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君と繋がる七分間  作者: ひだりみぎ


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変わらない場所

 凛と日程を調整し、ゴールデンウィーク初日に白石家を訪ねることになった。


 それまでの美月との朝のやりとりは、いつもと変わらない何気ないものだった。


 そして、ゴールデンウィーク初日。


『おはよう、湊』


『おはよう。今日はちょっと出かけようかと思って早めに起きた』


『そうなの?どこいくのー?』


『秘密』


『なにそれ。怪しい』


『そういえば美月はチーズケーキ好きだったよな。おばさんはモンブランだっけ?凛は……プリンか。おじさんはどんなケーキが好きなんだ?』


『あー、話変えてる!ますます怪しい!』

『お父さんはシンプルにショートケーキが好きだよ!意外でしょ?』


『そのイメージはなかったわ』


『でしょ?かわいらしいのよ』


『おじさんにも久しぶりに会いたいな』


『お父さんも湊に会いたがってるよ!中学上がったくらいから家にはあんまり来なくなったもんね』


『……近いうちに遊びにいくよ』



 

 美月とのやりとりを終えた俺は、午前中はゴールデンウィークの課題を片付けた。


 約束の時間より少し早く、家を出る。



 見慣れた玄関。

 昔は何気なく押していたインターホンが遠く感じる。


 意を決してインターホンを押そうとすると、それより早くドアが開いた。


「あっ!来てるじゃん!

 お母さん!湊くん来てるよー!」


 本当にこの姉妹はいい意味でも悪い意味でも空気が読めない。

 でも、そんな二人に助けられたことも何度もあった。


「……おばさん。お久しぶりです。」


「湊くん。久しぶり!ほら、あがってあがって!」


「はい。お邪魔します。これ、みんなで食べてください。」


「あら、その箱は……。そんなに気使わなくていいのに。昔みたいに気軽においでなさい。……でもこのお店のケーキは大好きだからありがたくいただくわね」


 おばさんは変わらないな。なんだか安心する。


 居間に通してもらい、凛と共にテーブルに着く。

 おばさんがケーキの箱を開け、中を見た。


「モンブランとショートケーキ、このプリンは凛の分ね。

 あとは……チーズケーキ。」

 おばさんは箱の中を見たまま、少しだけ手を止めた。


 チーズケーキを買うつもりはなかった。

 けれど、店先で見かけたとき、なぜかそのまま通り過ぎることができなかった。

 

「これは美月の分よね?湊くんから美月にあげてくれるかしら」


 ケーキを受け取り、仏壇に供える。

 線香をあげて目線を上げると、写真の中の美月と目が合った。

 写真の中の美月は、いつもどおり笑っていた。

 俺はしばらく、その顔を見つめていた。

 


 居間に戻ると、テーブルの上には俺が買ってきたケーキと紅茶が用意されていた。


「ショートケーキはおじさんの分ですよ。俺は食べてきたので大丈夫です」


「お父さんはゴールデンウィーク中も出張でしばらく帰ってこないから湊くん食べちゃって」


「湊くんが食べないなら私がもらっちゃうよ!」


「いいから凛は大好きなプリン食べてなさい!」


  おばさんは呆れたように笑いながら、俺の方に向き直った。


「そういえば湊くん、最近はどう?学校は楽しい?」


「まあ、普通にやれてます」


「もう高校二年生だものね。はやいなぁ。幼稚園に行きたくなくて泣いてた湊くんが」


「それは忘れてください……」


「あの頃ね、美月も家を出るまでは行きたくないって駄々こねてたのよ。でも湊くんがいるところでは強がって引っ張ってってたわね」


「えっ、美月が?」


 思わず声が出た。


「そうなのよ。家ではあんなに嫌がっていたのに、湊くんの前ではお姉さんぶっちゃってね」


「……なんか、想像できる気がします」



 昔から、俺の前では妙に強がるところがあった。

 でも、まさか幼稚園の時からそうだったとは思わなかった。



「そんな頃から湊くんのことを知ってるんだもの。湊くんは昔からうちの子みたいなものなんだから。これからも、いつでも遊びに来てね」


「……はい」


「その方が、美月も喜ぶと思うから」


「私も嬉しいよ!」


「凛にとっては大好きなお兄ちゃんだもんね」


「うっ……そんなことないし!」

 凛の勢いが弱くなった。

 おばさんには敵わないな。


 

 

「そうだ、湊くん。美月の部屋も見ていく? そのままにしてあるの」


 おばさんから予期せぬ提案があった。


 美月の部屋——

 ずっと当たり前にあった場所なのに、今日はそこへ踏み込むことに、少しだけ勇気が必要だった。

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