第86話 五つの灯り
納屋を出ると、夕方の風が五人の間を吹き抜けた。
西の空は、少しずつ赤く染まり始めている。
外ではまだクマゼミが鳴いていた。
けれど、昼間ほど強くは聞こえない。
どこか遠くから、夏の終わりではなく、夏の始まりを知らせているようだった。
「ほんなら」
陸が自転車へまたがる。
「今日は本番じゃな」
「緊張する」
あかりが苦笑した。
「さっき練習したばっかりなのに」
「親相手は別じゃ」
陸が言う。
「黒崎さん相手より、母ちゃんの方が怖い」
「それは分かる」
蒼太が短く言った。
「お前も?」
「母さんは質問が多い」
「分かる」
今度はあかりがうなずいた。
みんなが笑う。
黒崎はバイクの横でヘルメットを手に取った。
「焦らんでええ」
「ちゃんと話せば伝わる」
杉谷も隣でうなずく。
「分からんことは正直に言えばええ」
「ごまかさんこと」
「それが一番じゃ」
「はい」
五人の返事が重なった。
黒崎はヘルメットをかぶると、軽く手を上げた。
「じゃあな」
「返事、待っとるぞ」
バイクのエンジン音が響く。
黒崎は夕方の道へ走り出した。
杉谷も笑いながら手を振る。
「みんな、気ぃつけて帰れよ」
「はーい」
五人はそれぞれ自転車をこぎ始めた。
同じ納屋から出たのに、帰る道は少しずつ違う。
春人はペダルを踏みながら、小さく息を吸った。
ちゃんと話そう。
思っていることを、そのまま。
その日の夕方。
甘岩市のあちこちで、五つの家族の時間が始まろうとしていた。
◇
結城家の玄関を開けると、だしの香りがした。
「ただいま」
「おかえり」
台所から母、由香の声が返ってくる。
春人は靴を脱ぎ、廊下を歩いた。
台所では、由香が鍋の火加減を見ていた。
「今日は少し遅かったね」
「うん」
「陸の家に行ってた」
「みんな一緒?」
「うん」
由香は安心したように笑った。
「最近は毎日のように集まってるね」
「そうだね」
春人は荷物を部屋に置いた。
戻ってきても、すぐには話せなかった。
台所の音。
鍋のふつふつという音。
包丁がまな板に当たる音。
いつもの夕方なのに、今日は少し違って聞こえた。
「春人?」
由香が振り返る。
「何かあった?」
「え?」
「話したいことがありそうな顔をしてる」
春人は少し笑った。
「分かる?」
「分かるよ」
「お母さんだもの」
その言葉で、肩の力が少し抜けた。
「お父さん、今日は帰ってくる?」
「うん」
「出張じゃないから、もう少ししたら帰ると思う」
「そっか」
春人は一つ息を吸った。
「二人に話したいことがあるんだ」
由香は少しだけ驚いた顔をした。
けれどすぐに、静かにうなずいた。
「分かった」
「じゃあ、ご飯の時に聞くね」
それからしばらくして、玄関の戸が開いた。
「ただいま」
父、隆晴の声だった。
「おかえり」
由香が迎えに行く。
「今日は早かったね」
「近くの仕事じゃったけぇな」
隆晴はカバンを置きながら、居間にいる春人を見た。
「お、春人」
「今日は陸んところじゃったんか」
「うん」
「相談してきた」
「相談?」
隆晴は首をかしげる。
「何のじゃ」
「ご飯の時に話したい」
「二人そろってから」
隆晴は少し目を丸くした。
「珍しいのう」
「そんな大事な話なんか」
「うん」
「大事な話」
隆晴は春人の顔を見て、小さくうなずいた。
「分かった」
「ほんなら飯にしよう」
三人は食卓を囲んだ。
湯気の立つ味噌汁。
焼き魚。
冷やしたトマト。
いつもの夕食だった。
けれど春人は、少しだけ背筋を伸ばしていた。
「父さん」
「母さん」
「お願いがある」
由香も隆晴も、箸を置いた。
春人は昼間のことを一つずつ話した。
黒崎と杉谷に相談したこと。
山にある石を調べたいこと。
黒崎が一緒に来てくれること。
必要なら杉谷も説明してくれること。
危ない場所には行かないこと。
夕方には帰ること。
話し終えるまで、二人は口を挟まなかった。
隆晴はしばらく考えるように春人を見ていた。
「どうして、そこまで調べたいんじゃ」
春人は少しだけ考えた。
黒崎にも同じことを聞かれた。
その時の答えは、今も胸の中に残っている。
「気になるから」
「最後まで知りたいんだ」
由香の表情が少し柔らかくなった。
隆晴も、小さくうなずく。
「知りたいと思うことは、悪いことじゃない」
「うん」
「でもな」
隆晴は春人を見る。
「知りたいからって、安全を忘れたらいけん」
「分かってる」
「お母さんは、どう思う?」
隆晴が由香を見た。
由香は少し困ったように笑った。
「心配だよ」
春人はうなずいた。
「うん」
「でも、反対したいわけじゃない」
由香はゆっくり言う。
「春人が自分で知りたいと思ったことなら、大事にしてほしい」
「ただ、ちゃんと帰ってきてほしい」
春人はもう一度うなずいた。
「じゃあ」
隆晴が言う。
「お母さんが心配せんようにするには、どうしたらええと思う」
春人は少し考えた。
「行く場所をちゃんと伝える」
「帰る時間を決める」
「帰る前に連絡する」
「黒崎さんの連絡先も聞いておく」
「それと」
春人は少し迷ってから続けた。
「分からないことを聞かれたら、ごまかさない」
「まだ決まってないなら、そう言う」
由香は少し驚いたように春人を見た。
それから、ほっとしたように笑う。
「そこまで考えてるなら、少し安心」
「ほんなら約束じゃ」
隆晴が言った。
「危ない場所には行かん」
「大人の言うことを聞く」
「帰る時間を守る」
「困ったら、すぐ連絡する」
「守れるか」
「守る」
春人はまっすぐ答えた。
隆晴は笑った。
「ほんなら、行ってこい」
春人の胸が、ふっと軽くなった。
「ありがとう」
由香も優しく笑った。
「帰ったら、何が分かったか聞かせてね」
「うん」
春人は大きくうなずいた。
◇
楠本家の庭では、夕方になってもまだにぎやかな音がしていた。
ホースから水が出る音。
犬が走る足音。
台所から聞こえる母の声。
畑の向こうでは、祖父がまだ何かを片付けている。
陸が自転車を止めると、大きな犬が真っ先に駆け寄ってきた。
「ただいま」
犬がしっぽを振って飛びつく。
「分かった分かった」
「ただいまじゃ」
陸が頭をなでると、今度は足元に猫がすり寄ってきた。
縁側では別の猫が、何も気にしていない顔で寝ている。
台所から母の声が飛んだ。
「陸!」
「帰ったんなら手ぇ洗いなさい!」
「分かっとる!」
「分かっとる言うて、こないだ泥の手で麦茶飲もうとしたん誰なら!」
「今日泥ついとらん!」
「ついとるかついとらんかは、母ちゃんが見る!」
居間から兄の拓斗の笑い声がした。
「陸、負けとる」
「うるさい!」
陸は靴を脱ぎ、手を洗いに行った。
居間では拓斗が、切ったスイカを食べていた。
「遅かったな」
「会議じゃ」
「何の会議なら」
「大事なやつ」
「また秘密基地会議か」
「秘密じゃねえし」
「秘密基地なのに?」
拓斗は面白そうに笑った。
陸は手を洗ってから、台所へ向かった。
「母ちゃん」
「話がある」
母は味噌汁の鍋をかき混ぜながら振り返る。
「何」
「また何か壊したん?」
「壊しとらん!」
「じゃあ、誰かとケンカした?」
「しとらん!」
「じゃあ何」
父まで庭から戻ってきて、戸口で笑っている。
「前置きが多い時は、だいたい何かあるけぇな」
「父ちゃんまで言うな」
陸は少しむっとした顔をした。
けれどすぐに、真面目な顔になった。
「山へ行きたいんじゃ」
母の手が止まる。
「山?」
「また?」
「またって何なら」
「この前も行ったじゃろ」
「今回はちゃんと相談して行く」
陸は昼間、黒崎たちと話したことを説明した。
山にある石を調べたいこと。
黒崎が一緒に来てくれること。
杉谷も知っていること。
危ないことはしないこと。
夕方には帰ること。
勢いで話しそうになるたびに、黒崎との練習を思い出した。
だから、言葉を整えて話した。
母は腕を組んで聞いていた。
「黒崎さんも一緒なん?」
「うん」
「杉谷さんも知っとるん?」
「知っとる」
「危ないことは?」
「せん」
「本当に?」
「せん」
「調子に乗らん?」
「乗らん」
拓斗がスイカを食べながら言う。
「乗るな」
「乗らん!」
「お前、犬と走ってるだけで調子乗るじゃろ」
「それは別じゃ」
「別じゃない」
母がじっと陸を見る。
「この前、帰ってきたら靴下真っ黒じゃった」
「あれは山じゃなくて田んぼ」
「もっと悪いわ」
父が吹き出した。
陸も少し笑いそうになったが、我慢した。
「今回は、ちゃんとする」
「黒崎さんの言うこと聞く」
「勝手に動かん」
「夕方には帰る」
母はしばらく陸を見ていた。
その目は厳しかったけれど、怒っているわけではなかった。
「まあ」
やがて、母が息をつく。
「そこまで考えとるんなら、ええわ」
「ほんま?」
「ただし」
母は菜箸を持ったまま言う。
「水筒」
「帽子」
「タオル」
「虫よけ」
「それから、替えの靴下」
「靴下?」
「また真っ黒にして帰るかもしれんじゃろ」
「せんって」
「持って行きなさい」
「はい」
陸は大きく返事をした。
父が笑いながら肩をたたく。
「気ぃつけて行けよ」
「山は遊び場でもあるけど、なめたらいけん」
「分かった」
拓斗がスイカを食べながら言う。
「土産は?」
「調査に土産なんかあるか」
「変な石とか」
「持って帰らんわ」
母がすぐに言った。
「勝手に石持って帰らんよ」
「ほら見ろ」
拓斗が笑う。
陸もつられて笑った。
その笑い声に、庭の犬がまたしっぽを振った。
◇
水島家では、夕食のあと、静かな時間が流れていた。
祖父は新聞をたたみ、祖母は湯のみを並べている。
居間の隅では、大学の夏休みで帰ってきている姉のしおりが、本を読んでいた。
厚い本だった。
表紙には、古い遺跡の写真が載っている。
みゆは座布団の上で、しばらく手元を見つめていた。
言わなければ。
そう思うのに、声がなかなか出ない。
「みゆ」
祖母が気づいたように声をかける。
「どうしたん?」
みゆは顔を上げた。
「話があるの」
祖父が新聞を横へ置く。
しおりも本から顔を上げた。
「なになに」
みゆは少しだけ緊張した。
でも、昼間の練習を思い出す。
無理して長く話さなくてもいい。
自分の言葉で話せばいい。
「山へ行きたい」
「みんなで」
「石を調べる」
祖母は静かにうなずく。
「黒崎さんも一緒?」
「うん」
「杉谷さんも知ってる」
「危ないことはしない」
「約束も守る」
言葉は少しずつだった。
けれど、みゆは最後まで話した。
話し終えると、最初に反応したのはしおりだった。
「石って、この前言ってたやつ?」
みゆはうなずく。
「うん」
しおりの目が少し輝いた。
「いいなあ」
「そういうの、すごく面白そう」
祖父が苦笑する。
「しおりは歴史の話になると、すぐそれじゃな」
「だって気になるじゃない」
しおりは本を閉じて、みゆの方へ身を乗り出した。
「その石、どんな場所にあるの?」
「山の中」
「刻みみたいなのがあった」
「えっ」
しおりの顔がさらに明るくなる。
「刻み?」
「線?」
「丸?」
「えっと」
みゆは少し困ったように笑った。
「たぶん」
「今度、写真見せる」
「絶対見せて」
しおりは即答した。
そして、急に立ち上がった。
「ちょっと待って」
みゆが目をぱちぱちさせる。
「え?」
「こういうの、似た例があるかもしれない」
しおりは本棚の前へ行き、何冊か本を抜き出した。
祖父が湯のみを持ったまま笑う。
「また始まった」
「お姉ちゃん、止まらんよ」
祖母もくすくす笑った。
しおりは本を一冊開いて、ぱらぱらとページをめくる。
「古い石の印って、地域によって意味が違うこともあるんだよ」
「ただの傷に見えても、ちゃんと残されたものだったりするし」
「でも、勝手に決めつけたら駄目」
「見ること」
「比べること」
「記録すること」
みゆは目を丸くして聞いていた。
「……お姉ちゃん」
「うん?」
「楽しそう」
「楽しいよ」
しおりは笑った。
「こういう話、大好き」
祖母が湯のみを置く。
「でも、しおり」
「みゆが行く話じゃからね」
「あ」
しおりは少し照れたように笑った。
「ごめん」
「つい」
それから、みゆを見た。
「帰ってきたら、絶対話聞かせてね」
「写真も見せて」
「約束」
みゆは小さく笑った。
「うん」
祖母も穏やかに笑う。
「黒崎さんがおるんなら、少し安心じゃな」
「でも、無理はせんこと」
祖父もうなずいた。
「調べるのはええ」
「けど、一人で勝手に動いたらいけん」
「みんなと一緒におるんよ」
「うん」
みゆはしっかりとうなずいた。
しおりがにこにこしながら言う。
「いいなあ」
「私も小学生の時にそういう調査したかった」
「お姉ちゃんも来る?」
みゆが小さく尋ねる。
しおりは少し考えてから笑った。
「行きたいけど、今回はみゆたちの調査でしょ」
「私は帰ってきてから話を聞く係」
祖母がうなずく。
「それも大事な係じゃな」
みゆは少しだけ照れたように笑った。
胸の中が、あたたかくなっていた。
◇
田辺家では、夕食が終わると同時に、蒼太が立ち上がった。
「父さん」
「話がある」
父は新聞から顔を上げた。
「なんじゃ」
母は食器を拭く手を止める。
その横で、妹の琴葉がアイスを食べながら、兄の顔を見た。
「また始まる」
「何が?」
「お兄ちゃんの説明会」
蒼太は気にしない。
机の上へ地図を広げた。
「この山なんじゃけど」
「この石が普通じゃない」
「縄文時代から続いとる可能性がある」
「しかも」
地図の一点を指差す。
「歌との関係も考えられる」
「この前見つけた刻みも――」
「待て待て」
父が笑いながら手を上げた。
「もう始まっとる」
琴葉が吹き出す。
「長いやつじゃ」
「長くない」
「長い」
母まで笑う。
蒼太は少しだけ不満そうな顔をした。
「必要な説明じゃ」
「必要じゃけど」
琴葉が肩をすくめる。
「お兄ちゃんは、ひとことで済む話を十分話す」
「十分?」
「十分」
父まで笑った。
「それで」
「結局何がしたいんじゃ」
蒼太は一呼吸置く。
「山へ調査に行きたい」
「黒崎さんも一緒」
「杉谷さんも知っとる」
「危ない場所へは行かん」
「夕方には帰る」
「約束も守る」
「最初からそれでええが」
琴葉が言う。
「今ので全部分かった」
「途中の縄文は?」
「あとで聞く」
「歌は?」
「あとで聞く」
「刻みは?」
「あとで聞く」
父が吹き出した。
「全部あとじゃな」
蒼太は少しだけ笑う。
「……まあ」
「そうじゃ」
父は地図を見つめる。
しばらく黙ったまま、線を指でたどる。
「黒崎さんがおるんなら安心じゃ」
「ただし」
「勝手な行動はせんこと」
「黒崎さんの言うことはちゃんと聞くこと」
「危ないと思うたら引き返すこと」
「分かった」
蒼太は大きくうなずいた。
母が優しく笑う。
「好きなことになると夢中になるけぇ」
「周りが見えんようになったらいけんよ」
「うん」
父は新聞を畳んだ。
「ほんなら行ってこい」
「調査も大事じゃ」
「でも、一番大事なんは無事に帰ることじゃけぇな」
「分かった」
蒼太の表情がぱっと明るくなる。
琴葉がその顔を見て笑った。
「うれしいんじゃろ」
「別に」
「顔がそう言っとる」
「言っとらん」
「言っとる」
三人が笑う。
父はその様子を見ながら苦笑した。
「ところで蒼太」
「ん?」
「その縄文の話」
蒼太の目が輝く。
「聞く?」
「……飯食ってからにしてくれ」
琴葉が声を上げて笑った。
「やっぱり始まるんじゃ!」
家中に笑い声が響いた。
◇
森下家が営む喫茶店「ひだまり」は、夕方になってもまだ営業中だった。
カラン、とドアベルが鳴る。
「ありがとうございました」
母が笑顔でお客さんを見送る。
店の中には、まだ数人の常連客が残っていた。
父はカウンターでコーヒーを淹れ、香ばしい香りが店いっぱいに広がっている。
窓際では、弟の陽向が宿題を広げていた。
「あ、お姉ちゃん」
「おかえり」
「ただいま」
あかりは肩から下げたバッグを椅子へ置き、慣れた手つきで空いたグラスを片付け始めた。
「ありがとう」
母が笑う。
「ちょっと話があるんよ」
あかりが言うと、父はコーヒーカップを置いた。
「ここでええん?」
「うん」
「みんな聞いとるけど」
すると、カウンターの常連のおじさんが笑った。
「聞かれたら困る話か?」
「違う違う」
あかりも笑う。
「山へ調査に行きたいんよ」
店の空気が少し静かになる。
父はゆっくりうなずいた。
「黒崎さんと?」
「うん」
「杉谷さんも一緒」
「ほう」
あかりは昼間の出来事を順番に話した。
約束も守ること。
危ないことはしないこと。
夕方には帰ること。
話を聞き終えた父が言う。
「黒崎さんがおるんなら安心じゃな」
母もうなずく。
「でも」
「帽子」
「水筒」
「タオル」
「虫よけ」
「忘れんこと」
「はーい」
陽向が勢いよく手を挙げた。
「ぼくも行く!」
「だめ」
あかりが即答する。
「なんでー!」
「まだ二年生じゃろ」
「六年生になったらね」
「四年もある!」
店中が笑いに包まれた。
常連のおばあさんが優しく言う。
「陽向くんは、その頃にはお姉ちゃんより詳しくなっとるかもしれんなあ」
「ほんと?」
陽向が目を輝かせる。
「その前に宿題終わらせんと」
父が笑う。
「うわっ」
陽向が慌ててノートへ向かう。
また店中に笑い声が広がった。
あかりもつられて笑う。
父はそんな娘を見て、小さくうなずいた。
「しっかり調べておいで」
「うん!」
あかりは元気よく返事をした。
◇
その夜。
甘岩市のあちこちで、家々に灯りがともっていた。
結城家の食卓には、静かに話し合ったあとの笑顔があった。
楠本家の庭には、犬の鳴き声と家族の笑い声が響いていた。
水島家では、しおりが古い本を何冊も積み上げ、祖父が苦笑している。
田辺家では、蒼太の説明がまだ終わらず、琴葉の「まだ続くん?」という声が聞こえていた。
森下家の喫茶店「ひだまり」には、コーヒーの香りと、最後のお客さんの笑い声が残っていた。
◇
五つの家。
五つの灯り。
笑い方も。
話し方も。
過ごし方も。
みんな違う。
けれど、その灯りはどれも同じように、子どもたちの帰る場所を照らしていた。
その温かな灯りに背中を押されるように。
五人は、それぞれの家で、少しだけ大人への一歩を踏み出した。
明日。
また、陸の家の納屋へ集まる。
その時にはもう、五人の胸に迷いはなかった。




