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#19 作戦

『アマデラス殿は、一人で囮役に?』


 アルメリアの士官から、そう問いかけられる。


『ええ、私一人で、引きつけます』

『ですが、それで魔物を倒したとして、その後はどうされるのです?』

『坂口が……日ノ本皇国海軍の攻撃機が、迎えに来ることになっています。さ、早く離れないと、まもなく魔物が襲い掛かってきますよ』

『了解です。ご武運を』


 レプテ島の中央に広がる平原の上で、私はあらかじめ「仕掛け」を施されたこの大地の上に立つ。私の覚悟を聞いたその士官は敬礼し、その場を去る。

 そして、私一人が取り残された。


『さて、魔族よ。お前ならばこの私を見つけ出し、必ず全魔物をもって襲い掛かってくるだろう』


 腰には、数個の魔石を詰めた魔物の毛皮袋がある。この石のおかげで、私は戦いやすくなる。

 いや、もちろん仕掛けは、それだけではない。というより、背中のこれはむしろ、魔族との最後の戦いのために使うものだ。

 それ以外の仕掛けは、すでにこのレプテ島周辺に施されている。多数の魔石が平原一帯に埋め込まれており、そこにアルメリア兵や日ノ本兵たちによって少しづつ魔力を込めてもらった。

 その結果として、ここには無数の「上級魔導師」がいると錯覚させられる。

 となれば、この狭い島に魔物が殺到するはずだ。

 さあ、魔族よ。この罠に引っかかるか?

 まもなく、その魔族が我が罠に引っかかったことを知らせる通信が、聞こえてきた。


『バサール島南東、魔物艦隊発見! バサール島南端を迂回する方向に進撃中!』


 やはり来たな。バサール島とは、このレプテ島のすぐ横にある島だ。この島を迂回しない限り、レプテ島にはたどり着けない。

 メラネシア方向から、ここの魔力を察知して大急ぎで群勢を連れてやってきたのだろう。本来ならば夜を好む彼らが、真昼間に現れた。

 船の数も、いつの間にか二百隻を越えているとの報告があった。軍船のみならず、民間船、特にタンカーを奪取し、それに魔物を満載しているようだ。

 もちろんだが、私がその魔物すべてとこの島戦うわけではない。

 すでに戦いの火蓋は、切られていた。


◇◇◇


「攻撃機隊、発進!」


 空母「飛翔」からは、三十の八七式艦上攻撃機がまさに発艦準備を整えていた。今度の敵である魔物艦隊を攻撃すべく、二百五十キロ爆弾を搭載している。

 もっとも、ただの二百五十キロ爆弾ではない。その先端には、アルメリアから供給された魔石を取り付けた、対魔物専用の兵器だ。

 それを、魔導訓練を受けた飛行士が操る攻撃機と共に発進する。

 カチッカチッと、ライトが点滅する。旗も振られ、全機発進の合図が下された。それを見た八七式は順次、滑走を開始する。

 ガクンと機首を一瞬、落としながらも海面すれすれで上昇に転じ、発艦していく八七式が全部で三十機。他の日ノ本、アルメリアの各空母からも同様に、攻撃機や雷撃機が発艦している頃だ。

 全部で、五百を超える攻撃機隊が魔物艦隊を迎え撃つ。この攻撃機隊の任務は、魔物を乗せた艦艇を沈めることにある。つまり、海の上で魔物を全滅させることが狙いだ。

 一時間ほど飛ぶと、先頭の指揮官機が大きく翼を振る。眼下には、多数の船団が見えてきた。と同時に、別方向からも航空機隊が現れた。

 それは、青い機体。バルデリンジャーと呼ばれるアルメリア軍の攻撃機だ。その数、およそ七十。別の方角から、青色と明灰色の機体が集結し始めた。


 いかに相手が人の作った艦艇や船であっても、ただの二百五十キロ爆弾をぶつけただけでは沈められない。

 その船には、魔族が張った「防御魔導」があるためだ。

 その防御魔導をまず破壊するための、第一撃目が開始される。

 「飛翔」を飛び立った三十機と、アルメリア軍の五十機がほぼ同時に急降下を始める。狙いは、まさに敵の中央に位置する戦艦群……ではなく、その手前にあるタンカーだ。

 八十機の内、先頭を行く日ノ本軍機三十機から、爆弾が一斉に切り離される。その中の一機にいた坂口が、詠唱する。


『我が皇国を守る炎の神よ、我が魔導の力をもって、魔導の障壁を貫きたまえ、ローダンデ・ランス!』


 まず坂口の魔導がこもった爆弾が強烈な速度で魔物艦隊の前端部に向かって放たれる。遅れて他の機体でも、落下していく爆弾へ一斉に魔力が込められていく。それらは一直線に目前にいる魔物の艦隊へ向けて、吸い込まれるように飛んでいく。

 対空砲火はない。魔物が、それを放つことはできないからだ。しかし一方でそれは、防御魔導の堅牢さに対する自信の表れでもある。しかし、まさかその防御魔導を打ち崩す力を彼らが持っているなどとは、唯一の魔族であるリゲルはこの時、思いつきもしなかった。


『な、なんだ!?』


 だからこそ、奴の目前で、タンカーを囲んでいた見えざる魔導防壁が打ち砕かれた瞬間、その異変に驚愕する羽目になる。

 坂口の放った最初の一発目が、まず防壁を突き破った。猛烈な爆発音と共に、見えざる壁を破壊した。

 続いて落ちてきた二十九発が、次々にタンカー目掛けて落ちていく。

 一発ごとにタンカーを炎に包み、大爆発を起こして船体をへし折り、そして次々と沈めていく。


『な、何事だ!? どうして防御魔導が突破されている!』


 戦艦「ノースウェア」の艦橋にて迫りくる航空機隊を涼しい顔で見ていたリゲルが、目前で起きている事態に一瞬、狼狽する。奴らが爆弾や砲を使うことはすでに知っていたが、防御魔導が突破され、いとも簡単に魔物らを乗せた船団を沈められるなど想定外だった。

 それで終わらない、今度は青い機体の集団が、後方にいる戦闘艦艇の集団に向けて急降下爆撃を加えてきた。

 当然、リゲルの乗る「ノースウェア」にも数発、落ちてきた。砲塔の直上に一発が命中し、直後、大爆発を起こして火柱が上がる。

 そう、この艦内にはまだ、砲弾が残されたままだった。それを、魔石によって強化された炎魔導が貫いて、その残されていた砲弾と弾薬に火をつけた。

 「ノースウェア」はその位置で真っ二つに折れる。無数の魔物が海に投げ出されて、艦が大きく前のめりに傾き始めた。


『くそっ!』


 もはや、反撃どころではない。大急ぎでリゲルは甲板まで駆け下り、救難ボートへと飛び込んだ。目前で魔物らが沈む姿を、ただ見守るしかない。


『なんてことだ、もしやあの魔導師の奴め、こやつら人族に、何かを仕込んだのか……?』


 揺れるボートを魔導で操り波をかわしながら、リゲルは呟く。無数の航空機が迫り、次々と炎魔導のかかった爆弾を叩き落としていく。

 が、その五百機もの猛攻に耐え、数隻だけが生き延びた。やむなくリゲルは、その数隻を集めて前進を続ける。


『おのれ、魔導師め。なんとしてでもお前を見つけ出し、叩きのめしてくれる』


 すでに一千体までに減ったと思われる魔物ではあるが、このまま他の陸地に転進して魔物の増大を図ったところで、魔導の力を身に着けた人族の反撃で数を減らすばかりだろう。ならば、その元凶たる魔導師を倒さねば、ますます不利になりかねない。

 そう考えたリゲルは、進路そのままで、ヴィルヘルミーネがいるレプテ島へとその舳先を向ける。

 が、そこで再びリゲルは、絶望する。

 向かう先には、ずらりと多数の船団がいたからだ。


「右舷(みぎげん)、七十五度、敵魔物船団を視認!」

「よし、アルメリア艦隊にも知らせる。発光信号、送れ!」

「はっ!」


 我、魔物艦隊を発見せり、この報は戦艦、重巡洋艦で構成された二十五隻の艦隊に一斉に知らされる。


「戦艦『和尊』で、先制攻撃を仕掛ける。右砲戦八十五度、一斉撃ち方用意、測距開始!」

「はっ! 全砲門、右砲戦八十五、一斉撃ち方に備え!」


 両軍で最大口径、最大射程を持つ「和尊」の砲身が、一斉に回頭を始める。と同時に、砲身が上方を向く。


「測距完了、敵船団七隻、距離三十八キロ!」

「よし、先制攻撃を行う。主砲全門、撃ち―かた始め!」

「主砲全門、撃ちーかた始め!」


 復唱と共に、艦内にはベルの音が響き渡る。と同時に、三基の三連装砲から一斉に砲弾が放たれた。

 遠くから放たれた砲弾の発射を、リゲルも捉える。


『くそっ、人族どもめ! 我が防御魔導の恐ろしさを見せつけてくれる!』


 再び防御魔導を張るリゲルだが、魔石も搭載されていないはずの砲弾が届くと、事態は一変する。


「だーんちゃく!」


 合図と共に、その七隻の船団に向かって九発の砲弾が着弾する。防御魔導表面で、猛烈な爆発を起こすが、四十六センチの口径を持つこの砲弾の威力は、リゲルの防御魔導すらも上回った。


『うわっ!』


 さすがの衝撃に、自身の周りに防御魔導をかけるのが精一杯だった。大きな水柱を上げ、残った七隻のうちの一隻に、砲弾が命中する。

 中型の輸送船であったが、それがたった一撃で粉々に砕け散る。中にいた魔物らは海に投げ出され、そのまま海中へと沈んでいく。陸地でこそ力を発揮する魔物にとって、海の上では無力だ。次々に海中へ没していき、そのまま海中で魔物の命の灯が消えていく。

 最初は一隻だけの砲撃だった。が、徐々にその砲弾の数が増えていく。二十五隻の全砲門が、次々と砲撃を繰り返す。リゲルがいくら防御魔導を張っても、力業で突き崩されて、さらに二隻、三隻目と沈んでいく。


『だめだ、このままここにいては危険だ』


 リゲルはついに、海の上にいる戦力を捨て去る決断をする。小さなボートを加速させ、船団のいる海域からレプテ島へと単身で向かう。主(あるじ)に見捨てられた海の上の黒い魔物たちには、もはやなすすべもない。

 七つの黒煙が遠のく中、リゲルは魔導師が発する魔力の流れを頼りに、レプテ島へと向かった。


◇◇◇


『魔物艦隊、壊滅!』


 脇にある通信機が、魔物を乗せた船団の壊滅を知らせた。

 が、魔族はまだ、生きている。

 そう、私ですらも感じるほど近くまで、その魔族は近づいてきていた。

 海岸のある方角から、一人の黒い影が近づいてくるのが見えてきた。

 が、やってきたのは、それだけではない。

 上空に、爆音を立てて低空を飛ぶ八七式が見えてきた。上空でくるりと回ると、それは平原へと降り立ってきた。やがてその攻撃機は、私のすぐ脇で止まった。


『おまたせ!』


 ゴーグルを上げて手を振りながら、降りてきたのは坂口だ。そう、坂口は攻撃が終わったら、まっすぐこちらに向かってくることになっていた。

 そんな二人の前の海岸に、ボートが一隻、たどり着く。そこから、水牛の角のようなものを頭に付けた、燕尾服姿の異形の種族が姿を見せた。ついにこの大量に人族を消滅させた真犯人である魔族が、我々の前に姿を現したのだ。

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