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11/21

#11 壊滅

「つまり、実際に魔物が現れ、私の示した対処法が、功を奏したと」

「その通りですよ、アマデラス様」


 戦艦「和尊」に出向き、そこで山崎司令長官と対面した私は、ラグーン基地で起きたことを聞かされる。これはすなわち、魔族が魔物を増やすため、そして自らの支配域を増やすため、動き出したということに他ならない。


「もはや、単なる訓練ではなくなりました。あなた様の助言と力添えがなければ、ラグーン基地は全滅していたことでしょう。まさに我々、日ノ本軍は、あなた様によって救われたのです」


 思わぬ成果が、ここから数百キロ離れた陸地にてまさに表れてしまった。だが、逆に言えば魔族と魔物はその多くがまだ健在だ。しかも、どこに潜んでいるのかすら分からない。


「アマデラス様が以前、魔物それ自体にはには統制力がなく、それを操る者がいて初めて集団で統率が取れる、と。それを可能にできるのが魔族という種族だけだと、そうおっしゃっておりましたな」

「はい、その通りです。魔物には知性はなく、魔族がいなければただ魔力をまき散らし暴れ回るだけの獣に過ぎません。それを軍隊のように率いることができるのは、魔族のみがなせる技なのです」

「ということは、やはり魔族とやらもいると?」

「少なくとも一人はいることは間違いありません。奴らは、イーストランド島を襲い、そこでアルメリアの船を奪って海を渡った。おそらくは、ヴァトゥレブ島に上陸したこちらの上陸部隊と、アルメリア軍を襲ったのも、奴らなのでしょう」

「一つ、お聞きしたいことがある。魔族とは、何が目的で我々とアルメリア軍、その両方を襲うのでしょうか? ともに争っていることは、さすがの魔族も気づいているはず。ならば一報と手を組んで、もう一方見戦いを仕掛けようとは考えないのですか?」


 山崎司令長官の言いたいことは分かる。だがそれは、人族同士の戦いでなければ成り立たない前提だ。


「魔族は、人族を生かしておこうなどとは考えません。奴らにとって、我々人族はただの下等種族であり、家畜程度にしか思われていなのです。ゆえに日ノ本もアルメリアも、奴らにとっては同じものなのです」


 私の言葉に一瞬、顔をこわばらせる司令長官だが、すぐにこう答える。


「となれば、やつらは我らにとって共通の敵、ということになりますかな」

「その通りです、司令長官殿」


 そう告げると、山崎司令長官は立ち上がり、小さな丸い窓から外を覗き込む。


「とはいえ、此度のことでしばらくの間は、魔族とやらは手出ししてこないでしょう。が、その間にも我々の元へ押し寄せてくる一団がいる」


 私は正直、この指揮官の信条を疑った。人族を滅ぼそうとする魔族が、力を蓄えている。にもかかわらず、この司令長官は人族同士の戦いを続けようというのだ。


「お言葉ですが、人族同士が争っている場合では、ないのではありませんか? 魔族を、そして魔物を放置すると、とんでもないことになりますよ」


 私はそう、司令長官に直訴する。だが、返ってきた答えは冷徹なものだった。


「それは大本営、そしてそれを統帥されている陛下がお決めになること。我々にその権限はないのですよ」


 海軍で事実上、最高位だというこの男でさえ、人通しの戦争を止められないというのだ。すでに何百、何千、いや何万もの人が魔物に食い尽くされたか分からない。そんな事態になっても、彼らは一丸となろうとしない。

 魔族の恐ろしさを、あまりに知らなさすぎる。

 ラグーン基地は正直、運がよかった。おそらくはそれを指揮した魔族は今、魔物の数を増やすことに専念しているのだろう。それが魔物に対抗する力を持つ者たちに、出会ってしまった。

 となれば、ここは一度、身を引いてから魔物をさらに増やすために別の島に住む人々を襲う方が得策だと、そう考えたに違いない。

 だから魔物を増強した後に、再びラグーン基地へ攻めるつもりだろう。

 つまりその魔族は、時間稼ぎを選んだ。自らの配下をより強大にするために。

 今ならば、まだ楽に叩ける。だが、それを実行できる力が私にはない。頼みの司令長官も、このざまだ。

 そして、そんな邪知暴虐な存在を野放しにして、人族同士がまさに殺し合いを続けている。なんと愚かしいことだ。

 そんな戦いに、私自身も自らの身を守るため、戦いに赴かなければならない。


「敵艦隊が、まさに迫りつつある。現在、敵は西北西約八百キロ付近を、ラグーン基地に向けて進撃中の模様。戦艦三、重巡二、軽巡五、駆逐艦十三、そして空母八」


 現在、確認されているアルメリア海軍の空母二十隻の内の半数近くを、この戦いに投入してきた。一方の我が艦隊は、戦艦四、重巡二、軽巡八、駆逐艦八、そして肝心の空母は四隻だ。そのうちの一隻がこの「飛翔」である。

 もちろん、別動隊も迫りつつあると考えられている。全部で三隊に分かれて接近しつつあると考えられている。

 今回、発見されたのはおそらく、敵艦隊の主力と考えられた。空母の数が、それだけ多いからだ。


「空母撃滅に加え、夜戦に備え、敵戦艦、および重巡に対しても攻撃を加える。なお、ラグーン基地より増援もある。まずはこの敵艦隊主力を叩き、この先の侵攻を食い止める」


 溝口参謀長の作戦報告は熱を帯びているが、それとは裏腹に、かなり無茶な作戦だ。こちらは、空母だけで見れば半数しかいない上に、航空戦力だけで空母のみならず大型の砲を積んだ船を重点的に沈めよという、無茶な命令だ。

 私も、やるだけのことはやってみるが、果たしてどれほどの戦果を与えられるか。


「全機、発艦!」


 艦橋からは発艦の号令と共に、その合図となる青色の灯りがともされる。まずは先頭から戦闘機隊が発艦、続いて、魚雷を抱えた攻撃機隊が順次発艦する。

 私はいつも通り、坂口の操る八七式の後部座席に乗り込む。握りしめるのは銃ではなく、杖だ。

 ブーンというプロペラが空を切る音と、それを回す騒がしい機関音と共に、この重そうな飛行機械が甲板から空に向かって飛び立とうとしている。

 甲板を離れる瞬間、一瞬、機体が下がる。が、そこからふわっと上昇に転じ、上空で待つ戦闘機隊と合流する。やがて「飛翔」から発艦した航空機戦力は、敵がいるとされる西北西へと進路を取った。

 他の三隻からの艦載機とも合流を果たす。全部で百七十を超える機数だ。それに加え、ラグーン基地より飛び立ってきた攻撃機隊とも合流を果たす。二百機以上の航空隊となった我が方の軍勢は、アルメリアの艦隊の一つを攻撃すべく向かう。

 これだけの大軍だが、あちらは倍の兵力。すなわち、これ以上の戦力を投入してくるものと思われる。だから私は、ある作戦を溝口に進言し、認可された。

 まさにそれをする場所まで、やってきた。


「敵艦隊、発見!」


 坂口が叫ぶ。雲の切れ間から、戦艦と空母を中心に、それらを囲むように十隻以上の船団が取り囲む艦隊が、見えてきた。

 目視で、おおよそ二十リーグスか……撃てないことはないが、ちょっと遠いな。もう少し近づいてから仕掛けないと、とても当てられない。

 が、あまり悠長なことを言っていられる状況ではなくなってきた。先頭を行く戦闘機の一機が、翼を何度か振る。つまりあれは、敵の航空機が迫っているという知らせだ。


「敵が、迫ってるな」


 私は目を凝らし、前方を見る、少し高い位置を、敵の戦闘機隊らしき黒い点が迫りつつあった。

 できれば、もう少し迫りたい。しかし、敵が迫っている。こちらの戦闘機隊が一斉に増槽を落とし、上昇に転じた。そして、接近しつつある敵の戦闘機隊に向かっていく。


「指揮官機より、突入の合図です!」


 一方の攻撃隊は、先頭を飛ぶ指揮官機が翼を二度振った。追随する味方機へ、敵艦隊への突入するという合図だ。

 ここで八七式も一気に加速を始める。ガタガタと揺れる機体、猛烈な風切り音、そしてけたたましい機関音が入り乱れる。私は、ある物を手にした。

 そして、後ろを振り返る。この機体前方には、まさしく敵の艦隊がいる。徐々にではあるが、その姿が鮮明に見えてきた。距離はおそらく、十三リーグス、こちらの距離でおよそ二十キロと少しまで迫った。

 頃合いだろう。

 私は手に持っていたものを後方に放り投げる。それは細長い旗、ここでは「のぼり」と呼ばれるもので、白くたなびくそれは、攻撃準備を知らせるものだ。各々の攻撃機には、魚雷と二百五十キロ爆弾が搭載されている。そんな攻撃機が、全部で百十機いた。

 そして私は、詠唱する。


『神聖なる炎の神よ、遠く離れた邪悪なる船団に、爆風と灼熱を届けたまえ、ローダンデ・クーゲル!』


 杖先に、赤い炎の渦が巻く。と同時に、私はのぼり旗の紐を解いた。旗が切り離され、落ちていく。

 これは、攻撃開始の合図だ。

 すると百十機から、一斉に魚雷と爆弾が叩き落とされる。それらに向かって、私は炎魔導を放つ。

 坂口も、手に持った杖で私の魔導に魔力を注ぎ込んでくれる。こやつも今や、なかなかの魔導の使い手だ。その二人の魔力をもって、落下していく百十機分の魚雷、爆弾にその力を込めた。

 すると、一斉にそれらの弾薬の塊が、真っ赤に光りながら敵の艦隊目掛けて飛翔していく。攻撃を終えた他の機体は、ここで一斉に反転、帰投し始める。が、この機だけは前進を続ける。

 そう、あの魚雷、爆弾を誘導するため、見守らなくてはならないからだ。

 あれほどの数のものを操るというのも、なかなか難儀なものだ。しかし、狙うは敵艦隊の円陣中央にいる大型の艦(ふね)、すなわち、戦艦と空母だ。そこに、この百十発をすべて叩き込む。

 魚雷を切り離し、身軽になった八七式攻撃機は、さらに増速してそれらを追う。ちょうど敵の船団の一隻一隻が識別できる距離になったところで、私はその百十発の炎に包まれた弾薬の雨を降らせる。

 パッと、無数の光がその中心部の船団で明るく光った。と同時に火柱が上がる。

 すべてではないが、多くが命中したらしい。空母、そして戦艦に、火が灯る。


 が、やはりというか、数が多すぎた。


 私の出せる魔力では、一発ごとの炎魔導の力が小さすぎる。もしたった一発に魔力を込められれば、あの敵の船の硬い装甲を貫いて、内部で爆発させることもできただろう。だが、今回の場合はそうはいかない。

 残念ながら、炎上はしたものの、多くはその厚い装甲を貫くことはできなかった。もっとも、各艦とも五から十発づつの爆弾、魚雷を食らっており、被害は甚大だ。空母の何隻かは誘爆を起こし、大きく傾き始めているものもある。

 が、依然としてその多くが、どうにか沈没をまぬがれたようだ。甲板上では放水が行われ、炎が消し止められようとしていた。こういうところは、アルメリア軍は迅速だ。

 やはり第二の攻撃が、必要だな。

 そんな時だ、単機で飛ぶこの八七式の正面から、数機の戦闘機が迫ってくるのが見えた。


「三郎! ここからは魔導攻撃に移るぞ!」

「了解!」


 私は坂口に向かって叫ぶ。そして杖を突き出して、こう唱えた。


『清浄なる氷の神よ、邪悪なる悪魔の巨鳥を抱えるあの船団に向かってに氷槌をくらわせ、海の藻屑と変えたまえ、ギガンティッシュ・アイスヴァンド!』


 杖先から、巨大な氷の渦を作り出す。それらは寄り集まり、大きな氷塊へと変わる。

 そしてそれを、迫る戦闘機隊に向けて叩きつけた。

 慌てて旋回し、それを回避しようとするも、突如現れた氷塊を避けられず、迫る五機の戦闘機はその巨大な氷塊を叩きつけられ、落ちていく。

 が、その氷塊は勢いを落とすことなく、その先にいた空母の方へと向かっていった。

 そのまま私は炎が消された、比較的打撃の少なかった二隻の空母目掛けて、その氷塊を叩きつける。大きな波しぶきを上げながら、その氷の塊は二隻の腹の部分にそれぞれ突き刺さり、船体を破壊した。

 猛烈な速度で飛ぶ八七式の機関音でもかき消せないほどの軋み音を立てながら、その二隻の空母は徐々に氷の重みに耐えかねて折れていく。やがて船体の限界を超え、真っ二つに折れた。

 あっという間に、二隻の空母が海に没していく。大勢の兵士らが海に飛び込む様子が、ここからも見える。

 周囲の駆逐艦や軽巡から、攻撃を受け始めた。空中でドン、ドンと大きく爆発音が響く。その中を蛇行し、巧みによけつつも低空で大きく旋回する。こちらも、帰投すべく逃げに入る。

 が、正面に一隻の、戦艦が見えた。

 それを見た私は、坂口に向かって叫ぶ。


「三郎よ! そなたの炎魔導を、あの戦艦に放て!」

「えっ!?」

「岩をもへし折るほどのそなたの炎魔導ならば、あの戦艦の装甲をも貫ける! すれ違いざまに、放つのだ!」


 当初の予定にはなかったが、こやつの力を試したくなった。すると坂口は手に持っていた杖を握りしめ、こう詠唱する。


『我が皇国を守る炎の神よ、我が魔導のなせる限りの灼熱の炎で、戦艦の装甲を貫きたまえ、ローダンデ・ランス!』


 杖先には、尖った炎の槍が現れる。低空で侵入しつつ、目前に迫りつつある大きな戦艦の船体目掛けて、その炎の槍を放った。

 大きく旋回する。胃の中のものがあふれそうなほどの加速に耐えつつも、その槍の行く手を見守る。するとその槍は、船体のやや上側、第二主砲塔の根元の辺りに着弾した。

 船体の真横ならば、もしかしたら船を真っ二つにできたかもしれないというのに……と思ったのもつかの間、予想外のことが起きる。

 その主砲塔が、内側から大爆発を起こしたのだ。

 あれ、坂口の炎魔導では、あれほどの爆発など起こさないはずだが、なぜだ? しかしその戦艦はその猛烈な爆発によって船体を大きく引き裂かれ、まさに真っ二つに折れて沈んでいった。

 上空では、戦闘機隊が戦闘を続けていた。が、すでに撃つべき手はすべて撃ち尽くした。戦闘終了を知らせる発光信号を坂口が放つと、徐々に戦闘機隊もその場を離脱し始める。こちらも、低空のまま全速力でその場を離れた。

 後で知ったのだが、なぜ敵が爆発を起こしたのか。それは主砲塔の真下にあると思われる弾薬庫に炎が達したからではないか、と坂口が話してくれた。無数の砲弾と火薬に火が付き、それが一斉に爆発したようだ。


 ざっと見る限りでは、空母が五隻、戦艦一隻、重巡二隻が沈み、残った空母と戦艦にもダメージが残った。一時、戦線離脱せざるを得ないだろう。

 殲滅とはいかなかったが、ともかく、誇るべき勝利であろう。だが、残念なことに戦闘機十七機、攻撃機も十二機がやられた。無傷での勝利とは、いかなかった。


 しかしだ、その日の夜。まさに夜戦が行われていると思われる真っ最中に、驚くべき報告が届いた。

 その報告を届けようと飛んできた攻撃機三機が、真っ暗闇の中、この飛翔に強行着陸を果たす。何事かと、整備兵たちが駆け寄る。

 無理な着艦のおかげで主脚が折れた機体が一機。それはそうだ、真っ暗闇を、わずかな月明りを頼みに着艦したものだから、そういうことになる。

 が、強行着陸を果たした攻撃機に乗った乗員から、それ以上に衝撃的な事実が我々に告げられた。


「ラグーン基地が、壊滅した!」

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