第95話 満ちる
円形列石の上を、夏の風が静かに吹き抜けていた。
歌は終わった。
それでも誰も動かなかった。
①。
④。
⑥。
⑧。
四つの石だけが、今も頭の中で淡く光っている。
「……」
春人は⑥番の石を見つめた。
さっき。
三行目で光った石。
まだ、その意味だけが分からない。
蒼太が口を開く。
「黒崎さん」
「もう一個だけ調べてもええ?」
「ええ」
「今度は何じゃ」
「⑥番」
「さっき光った刻み」
「何の文字なんか知りたい」
黒崎は静かにうなずいた。
「やってみ」
◇
春人はタブレットを開く。
スクリーンショットをゆっくり送る。
一文字。
また一文字。
みゆは⑥番の刻みを見つめたまま動かない。
誰もしゃべらない。
セミの声だけが山へ響いていた。
「あ……」
春人の指が止まる。
「これ」
蒼太が身を乗り出した。
「どれ」
画面。
ノート。
画面。
ノート。
何度も見比べる。
みゆが、小さく息をのんだ。
「……同じ」
春人が静かに言う。
「『む』」
その瞬間だった。
「!」
蒼太が勢いよく立ち上がる。
「『む』じゃ!」
「『満ちる』の『む』じゃ!」
「前に氷色が教えてくれたじゃろ!」
陸も目を見開く。
「三つ目じゃ!」
あかりが思わず笑う。
「また増えた!」
◇
みゆは急いで書き加える。
『⑥=む?』
その横へ。
『わ』
『な』
『む』
三つの文字が並んだ。
春人はその文字を見つめる。
その時だった。
「あ……」
思わず声が漏れる。
みんなが振り向く。
「どうした?」
春人は歌を思い出していた。
一行目。
①番。
二行目。
④番。
三行目。
⑥番。
四行目。
⑧番。
「歌……」
春人がゆっくり言う。
「歌が進む順番に」
「石も、一つずつ光ってる」
一瞬。
全員が固まった。
「……」
蒼太が目を見開く。
「ほんまじゃ」
「一行目で『わ』」
「二行目で『な』」
「三行目で『む』」
みゆも歌を書き始める。
歌。
その横へ。
『①』
『④』
『⑥』
『⑧』
並べる。
ぴたりと重なった。
◇
「待て」
黒崎が静かに言う。
全員が顔を上げる。
「今」
「分かったんは何じゃ」
蒼太は一度深呼吸した。
「石が」
「歌の順番で光った」
「その光った石が」
「タブレットの文字と一致しとる」
黒崎は満足そうにうなずく。
「そうじゃ」
「そこまで」
「今言えるんは」
「そこまでじゃ」
「でも」
春人が小さく言う。
「偶然じゃない」
黒崎は少しだけ笑った。
「ここまで重なると」
「もう偶然とは言いにくいな」
◇
みゆは最後に、新しく一行を書き足す。
『歌の順番と、光る石の順番は一致する』
春人はその文字を見つめた。
昨日まで、ただの石だった。
今日、文字になった。
そして今、歌とつながった。
石と歌、文字と言葉。
何千年もの時を越えて。
ばらばらだったものが、少しずつ繋がり始めていた。




