昨日
月曜日の朝、俺はいつもより早く起きた。
時刻は6時30分。
昨日、蓮と決めたことを思い出す。
何時に送るメッセージまで既読がつくのか。
そして、美月からメッセージが届く前に送ったらどうなるのか。
美月とのトーク画面に残っているのは、去年の4月13日の最後のメッセージ。
『もう知らない』
少しだけ迷ってから文字を打ち込む。
『おはよう、美月』
既読はつかない。
「……やっぱりか」
しばらく画面を見つめたが、何も変わらない。
俺はスマホの時計を確認した。
6時59分
あと一分。
そして7時になった瞬間——
ピコン
『おはよう、湊』
いつもと同じメッセージ。
俺が送ったメッセージには……既読はついていない。
ここからは、昨日蓮と決めた実験だ。
一分ごとに、返信を送る。
7時1分
『おはよう、美月』
すぐに既読がついた。
返事が来る。
『相変わらず起きるの早いね』
……7時2分
…………7時3分
取り止めのない会話が続く。
そして7時7分に送ったメッセージにも、すぐに既読がつき、返事が来る。
『湊、昨日はごめんね』
「……昨日?昨日俺って返信したっけ?」
少し考えて、昨日のことを思い返す。
スクショを確認しようとした瞬間、時計は7時8分に変わった。
「やばいっ!返信しないと……」
『昨日?なんのこと?』
送信。
既読は……つかなかった。
一息ついてスクショを確認する。
「やっぱり昨日は返信してないよなぁ……」
とはいえ、返事が来ないことにはなにも確認できない。
・美月からのメッセージが来る前に送っても既読がつかない
・7時8分に送ったメッセージに既読がつかない
この二つがわかっただけでも収穫だ。
俺は今朝のやりとりをスクショに残し、登校の準備を始めた。
その日の昼休み、いつものように蓮の元へ向かう。
今朝わかったことを報告するためだ。
「蓮」
「お、湊。どうだった?」
「たぶん、わかった」
「マジ?」
「うん。これ、見てくれ」
俺はスマホを取り出し今朝のやりとりを蓮に見せた。
「まず、美月からのメッセージが来る前に送ったやつには既読がつかなかった。」
「ってことは?」
「美月からメッセージが届く前はこっちから送っても届かない」
「なるほど」
「そこからは昨日決めた通り一分ごとに返信しながら会話してみた」
「うんうん」
「7時7分までは既読がついて返事がきた。でも……」
「7時8分?」
「うん。既読がつかなかった。今も」
蓮が画面を確認する。
「じゃあ7時ちょうどのメッセージから7時7分まではやりとりができるのか」
「うん。たぶんだけど」
「それと、もう一つ変なことがあった」
「何?」
「7時7分の美月からの返事みてくれ」
蓮がスマホに目をやる。
7時7分
『湊、昨日はごめんね』
「……昨日?」
首をかしげる蓮。
「そう。昨日、俺は返事をしてない。美月とやりとりしてないんだ」
「じゃあ何に対して謝ってるんだ?」
「わからない。聞こうと思っても7時8分から既読がついてないから聞けないんだ……」
「……タイミング悪すぎだろ」
「ほんとにな」
蓮はしばらく黙って考えていた。
「なあ、湊。」
「ん?」
「もしかして、美月ちゃんにとっての「昨日」って……」
蓮はそこで言葉を止めた。
「……いや、なんでもない」
「なんだよ?気になるだろ」
「まだ、わかんない。もう少し情報が必要だ」
蓮はそう言って、スマホを俺に返した。
俺もそれ以上は何も言わなかった。
次の日の朝もいつものようにメッセージが届く。
『おはよう、湊』
「もう一週間か……」
美月の命日から始まった朝のメッセージも、今日で一週間になる。
「いつまで続けられるのかな。最初はわけがわからなくて怖かったけど突然来なくなっても寂しいな……」
わけがわからないのは今もだが、朝の美月からのメッセージを期待している俺がいる。
そんなことを考えているうちに、既に数分が経っていた。
7時7分までしかやりとりができないのであれば時間がもったいない。
俺は急いで返事をする。
『おはよう、美月』
『相変わらず起きるの早いね』
昨日とまったく同じ流れだ。
返信をしようとして、ふと思い返す。
「そういえば、昨日の美月の発言……」
途中まで打っていた返信を消して打ち直す。
『昨日言ってたごめんって何?』
送信した直後、スマホの画面左上の時計が7時8分に変わる。
「あっ……」
間に合わなかったか。
……既読はつかない。
「またかよ……」
俺はため息をついて、スマホを見つめた。
また聞けなかった。
まあ、仕方ない。
スマホを置こうとして、ふとカレンダーに目を向けた。
4月21日
「……あ」
今日は俺の誕生日だ。
「…………美月、何も言わなかったな」




