湊くん、か
中学校に着いた俺は校舎を見上げた。
「懐かしいな」
あちこちから、中学生の声が聞こえてくる。
体育館の方へ歩いて行くと、ボールが床を弾む音とバスケットシューズが床を擦る音が響いていた。
俺は校門近くまで戻り、練習が終わるのを待つことにした。
しばらく待つと、部活を終えた中学生たちが次々と帰っていく。
その中に凛の姿を見つけた。
声をかけようとしたとき、凛が俺に気づいた。
驚いたように目を見開く。
それから笑顔になりかけて、ほんの一瞬、表情が止まった。
「湊くん! どうしたの?こんなところで」
「少し凛と話したいなと思って。この間はあんまり話せなかったからさ」
「……うん、いいよ!」
凛は一度だけ俺の顔を確かめるように見てから、笑顔で頷いた。
「どこか行くの?」
「そうだな。河川敷に行こうか。向かいながら何か奢るよ」
「えっ、本当?じゃあコンビニ寄っていこうよ!」
弾んだ声を聞いて、少しだけ懐かしい気持ちになった。
コンビニに着いた俺たちはそれぞれ店内を見て回る。
飲み物を手に取り、スイーツ売り場に目をやると、凛がプリンを見つめていた。
「プリンでいいのか?」
「うん」
凛はプリンから目を離さないまま答えた。
「あ、あと飲み物もいい? いいよね。ありがとう!」
返事をする前に礼を言われてしまった。変わらないな。
買い物を終えた俺たちは河川敷へ向かう。
「そういえば、凛ってプリン好きだったっけ?」
「好きだよ!それと、これみたら思い出しちゃって……」
「思い出す?」
「うん……昔、私が楽しみに取っておいたプリンをみーちゃんが勝手に食べちゃってさ」
「怒ったの。なんで勝手に食べるの?楽しみにしてたのにって」
「そしたらみーちゃんは『食べたかったんだから仕方ない!』って」
「子どもっぽいな」
いかにも美月が言いそうなことだ。俺は小さく笑った。
「でもね、次の日、冷蔵庫みたら同じプリンが二個あったの。『今日は一緒に食べようよ!』って」
「そっか。凛が美月に怒ってたのってそういうこともあったんだな」
プリンの話が終わる頃には河川敷に着いた。
俺たちは並んで座り、凛はプリンを食べている。
「ここでよく三人で駄菓子とか食べてたよな」
「俺や凛が食べてるのを美月が欲しがってさ」
「そうだね。プリンと一緒だ」
凛は笑った。
懐かしむようなその笑顔に、少しだけ寂しさが混じっていた。
「こうやって話すの、久しぶりだね」
「昔はみーく……湊くんとみーちゃんと三人でいろんなところで遊んだよね」
俺は、凛の言い直した呼び方が少し気になった。
「……そうだな」
「……なあ、凛」
「ん?」
「美月が事故に遭った日のこと、覚えてるか?」
その言葉を聞いた凛は一度こちらを見つめたあと、手元のプリンに視線を落とした。
「……もちろん覚えてるよ」
「朝、出かけて行くみーちゃんに『いってらっしゃい』って言ったことは今でも覚えてる」
「でも、事故のことを聞いてからのことはほとんど覚えてない」
「……そっか」
俺は少しだけ言葉に詰まった。
「ごめんな。つらいこと思い出させて」
「ううん。大丈夫だよ」
凛は小さく首を振った。
「……美月はあの日どこにいこうとしてたんだろうな。凛は何か聞いてないか?」
凛は、少し考えてから答えた。
「……わかんない。出かけていくのを見送っただけだから」
「……そっか」
「凛も部活終わりで疲れてるだろうし、そろそろ帰ろうか」
「うん。今日は会いにきてくれてありがとう!」
「またこうやって話せるかな?」
「ああ、また会いに行くよ」
「うん!湊くん、またね!」
「気をつけてな」
凛と別れ、家へ向かって歩き出す。
しばらくして、俺はふと足を止めた。
「……湊くん、か」




