クラスメイトの記憶
通学路で蓮を見つけた。
「蓮!」
「おっ!湊!おはよう!」
「おはよう。蓮、一つ頼みがあるんだけどいいかな?」
「なになに?湊の頼みならなんでも聞いてやるよ!……あっ、ごめん。やっぱりなんでもはなし!」
「無理だったら断ってくれていいよ。他の人に頼むから」
「嘘だって、聞く聞く!俺にできないことを湊が頼んでこないのはわかってるって」
「ありがとな。実は、また美月のことで頼みがあるんだ」
蓮の空気が変わった。
「それこそなんでも言ってくれよ。頼ってくれ」
今朝考えたことを蓮に伝える。
「去年の美月のクラスメイトに話が聞きたいんだ。高校に入ってからの美月について、俺の知らない美月の話を聞きたい」
「美月ちゃんのクラスメイトか。何人か心当たりあるよ。昼休みまでに話つけとくから昼休みに屋上集合な」
「ありがとう。助かるよ」
「いいって。俺たちの仲だろ?」
蓮はいつもの調子で笑った。
それから俺たちは、他愛もない話をしながら学校へ向かった。
美月のことを俺はどれだけ知っていたんだろう。
小さい頃から一緒にいて、家族みたいに過ごしてきた。
なんでも知ってるつもりだった。
でも、それは俺と一緒にいる時の美月でしかなかったのかもしれない。
俺のいないところで、俺の知らない人たちと過ごしていた美月は、どんな顔をしていたんだろう。
そんなことを考えているうちに教室に着いた。
そして、昼休み。
俺は蓮との約束通り、屋上へ向かった。
自分の知らない美月を知れるかもしれない希望と、少しの怖さを抱えながら。
屋上に着くと、蓮は既に待っていた。
「ごめん、遅れた」
「大丈夫大丈夫!俺たちもいまきたとこだから。早速紹介するわ。佐々木くんと伊藤さん、あとは……山元さん。湊も知ってるよな?」
あまり見慣れない顔が二人、学校で何度か見かけたことはある程度だ。
山元さんはもちろん知っている。中三の時に俺と美月と同じクラスだった。
「湊くん、久しぶり」
山元さんが口を開いた。
「久しぶり。高校ではあんまり会うことなかったもんね」
中学時代も特別仲がよかったわけではないが、知らない仲ではなかった。
「今日は急に集まってもらってごめん。ありがとう。佐々木くんと伊藤さんは話すの初めてだよね?大崎湊です」
「気にしないで。それより白石さんの話だよね?私たち一週間くらいしか知らないから、そんなに深い話はできないと思うよ?」
伊藤さんが申し訳なさそうに応じてくれた。
「それでいいんだ。高校に入ってからの一週間、美月がどんなふうに過ごしていたのか知りたくて。なんでもいいから覚えてることを話してくれると嬉しい」
俺がそう頼むと佐々木くんが話し出してくれた。
「白石さんか……とにかく明るくて愛嬌があったよね。初日のHR前には『どこの中学校からきたの?』って何人かとすぐ仲良くなってた気がする」
「そうそう。私にも話しかけてくれたよ。初めて話したのに、前から友達だったみたいに自然に話せたんだよね。山元さんとも白石さんを通じて話すようになったんだよね」
「その辺は中学校の時から変わらないよね。美月ちゃんは誰とでもすぐ仲良くなってた。」
言いながら、山元さんがこちらを見たので、俺も頷いた。
「うん。俺はそういうの得意じゃないから昔からすごいなって思ってたよ」
「そういえば……」
山元さんが何かを思い出すように続ける。
「あの頃、美月ちゃんたまに変な顔してたかも」
「変な顔?」
「うん。なんかね、たまになにか考えてニヤニヤしてた」
「あー!してたかも!しばらく喋ってないなと思ったらすごく楽しそうな顔してた」
山元さんの記憶に伊藤さんが同意した。
「あー、女子が集まって話してた時か? 俺らはなかなか入っていけなくて、遠くから見てたわ」
「わかる。女子って、盛り上がってるときは全然入る隙がないんだよな」
佐々木くんと蓮が頷き合う。
「大崎くんの前で言うのもあれだけどさ。白石さんってかわいかったじゃん?気になってるやつがいたみたいでさ。放課後遊びに誘ってたよ。まあ、断られてたけど」
「それは無理無理!美月ちゃんは学校終わったら湊くんと帰るんだから。中学校の時ずっとそうだったもん。ね?湊くん」
「中学まではそうだったね。高校入ってからは別々に帰ってたよ」
「え?そうなの?授業終わると急いで教室から出て行ったりしてたから、てっきり湊くんのところに行ったんだと思ってた」
「幼馴染離れってやつかな」
自嘲気味の笑みを浮かべてしまった。
「なにそれ。初めて聞いた。」
伊藤さんが笑ってくれたので少し助かった。
「まあ、高校生にもなればそんなもんだろ」
蓮が軽い調子で口を挟んだ。
「そういうものなのかな」
「そういうもんだって。……あ、やべ。そろそろ昼休み終わるぞ」
蓮がスマホで時間を確認する。
「ほんとだ。みんな、今日は急に集まってくれてありがとう。話が聞けてよかったよ」
「ううん、たいした話できなくてごめんね」
「そんなことないよ。ありがとう」
そうして俺たちは、屋上を後にした。
教室へ戻る途中、山元さんの言葉を思い出した。
授業が終わると、急いで教室を出ていった美月。
俺は美月が放課後をどう過ごしていたのか、ほとんど知らない。
中学の頃なら、俺も一緒に帰っていたから、そんなことを気にしたことはなかった。
でも、高校に入ってからは違った。
どこへ行っていたんだろう。
美月に聞いてもわからなかった。
誰かと約束でもしていたのか。それとも、何か用事があったのか。
考えてみても、何も思い浮かばなかった。
小さい時からずっと一緒にいたのに。
でも、もう知らないままにはしておけない気がした。
美月があの日、何をしていたのか。
何を考えていたのか。
そして、あの日から一年が経った今、どうして美月からメッセージが届くのか。
まだ、わからないことばかりだ。
だからこそ、俺はもっと美月のことを知りたい。




