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18/21

#18 準備

『これより、魔導訓練を行う! 今日も厳しく行くぞ!』

『『イエッサー!!』』


 講和が結ばれてから一週間、私はこの琥珀湾基地で毎日、アルメリア兵を相手に魔導訓練を施している。

 予想外だった。日ノ本兵は日々、厳しい訓練を受け続けているからこそ、魔導の習得が早いと思っていた。が、アルメリア兵も負けてはいない。

 日ノ本兵になくて彼らにあるもの、それは、筋力だ。同じ人族同士とは思えない。我が王国騎士団も真っ青なほどの肉体を持ち、その力ゆえか、魔力の流れを力業で制御し、そして途方もない魔導を発揮する。この短期間で、王級とはいかないが、中級や上級魔導師程度の力を得た者が大勢いる。

 炎魔導の使い手がほとんどということは、私の世界や日ノ本皇国兵と同様だが、ともかく、彼らの上達の速さには驚かされる。

 しかも、その方法をただ教わるだけにはとどまらない。


『お伺いしたいのは、この初級魔導の次に、どのような修行をされるのですか?』


 なんと、この訓練風景をすべて映像で記録した上で、かつその先に行われる魔導訓練の方法をも根掘り葉掘り聞き出される。彼らによれば、それらを言語化、マニュアル化し、すぐにでも本国内に伝え、兵士の鍛錬に利用するのだという。

 彼らは、一人一人が強く、かつその方法を言語化したものとして残し、それを一般化し普及することに長けている。

 我々王国では、ほぼ口伝によって魔導の訓練というものは行われていた。日ノ本皇国軍もある程度、その手順を記録して広めていたが、アルメリアは文字や映像を組み合わせることによってその方法を徹底的に分析、言語化し、それを一気に広めようというのだ。

 なるほど、日ノ本皇国との国力の差が大きいとは言われていたが、その力の差を生じさせた理由はこれかと、思い知らされる。

 その国力差を、さらに見せつけられる事態が起きた。


『どうですか、アマデラス殿! これこそがまさに「魔石」ではありませんか!?』


 私は唖然とした。トラック一杯分の魔石が、目の前に運ばれてきたのだ。一つ一つ手に取って確認してみたが、まさしくそれは魔石だった。


『ハロル大使殿、間違いなく魔石です。しかし、貴重な魔石をここまで、しかもこれほどの量を運んでくるとは……』

『いやいや、アマデラス殿、これはまだほんの一部に過ぎませんぞ! 必要とあらば、この二、三十倍を来週にでも琥珀湾(アンバーハーバー)に持ち込ませますぞ! HAHAHA!』


 うーん、なんという行動力だ。日ノ本皇国では考えられない。さすがはアルメリアといったところか。


『せっかく魔石が大量に手に入りましたので、皆で少し違う訓練を、行いたいと思うのですが』

『Oh! 構いませんよ。で、どのような訓練を?』

『ええとですね……このあたりで大規模な爆発を伴っても構わない場所というのはありますか?』

『OK、OK! まさにこの隣の島は火山島ゆえ、何でもやりたい放題ですよ! HAHAHA!』


 それにしても、アルメリアの人々は変に明るい。ハロル大使って、こんな人だったか? にしても、世界の機器が迫っているというのに、どうしてこうも底抜けに明るく振る舞えるのだろうか。とにかく、彼らはなにかと騒がしい。

 訓練を終えた後など、私も坂口もアルメリア兵に囲まれて、やけに会話に付き合わされる。子供や家族の写真で故郷を語る者、戦場での武勲を自慢げに話す者、将来は金持ちになるんだと夢を語る者、様々だ。

 で、その翌日。そんな彼らの保有する大型空母「セプタープライス」に乗り込み、その火山島とやらにやってきた。確かに、常に噴煙を上げつつも、水のように柔らかな溶岩を垂れ流している島だった。


『これより、魔石を用いた訓練を行う! 貴殿らは、すでに中級以上の魔導師だ、魔石を操り、それを叩きつけることができる力を持っている! 存分に、発揮せよ!』

『『イエッサー!』』


 相変わらず、威勢は良いな。要するにだ、砲弾の先に魔石を取り付け、それを魔力で誘導し、狙いの位置に着弾させる。今日はそういう訓練だ。

 それがかなえば、魔物の群れを一掃できるほどの、きわめて有効な力となる。

 もちろん、坂口もこの訓練に参加している。


『よし、まずは手本を見せる! 撃ち方、用意!』


 私は杖を掲げ、詠唱する。


『神聖なる炎の神よ、灼熱の火の山の山腹に、さらなる灼熱を食らわせよ、ローダンデ・クーゲル!』


 私の杖先に、炎の渦が生み出される。と同時に、私は甲板に備えられた三十ミリ砲を構える兵士に合図する。


『今!』


 それを聞いた砲兵は、砲弾を放つ。私の炎魔導を、その砲弾の先の魔石に吸収させる。

 そのまま、この砲ならば到底届かないほど離れた火山の山腹目掛けて、私はそれを誘導した。発射から七十秒後。とてつもない爆発が起きる。

 まさに山の形が変わるのではないかと思われるほどの大爆発だ。魔石によって私の魔導の力が濃縮された影響もあるが、途方もない爆発が発生する。

 すると、山腹に開けられた穴から、新たな溶岩が噴き出し始めた。その光景に、連れてきた百人の魔導師らも大いにはしゃぐ。


『次は、貴殿らの番だ! 各員、杖を持って炎魔導を念じ、あの火山を破壊する勢いで狙い撃て!』

『『イエッサー!!』』


 それからがすさまじかった。十基の砲台から次々に放たれる魔石付きの砲弾に、彼らの魔力が込められる。それらが山腹に着弾すると、すさまじい爆炎を上げつつ山腹に炎の柱を立てる。

 中でもすさまじかったのは、やはり坂口だ。私に次いで、二つ目の火山穴をこじ開けた。新たな穴から、溶岩が噴き出てきた。やはり、こやつの王級魔術師相当の力は偉大だ。

 ともかく、この世界にある魔石の力が本物であると証明された。直ちに魔石の大量採掘と、両軍への分配が決められた。


「ところで、魔物の状況なのですが」


 琥珀湾基地に帰投すると、鞍馬大使がやってきた。


「今、奴らはどこにいるのですか?」

「最新の情報では、メラネシアからヌサンタラの島々にある街や村を襲っているとのことです。陸軍が応戦してますが、数が多すぎてどうにもならないとのことです」


 メラネシアとヌサンタラとは、ちょうどラグーン基地のあったニューグルデン島とフィリッペの間にある大きな島だ。ここにはおよそ、三百万人近い人々が住んでいると聞く。その村々を襲い、魔物の数を増やしているとのことらしい。

 徐々に、魔物の勢力が増しつつある。早くこれらを叩かねば、どうにもならない。私は考える。

 アルメリア兵の魔導も、使えるようになってきた。魔石も大量に手に入る。これだけあれば、今すぐにでも魔物と魔族を追い込むことが可能ではないか?

 いや、魔物の数はおそらく、これまでの比ではないほどの数のはずだ。どこかに誘い込まなくては、勝ち目はない。ましてや魔族をどうやっておびき出すか。

 多分、私自身が囮となれば、魔族はきっと現れるであろう。が、その前にはおびただしいほどの魔物が現れる。それを殲滅し、魔族を引っ張り出さなくてはならない。しかし、どうやって……

 と、そこでふと、大事なことを思い出した。坂口が、私に叫ぶ。


「始まりますよ!」


 そうだった、この日の暮れかけた琥珀湾の基地内を走り、建物に入る。

 そこにはラジオがある。そして、遠く日ノ本皇国からの放送が、まさに受信されようとしていた。

 そう、日ノ本皇国はまさに、正午を迎えつつあった。そして、正午と共に、あるお方の声で放送が流されることになっていた。


『朕、深く、世界の状況に鑑み、非常の措置をもって連合共和国との講和を決断せしめたり……』


 そう、即位してわずか三年ほどの陛下が、国民にアルメリア連合共和国との講和締結に至った経緯を話されているのだ。

 その知らせはすでに、全国民に知らされている。だが、これまでの占領地のほとんどを放棄し、講和に至ったことで、少なからず多くの国民が反発しているということだ。が、そのような情勢下にないことを、陛下は自らの言葉で国民に呼びかけているのだ。


『そもそも、皇国臣民の康寧を図り、万邦共栄の……』


 ただ、ラジオから流れてくる言葉は、あまりにも難しい。文語体というべきか、正直、わたしは何を話しているのかがよく分かっていない。だが、陛下は最後に、こう語りかける。


『朕は、国体のみならず、世界を殲滅す魔の存在を大海洋並びに地上より殲滅するべく、連合共和国との共戦を行い世界の進運を担うべく、兼ねてより戦いによって得たる領土の大半を放棄し、講和を顕現するに至った。これ、朕の意を以って決断に至る。世界を邪知暴虐なる魔族に蹂躙されることなからんこと成すべく、臣民においては朕の意を体せよ』


 つまり、今回のアルメリアとの講和は、陛下の独断であり、しかしそして世界を破滅を防ぐための決断であるから、その陛下の意を組み皇国民の皆には理解してほしい、というような内容だと聞かされる。

 多くの国民にとっては、青天の霹靂だろう。しかし、家族を失った者も大勢いいる。すでに五十万人ほどの軍民、世界で見れば五百万人ほどの人々の命が失われている。多くはこの戦争ではなく、魔物と魔族の仕業だ。尋常ではない事態が、すでに世界では起こっている。

 私は、こぶしを握る。この陛下の決意を、なんとしても無駄にはしないと。

 と、その時、私の頭の中に、とある作戦がひらめいた。


 その日の夜、私は琥珀湾にて、フィリッペ方面軍を指揮する大将と会見することとなった。

 その大将の名は、マグレッサーという。マグレッサー大将は私に会うなり、こう尋ねてきた。


『フィリッペを、魔物どもの手から救い出す作戦を、思いついたと?』

『その通りです、大将閣下』


 私は、地図を広げる。そして、マグレッサー大将閣下の前である島を指差す。


『ここは……レプテ島か』

『はい、そうです。ここに魔物、および魔族をおびき寄せます』

『なにゆえに、この地を?』

『今、魔物らはメラネシアからヌサンタラの島々を巡っていると聞きます。で、あるならば、その近くにおびき寄せるほかありません。この島であれば比較的小さく、また陸海軍、および航空兵力を集中投入するのにうってつけの場所と考えます』

『確かに、その通りだが……問題は、どうやっておびき寄せるというのか?』

『私自身が、囮になります』

『いや、唯一の魔導師である貴殿が囮というのは、あまりにも危険が……』

『魔族をおびき出し、殲滅するためです。生半可な作戦では、やつらは誘いに乗りません。ですから敢えて、私自身が囮になると決めたのです』


 その決意を聞いたマグレッサー大将は、パイプタバコをふかしつつしばらく黙り込み、考える。が、最終的に、私の作戦に賛同する。

 その作戦を、さらに万全のものとするため、その日は一晩中、会議が続いた。


 そして、その一週間後。


 ついに魔族と魔物の大群をおびき寄せる「レプテ島誘導作戦」が開始された。

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