何も知らなかった
7時8分を過ぎてしまった。
結局既読はつかないまま……
今まで7時7分までのメッセージに既読がつかなかったことはなかったのに。
どうして既読がつかないんだ?
いつもなら、ここで理由を考えていた。
でも、今は——
美月に伝えなくては。
このままではダメだ。
『美月』
やはり既読はつかない。
「メッセージがダメなら……」
気付けばアプリの通話ボタンを押していた。
繋がった時に何を話すか、そんなことは考えていない。
伝えないと——
呼び出す音は鳴る。
鳴り続ける。
鳴り続ける……
鳴り続ける…………
止まった。
繋がらないかもしれない。
それでも何もせずにはいられなかった。
通話ができなかった後、俺はまた何度かメッセージを送った。
『お前はその日、事故に遭う』
『今すぐ家に引き返してくれ』
『それがダメなら少しどこかで休んで時間をおいて』
『違う道を使おう』
どのメッセージにも既読はつかない。
「ダメなのか……7時8分を過ぎてるから?」
今までと同じなら今日はもう伝えられない。
もっと早く伝えないといけない。
明日だ。
明日も朝に美月からメッセージが来るなら。
学校にいる間も、頭の中は明日の朝のことでいっぱいだった。
美月に、なんて伝えればいいんだろう。
先生の声は聞こえているのに内容が頭に入らない。ノートを取ろうとしても、気づけば翌朝送るメッセージのことを考えている。
明日もメッセージがくる保証はない。
それでも、俺にはその可能性に縋るしかない。
その日の夜は、いつもより早く布団に入った。
明日の朝も、美月からメッセージが届くと信じて。
『おはよう、湊』
来た!
事故のことを伝えなければ。
そう思うのに、俺は先に日付を尋ねる文字を打っていた。
『おはよう。今日って何日だっけ?』
『4月14日だよ!』
昨日と同じ。
事故に遭う日だ。
美月の時間は進んでいない。
今日こそ、間に合わせる。
『美月、落ち着いて聞いてくれ。お前は今日事故に遭うんだ。今すぐ家に引き返してくれ』
送信。
時刻は7時3分。
「間に合った……これを見て引き返してくれれば、もしかしたら……」
美月を救えるかもしれない。
ずっと、どうしようもないことだと思っていた。
美月を失った過去は変えられないものだと諦めていた。
過去を変えることができたとしても、その代わりに何か失ってしまうかもしれない。
怖い。それでも……変えたい。
7時4分、
7時5分、
既読がつかないまま時間だけが進む。
7時6分、
まだ、既読はつかない。
7時7分、
頼む。美月、見てくれ。
そして——
7時8分。
既読はつかなかった。
時間が問題じゃないのか?
翌日も文面を変え、メッセージを送った。
『事故に遭うから違う道を使おう』
けれど、既読はつかなかった。
そして、今朝も
『忘れ物してないか?どこかで休んで確認してみたら?』
時計は7時10分を示している。
既読はつかない。
もう今日は既読がつかないとわかっている。
それでもスマホを離せなかった。
どうしたら美月を救える?
そもそも俺はどこまで美月の事故のことを知っている?
あの日、美月はなんであんな時間に外を歩いていた?
俺が事故のことを知ったのはいつだった?
そうだ、あの日の朝……
8時前に母さんに起こされて……
「湊!美月ちゃんが……美月ちゃんが…………」
母さんから事故のことを聞かされてから何も考えられなかった。
美月はずっといると思っていたから。
何も知らないんだ。あの日のことを。
知らないといけない気がした。
美月を失ったあの日のことを。
あの頃の美月のことを。
あの日美月はどこに何をしに向かっていたのか。
それを知っているのは誰だ?
「……やっぱりあいつかな」
「そういえば今日は土曜か」
「中学校の部活って土曜もあるよな。とりあえず学校行ってみるか」
「急に会いに行ったらびっくりするかな。でも凛なら大丈夫だろ。」
そう自分に言い聞かせ、出かける準備を始めた。




