋まっていく。


 暗殺者。


 ゲームでは、毒、隠密、急所攻撃に特化した上級職だった。


 ここでも盗賊の職業履歴、精密動作、速度技能を発展させる正規の上級職らしい。


 人を殺す職業が、勇者より人気であってよいはずがない。


 壇上へ上がった女性教師は、黒い外套の内側から細長い投擲具を取り出した。


 刃は落とされ、柄に小さな筒が固定されている。


 筒へ一枚の紙を入れ、封をする。


「暗殺者技能の主要任務は、公的通信、機密輸送、災害連絡、国境警戒です」


 教師が腕を振った。


 投擲具が消える。


 数秒後、遠くの塔で鐘が鳴った。


 窓の外から別の投擲具が飛来し、壇上の受取網へ静かに収まる。


 筒の中には、受領時刻と担当者名が書かれていた。


「高速移動、精密投擲、隠密行動。技能を使った者に固有の痕跡が残るため、送り主の確認にも利用できます」


 通信塔から通信塔へ手紙を投げる。


 道が崩れても、魔物の群れがいても、通常の配達より速く情報を運べる。


「音声を離れた相手へ直接届ける魔法は、確立していません。音を増幅しても、距離と障害物によって失われます。そのため、国家の緊急連絡は暗殺者課程の技能者が支えています」


 教師は会場を見渡した。


「暗殺者は、国防の要です」


 再び拍手が起きた。


 採用枠は少ない。


 盗賊職の必修履歴に加え、身体制御、投擲、暗号、法律、通信倫理のすべてで上位成績が必要。


 公的機関の採用が多く、給与も高い。


 本日の希望倍率は十二・八倍。


 盗賊科の重点履修倍率の倍だった。


「暗殺はしないんですか」


 質問したのは俺ではない。


 前列の十二歳の生徒だった。


 教師は真面目に答えた。


「名称は戦乱期のままですが、現在の任務で人へ技能を使うのは、法に基づく危険人物の制圧など、ごく限られた場合だけです。その際も、殺傷より確保が優先されます」


 名前だけが物騒なまま、仕事の中心は通信へ変わっていた。


 説明会が終わると、ルナは暗殺者課程の相談列へ向かった。


「第一志望だったのか」


「はい」


 ルナは初めて、自分の志望職を口にした。


「通信局の採用を目指しています。盗賊職の必修履歴は終えました。いまは投擲、暗号、法規を履修しています」


 ルナが相談用紙を開く。現在のレベル欄には《72》と記されていた。


「レベル72なのも、そのため?」


「出願時の推奨レベルには、まだ届いていません。筆記も上位を維持する必要があります」


 一番人気だから選んだのではない。


 何年も前から、必要な科目を積み上げている。


 バルクも戦士科の資料を抱えて戻ってきた。


「建築実技の推薦枠がある。筆記をあと二科目上げれば出せる」


 二人には、強さの先に進路があった。


 俺は勇者科の資料を一枚もらった。


 定員割れなら入れるかもしれない。


 そう考えたが、出願条件の最初に《基礎課程修了》、次に《推奨レベル80》とある。


 レベル6の俺には、人気以前の問題だった。


 進路相談の教師は、俺の履修票を確認した。


「三枝さんは、まず基礎成長実習ですね。明日、第四実習場へ行きます」


「魔物を倒してレベルを上げるんですか」


「はい。現在の課程に合わせ、レベル15を目標にします」


 一日で九レベル。


 俺は思わず、必要な経験値を頭の中で計算した。


 天然狩場なら、眠り粘体の巡回だけでは足りない。


 香気草を正規申請し、角兎を混ぜても一日では難しい。


 だが、学校がどの狩場を使うかには興味がある。


 三日でレベル6まで上げた俺の方法と、現地の標準的なレベル上げ。


 比べれば、自分の知識がどこまで通用するか分かる。

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