あの日、君は
月曜日の朝7時。
スマートフォンが震えた。
『おはよう、湊』
いつもと変わらない一言に返信を打つ。
昨日、本屋から帰ってきてからずっと考えていたことがある。
俺の知っている美月が、美月の全てではない。
そういえば、俺たちが最後にケンカをしたときも、俺は美月の考えていることがわからなくなっていた。
高校に入ってから、美月は少しずつ変わったように思えた。
中学までは当然のように一緒に帰っていた。
放課後、いつものように美月の教室へ行っても、既に帰ったあとということが増えていた。
昼休みもそうだった。
いつもは俺と美月と蓮の三人で過ごしていたのに、気づけば美月だけがいない。
先に帰ることが続いたある日、俺は美月に尋ねた。
「最近帰るの早いよな。何か用事でもあるのか?」
「んー、ちょっとね!湊には関係ないことだよ!」
その頃から、美月は廊下で俺を見かけると、足早にどこかへ行ってしまうこともあった。
高校生になったんだ。いつまでも中学の頃と同じってわけにはいかないよな。
そう自分を納得させようとしていた。
それでも俺にとっては美月がそばにいるのが当たり前だった。
休み時間に美月を探して話しかける。
会話はしてくれる。ただ、目が合わない。
隠し事ややましいことがある時の美月の癖だ。
何か俺には言いたくないことがあったんだろうか。
去年の4月12日。高校に入ってから最初の金曜日。
その日も俺は美月を迎えに隣のクラスへ向かった。
「美月、帰ろうぜ」
「ごめん!ちょっと用事があって……」
また目が合わない。
美月は俺を見ないまま、足早に教室を出ていった。
あの頃の美月とのやりとりを思い出しながらスマホのトーク画面を遡っていく。
あの頃の俺は、中学から高校への環境の変化に戸惑っていた。それ以上に、美月との間にできた距離を受け入れられなかった。
だからあの日、あんなメッセージを送ってしまったんだ。
『美月、クラスには馴染んだ?』
『うん!友達も結構できたよ!湊は?』
『俺のクラスには蓮がいるからどうにかね』
『そっか!蓮くんがいるなら安心だね』
『それでさ、高校生にもなったし一緒に帰るのもやめようか。これからは待たなくて大丈夫。俺もこの一週間で慣れた』
『え?なんでそんなこと言うの?確かに最近忙しくて一緒に帰れなかったけどさ……』
『お互い新しい友達もできただろうし、もう子どもじゃないんだ。幼馴染離れしようぜ』
『……なにそれ』
『幼馴染だからって無理に俺に関わらなくていいよ』
『別に、湊と一緒に帰らなくたって困らないし』
『そっちこそ私がいなくたって蓮くんがいるからいいもんね!』
『もう知らない』
美月が亡くなる前日。
これが俺たちの最後のやりとりだった。
美月が俺から離れていってしまう気がして、それならいっそ自分から。
そんな俺の弱さだった。
翌日、美月が亡くなった。
俺はスマホの画面を見つめた。
『おはよう、湊』
今朝届いたメッセージ。
けれど、このメッセージを送った美月は、2019年4月14日にいる。
前の日、俺たちはあんなケンカをしたのに。
美月は何事もなかったかのようにメッセージを送ってきている。
どうしてだろう。
あの時美月は何を考えていたんだ。




