答え合わせ
目が覚めたのは午前6時だった。
いつもより早い。
もう一度寝ようと思ったが、なぜか眠気はなかった。
ぼんやりと天井を眺めていると、昨日の蓮との会話が頭に浮かんだ。
「最後に送ったメッセージにはまだ既読がついてないんだろ? もし返事がきたら教えてくれな」
俺は枕元に置いていたスマホを手に取った。
画面を点ける。
通知はない。
美月とのトーク画面を確認する。
――何もない。
「……またか」
昨日まで確かにあった。
寝る前にも確認した。
既読はついていなかったが、やりとり自体はそこに残っていた。
なのに、今は最初から何もなかったみたいに、綺麗さっぱり消えている。
いつ消えた?
寝ている間か? 決まった時間に消えているのか?
俺はスマホの画面を見つめたまま、しばらくぼーっとしていた。
気づけば、そろそろ7時になる。
昨日までと同じなら、そろそろ……。
その瞬間。
ピコン。
静かな部屋に通知音が響いた。
反射的に画面を見る。
送り主は、白石美月。
『おはよう、湊』
きた。
今日もぴったり同じ時間、同じ文面。
昨日のメッセージへの返信はないままだ。
『昨日もメッセージしたよな?』
すぐに返信がくる。
『ほぼ毎日してるじゃん(笑)』
『昨日はあんな感じになっちゃったけど……私が悪かった。本当にごめん。』
まただ。
また謝ってる。
『あんな感じって?』
少しだけ間が空いて、7時3分。
『湊のことすごく怒らせちゃった……』
『ごめん』
昨日と同じだ。
ここで、昨日の蓮との会話を思い出した。
俺と美月しか知らないこと……。
『そのことはもういいよ。大丈夫。』
『それよりさ、俺の左足の傷って、なんでできたか覚えてる?』
既読がついた。
けれど、すぐには返事がこない。
やっぱり、知らないのかもしれない。
俺の中に、そんな考えが浮かぶ。
もし美月じゃなかったら。
もし、俺のことを知っている誰かが、ふざけてこんなことをしているだけだったら。
昨日までなら、きっとそう考えていた。
でも、今は違う。
俺はもう、答えを知りたかった。
7時5分。
スマホが震えた。
『左足? 湊の足の傷は右足でしょ?』
思わず息を呑んだ。
まだだ。
これだけじゃ、まだ分からない。
「右足」なんて、誰かが知っていてもおかしくない。
そう思った直後、続けて通知音が鳴った。
『2人で山で遊んでて転んだ時の傷だよね』
『湊、転んだことを恥ずかしがって、お母さんたちには木の枝に引っ掛けたって言ったんだよね』
画面を見たまま、指が止まった。
誰にも話していない。
俺自身、もう何年も思い出していなかった。
そんなことを知っているのは――。
美月だけだ。
『……なんで知ってるの?』
送ってから、答えは分かっていることに気づいた。
分かっている。
それでも、次に届くメッセージを見るまで、俺は信じることができなかった。
『なんでって、だって私が一緒に遊んでたんじゃん! 湊の家の裏の白羽山で』
その瞬間、胸の奥が大きく鳴った。
美月だ。
間違いない。
画面の時計は7時7分を示していた。
俺はスマホを握ったまま、しばらく動くことができなかった。




