君であって欲しい
昼休み、俺は隣のクラスの蓮の元に向かった。
昨日、蓮に言われたことを試してみた。
美月と俺の二人しか知らないこと。
それを聞けば本当に美月か確かめられるかもしれない。
「蓮」
「お、湊。待ってたぜ!どうだった?」
「うん。それがさ……」
そこから先の言葉が出てこない。
あったことをそのまま説明すればいい。
今朝のメッセージで何を聞いたのか。
相手がなんと答えたのか。
そして、あの答えを聞いた瞬間、自分が何を思ったのか。
全部話そうとすると、うまく言葉にできなかった。
「……どうだった?」
蓮が真剣な表情で聞く。
今朝のやりとりを思い出す。
わざと間違えて聞いた左足の傷。
相手は、迷うことなく訂正した。
——右足でしょ?
「……ダメだ。うまくまとまらない。」
俺がそう言うと、蓮は一瞬黙った。
「……よし!今日湊んちに泊まりにいっていい?」
「泊まるの?」
「明日土曜日だし時間気にせず話せるじゃん?」
「……まあ、いいけど」
「決まりな!それまでゆっくり整理しとけな。無理はせず!」
蓮はそう言って笑った。
その日の夜。
久しぶりの蓮の来訪に母さんが気合を入れて晩飯を作ってくれた。
「よし、どうだ?湊。少しは整理できたか?」
「うん。だいぶ。まずこれ見てくれよ」
そう言って俺は寝巻きのハーフパンツを捲り、右太ももの傷跡を見せる。
「うおっ!お前そんなとこに傷あったのか。全然知らなかった」
「普通に学校生活送ってれば見えないとこだからな。自分から話すようなことでもないし家族以外はほとんど知らない。ケガした時に一緒だった美月くらいだ。」
「あ、そうか。その傷のことを聞いたんだな?」
「そう。でもあえて左足の傷、覚えてる?って聞いた。」
「なるほど。知らないやつなら、左足って言われても訂正できないってことか。で、なんて返ってきたんだ?」
「『湊の足の傷は右足でしょ?』って……」
「でもそれだけじゃないんだ……」
「ん?他にもなんかあるのか?」
「この傷って小さい時に山で遊んでる時にできたんだよ。うちの裏を少し行ったところにあるちっちゃい山で。」
「でも当時の俺は転んだことがどうしても恥ずかしくて親には転んだこと言わなかった。背の低い木の枝でひっかけたって言ったんだ。」
驚いた顔で蓮が聞く
「それを知ってた?美月ちゃんが誰かに話してたってことは……ないか。そんな子じゃないな。」
「そう。あるとしたらそれくらいだけど俺が恥ずかしがってることを誰かに言うようなやつじゃない。」
「湊、それってやっぱりさ……」
「うん。俺はこの相手、本当に美月なんだと思う」
一度、言葉を切る。
「……美月であって欲しい。何が起きてるのかわけわかんないけど」
「わけわかんなすぎるな。でもなんか俺もそんな気がしてきたよ。そのあとは何話したんだ?」
「あっ……そういえば思考が停止しちゃって返信してないや。」
「じゃあ今から返信してみようぜ!もっと話せば何かわかるかもしれない。」
「だな。返信してみるわ。」
「それと明日の朝にはまた今日のやりとり消えてるかもしれないんだよな?やりとりの画面、スクショ撮っておこうぜ!」
蓮の提案に、なぜ俺は今までそこに思い至らなかったのかと思った。
俺は今朝のやりとりをスクリーンショットで残した。
「なんか思いがけない方向に進んできたな……」
「そういえばさ、俺ってお前ら二人とは中学からの付き合いじゃん?せっかくだしそれより前の二人の話、いろいろ聞かせてくれよ。まずはそのケガした時のこととかさ!」
現実感の薄い流れに、ここで考えても答えが出ないと思ったのか蓮が話題を変えてくれた。
そこからしばらく昔話をして、気付けば時計は0時を回っていた。
「いつの間にか0時過ぎてるじゃん!日付変わっちゃったよ。二人の思い出話も聞かせてもらってお腹いっぱいだ!今日のところはそろそろ寝ようぜ。」
満足顔の蓮はベッドの下に敷いた来客用の布団に飛び込む。
「そうしよう。日付変わるまで起きてるのなんて久しぶりでもう眠いよ。」
「あっ!寝る前にもっかいメッセージ確認してみろよ。返信きてるかもしれないじゃん!」
そういえば昔話の間、蓮の質問攻めにあいスマホを確認する暇もなかったなと思いスマホを手に取る。
「…………あれ?」
「どうした?」
「消えてる。朝のやりとりもさっき送った返信も……」
「マジか。朝には消えてるって聞いてたけどさっき返信した時は朝のやりとりまだあったんだよな?」
「あったよ。間違いなく残ってた。スクショも撮ったし。」
「だよな。いつ消えてんだ?」
「……そういえば今の時間……0時過ぎだったよな?日付が変わったから?」
「わかんない。でも可能性はありそう。」
「だよな。しっかり確認したいな。湊!明日も泊まっていいか?消える瞬間見てやろうぜ!」
こうして蓮の二日連続のお泊まりが決まった。




