消えたメッセージ
昨日とまったく同じメッセージ。
届いた時間も同じだ。
日付が変わる頃には、確かに消えていたはずなのに。
あれは幻覚じゃなかったのか。
それとも、今も夢でも見ているのか。
……誰かのいたずらなのか?
いたずらだとしたら、あまりにも悪質だ。
俺は相手の正体を確かめるため、返信することにした。
『誰?』
送信。
既読。
……早い。
そして、数秒後。
『誰って何?』
続けてもう一件、メッセージが届いた。
『私だよ。美月。やっぱり湊のことなんてもう知らない!』
あくまで美月になりすますつもりなのか。
『もう知らない』
あの日の言葉が頭をよぎった。
怒りで、スマホを握る手に力が入る。
俺はスマホをベッドに放り投げ、学校へ行く準備を始める。
学校へ向かいながら、今朝の出来事を思い返す。
どうして、こんなことができるんだ。
腹が立つ。なのに、悲しかった。
「湊! おはよう! 今日も相変わらず元気がないな!」
後ろから声をかけられ、振り返った。
「おお、蓮か。お前は今日も変わらず元気だな」
声をかけてきたのは片倉蓮。中学からの同級生で、今も同じクラスだ。
背が高く、スポーツもできて、顔もいい。おまけに友達想い。腹が立つくらい恵まれたやつだ。
ただ、少しバカなところもある。そこがこいつらしい。
俺にとっては、何でも話せる親友だった。
美月と俺は、小学校から高校までずっと一緒だった。
蓮とは中学で知り合った。小学校は別だったが、入学してすぐに仲良くなり、美月やほかの友人も交えてよく遊んでいた。
「元気がないわけじゃないさ。ただちょっとイライラしてる」
正直に今の気持ちを伝えると、
「どうした?お兄さんになんでも話してみなさい!」
蓮は朝からなんでこんなにテンションが高いんだ。
「お兄さんってなんだよ、そのノリ。……なんて言えばいいのかな。難しいな。美月のことだよ」
それを聞いた蓮は、真剣な表情になった。
「美月ちゃんのこと?昨日が命日だもんな。俺も墓参りに行ったよ。」
「そうなんだよ。なんでわざわざ命日にあんなことを…しかも今朝だってまた…」
「よし!午前はサボりだ!河川敷いくぞ!」
「は? いや、授業は?」
「そんなもん、午後から出ればいいだろ!」
俺の返事を待たず、蓮は歩き出した。
「ここに来るのも久しぶりだな…」
子どもの頃は美月とよくここで遊び、中学でもみんなのたまり場だった。
美月が亡くなってからは無意識に避けていたかもしれない。
「美月ちゃんの話をするならやっぱここでしょ!で、何があった?」
蓮はいつもの笑顔を浮かべていたが、問いかける頃には真剣な顔になっていた。
俺は、昨日届いたメッセージのこと、今朝も同じものが届いたこと、そして返信したことまで、すべて蓮に話した。
「はぁ!?なんだよそれ悪質すぎるだろ。乗っ取りってやつか?なんにせよ許せねえ!それで湊はそこから返信したのか?」
「いや、それからは返信してない。」
「どうやってるかはわかんないけど、美月ちゃんのことを知ってる誰かだろ? 本当に許せねえ。……嫌かもしれないけど、もう少し返信してみようぜ。何かわかるかもしれない」
乗り気ではなかった。
それでも、相手の正体は突き止めたい。
俺は蓮の提案に乗ることにした。
『本当に誰? 美月なわけがないだろ。俺と美月のことを知ってる誰かなのか? いい加減、正体を明かしてくれ。』
許せるかどうかは別だ。
それでも、返信があれば何かわかるかもしれない。相手がこのまま美月になりすますのか、それとも正体を明かすのか。まずは確かめるしかなかった。
朝とは違い、なかなか既読がつかなかった。
もし同年代のやつが犯人なら、今は午前の授業中だろう。
蓮と話しているうちに、少しだけ気持ちが落ち着いた。
昼まで河川敷で過ごし、午後から登校した。当然、教師にはこっぴどく怒られた。
家に帰り、スマホを確認した。
まだ返信がない。それどころか既読もついてない。
時刻は午後11時27分。
そろそろ寝るか。
翌朝目が覚める。
時計に目をやると7時9分。
いつもより少し起きるのが遅かったか。
さて、昨日のメッセージに返信はきてるかなとスマホを見る。
『おはよう、湊』
受信時刻は7時ちょうど。
昨日のやりとりも跡形もなく消えていた。




