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君と繋がる七分間  作者: ひだりみぎ


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君の好きな本

 日曜の朝、いつものメッセージで一日が始まる。


『おはよう、湊』


 それを見て、俺も『おはよう』と返した。



『今日は早いね』


『なんか目が覚めちゃってさ』


『二度寝って気持ちいいよ』


『せっかく起きたから起きてるよ』

 少し考えてから、続けてメッセージを送った。

『美月って確か結構本読むよな?』


『読むよー』

『急にどうしたの?』


『いや、俺もちょっと読んでみようと思って』


『え?あの湊がー?』


 画面の向こうでニヤついてる美月の顔が頭に浮かんだ。


『なんだよ』


『別にー』


『それで、何かおすすめない?』


『うーん……』


 少し間が空いた。


『ちゃんとお願いしたら教えてあげてもいいよ』


『よろしくお願いします』


『素直でよろしい』


 思わずため息が出た。

 昔から、こういうところは変わらない。


 美月が教えてくれた本の作者には見覚えがあった。

 中学の時、一緒に見たあの映画の原作を書いた作家だった。


 美月とのやりとりを終えて、ふと時計に目を向けた。


 7時8分。


 今日の七分間は終わっていた。


 スマホを置いて、ベッドから立ち上がる。


 昨日までの四日間、どうにか美月を事故から救おうとしてきた。でも、何を送っても事故のことは伝えられなかった。ほかに方法がないか、蓮にも相談してみたかった。


 俺はスマホを手に取り、蓮にメッセージを送った。


『朝早くからごめん。今日時間ある?ちょっと話したいことがある』


 



 11時前、俺と蓮は以前にも相談に使った、市役所内のカフェにいた。


「急に呼び出してごめんな。来てくれてありがとう」


「そりゃ来るって。美月ちゃんの件だろ?」


「うん。……実はさ、メッセージを送ってくる美月は、ずっと4月14日のままみたいなんだ」


「……やっぱりそうだったのか。何か確認できたのか?」


「蓮は気づいてたんだな。これ、見てくれ」


 4月22日からのメッセージのスクショを見せた。

 

「美月が4月14日のままだってわかってから、とにかく事故のことを伝えようとしたんだ。でも、届かなかった。7時8分になってなくても……」


 画面をスクロールしながら届かなかったメッセージを見せる。


「事故のことを直接伝えるのは無理なのかと思って、遠回しに伝えようとしてみた。でも、届かないんだよ。家に引き返してほしいとか、違う道を通ってほしいとか……全部ダメだった」


「……つまり、事故を避けるために送ったメッセージは、時間に関係なく届かなかったってことか」


「そう。でも今朝みたいな何気ない会話は、今まで通り7時8分になるまでは届くんだ」


「事故のことを伝えるのも、避けるのもできないってことか……」


「今のところは、そうみたいだ」


 蓮はスマホの画面に目を落としたまま、しばらく黙っていた。


「他に何か試したのか?」


「いや……でも凛には会ったよ。美月の妹。蓮は会ったことなかったっけ?」


「話には何度か聞いてたよ。その凛ちゃんに会って、何か話したのか?」


「美月があの日、どうしてあの時間に出かけたのか。そこに何かヒントがあるかもしれないと思ったんだ」


「それで凛ちゃんに聞いたのか」


「うん。でも凛も出かけた理由までは知らなかった」


「そっか……」


 蓮はテーブルのコーヒーに手を伸ばし、何か考えているようだった。


 凛に聞いてもわからなかった。

 でも、俺が知らないことを知っているのは、凛だけじゃない。

 


「なあ、蓮」


「ん?」


「蓮から見て、美月ってどんなやつだった?」


「急にどうしたんだよ」


「ちょっと気になって」


「俺よりお前の方がよっぽど美月ちゃんのことよくわかってるだろうが」


「そう思ってたんだけどさ。蓮から見た美月の話も聞いてみたいんだ」


「……そうだな」

 蓮が少し考えるように視線を上げた。


「中一の時ってさ、俺と美月ちゃんが同じクラスだったじゃん。最初のホームルームで学級委員を決めることになったんだけど、誰も立候補しなくてさ」


「うん」


「みんな、やりたくないけど早く帰りたい、みたいな空気だったんだよ。それで美月ちゃんが手を挙げたんだ」


「へえ……」


「やりたかったわけじゃないと思うんだけどさ。あの空気を見て、自分から手を挙げたんだよな。周りを見て動ける人なんだなって思ったよ」

 



「ふっ……」

 俺は思わず笑ってしまった。


「実は、その時のこと美月から聞いたことあるんだよね」


「え、そうなの?」


「うん。やりたくはなかったけど、早く帰りたかったから手を挙げたんだってさ。結局その日は早く帰れたけど学級委員の仕事で放課後残ることが増えて後悔してた」


「ははっ、なんだよそれ」


 蓮も笑った。


「じゃあ俺が考えてたほど深く考えたわけじゃなかったのか」


「いや、周りは見てたんだとは思うよ。ただ、それよりも早く帰りたかったんだろうけど」


 美月らしいな、と思った。

 周りを見て動くことはある。

 でも、自分がそうしたいから動くことだってある。


「なんか、ちょっと安心した」


「何が?」


「俺の知らない美月の話を聞きたかったんだけどさ。聞いてみたら、やっぱり美月らしいなって思うところもあって」


「なんだよ、それ」


 蓮は呆れたように笑った。


「まあ、俺だって美月ちゃんのことを全部知ってるわけじゃないけどな」


「それはそうだろ」


 俺たちは顔を見合わせて笑った。

 時計を見ると、いつの間にか昼を過ぎていた。


「付き合わせて悪かったな」


「いいって。また何かわかったら連絡してくれよ」


「うん、ありがとう。」



 蓮と別れ、俺は本屋へ向かった。


 朝、美月に勧められた本を手に取る。

 そのすぐ隣には、あの映画の原作が並んでいた。


 美月と一緒に映画を見たのは、もう何年も前のことだ。


 あの頃の俺は、隣にいる美月のことを、なんでも知っているつもりでいた。


 俺は二冊の本を手に、レジへ向かった。

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