表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/86

第27話 図書館


 夏休みの朝だった。


 窓の外では朝からセミが鳴いている。


 春人は机へ向かい、夏休みの宿題を広げていた。


 まだ午前中だというのに暑い。


 扇風機が首を振りながら生ぬるい風を送っている。


 その時だった。


 家の外から勢いよくブレーキの音が聞こえた。


 キキーッ。


 次の瞬間。


「春人ぉー!」


 聞き慣れた声が響く。


 春人は思わず顔を上げた。


 窓から覗く。


 予想通りだった。


 蒼太である。


 自転車の横に立ちながら全力で手を振っていた。


「何してるの?」


 春人が窓を開ける。


「図書館行くぞ!」


 開口一番だった。


「え?」


「磐座調べる!」


 やっぱりだった。


 春人は思わず笑う。


 来ると思っていた。


「見学会までまだ何日かあるだろ」


「だからじゃ!」


 蒼太は真顔だった。


「今のうちに調べとかんと」


「何を?」


「全部」


「雑だな」


 思わず突っ込む。


 けれど蒼太は気にしていなかった。


「陸とあかりはもう誘った」


「早いな」


「みゆにも電話した」


「もっと早いな」


 春人は苦笑した。


 こうなった蒼太は止まらない。


 磐座のことになると特にだ。


 結局。


 春人も宿題を閉じることになった。


◇◇◇


 一時間後。


 春人たち四人は市立図書館へやって来ていた。


 冷房の効いた建物へ入ると、一気に涼しさが身体を包む。


「生き返る」


 あかりが言う。


「今日それ二回目じゃ」


 陸が笑った。


 その時だった。


「おはよう」


 後ろから声が聞こえた。


 振り返る。


 みゆだった。


 その隣には祖父もいる。


「送ってもろうたん?」


 陸が聞く。


「うん」


 みゆが頷く。


 祖父は五人を見ると優しく笑った。


「磐座を調べるんじゃろ?」


 蒼太が勢いよく頷いた。


「そう!」


「ほう」


 祖父は少し楽しそうだった。


「郷土資料室なら二階じゃな」


 その一言で。


 蒼太の目が輝いた。


「あるん!?」


「ある」


「行く!」


「落ち着け」


 陸が首根っこを掴んだ。


◇◇◇


 二階の郷土資料室は静かだった。


 古い本がずらりと並んでいる。


 地域史。


 神社誌。


 民話集。


 古墳調査報告書。


 春人は思わず本棚を見上げた。


 思っていたよりずっと多い。


「宝の山じゃ……」


 蒼太が呟く。


「図書館でそんな顔するやつ初めて見た」


 あかりが呆れた。


 みゆの祖父は一冊の本を抜き出す。


「この辺りならこれじゃな」


 分厚い郷土史だった。


 蒼太が飛びつく。


「ありがとうございます!」


「壊すなよ」


 祖父は笑いながら一階へ降りていった。


◇◇◇


 しばらくして。


「おい」


 陸が呼んだ。


 みんなが振り向く。


「これ」


 一冊の本を指差している。


 そこには巨大な岩の白黒写真が載っていた。


「でか」


 春人が思わず言う。


「場所どこじゃ」


 蒼太が覗き込む。


 地図を見る。


 思わず全員が顔を見合わせた。


「近っ」


 あかりが言った。


 本当に近かった。


 車なら数分。


 自転車でも行ける距離だった。


「こんなのあったの?」


 春人は驚く。


 知らなかっただけで。


 自分たちの町には磐座や巨石がたくさん残っていたらしい。


 蒼太は次々と本を開いていく。


「こっちにもある」


「まだあるん?」


「ある」


 岩。


 神社。


 古墳。


 巨石。


 次から次へ出てくる。


 まるで宝探しだった。


◇◇◇


 その時だった。


「これ」


 みゆが小さく言った。


 全員が振り向く。


 一冊の古い本が開かれている。


 そこには短い文章が書かれていた。


 みゆはゆっくり読み上げる。


「昔の祭祀では、岩の前に集まり、歌い、舞い、祈りを捧げた」


 静寂が落ちた。


 冷房の音だけが聞こえる。


 春人の頭に浮かんだのは。


 氷色の歌だった。


 意味の分からない言葉。


 光る文字。


 そして青白い光。


「……」


 蒼太も黙っていた。


 珍しかった。


「なあ」


 陸が小さく言う。


「氷色の歌と関係あるんかな」


 春人は頷いた。


 証拠はない。


 けれど。


 偶然とは思えなかった。


◇◇◇


 それから数日間。


 五人の夏休みは少し変わった。


 午前中は図書館。


 午後は氷室。


 見つけたことを氷色へ話し。


 氷色から聞いたことをまた調べる。


 宿題よりも磐座の方がずっと忙しかった。


 先生に知られたら怒られるだろう。


 けれど今はそれどころではない。


 気がつけば。


 見学会は明日に迫っていた。


◇◇◇


 図書館の机の上には何冊もの本が積まれていた。


 磐座。


 古墳。


 巨石。


 祭り。


 歌。


 祈り。


 調べれば調べるほど謎は増えていく。


「結局」


 あかりが本を閉じた。


「行ってみんと分からんってことじゃな」


 陸が頷く。


「それはそう」


「本だけじゃ限界じゃ」


 蒼太も珍しく素直だった。


 知りたいことは増えた。


 けれど答えはまだ見つからない。


 みゆが窓の外を見る。


「明日じゃな」


 その言葉に。


 全員が顔を上げた。


 明日。


 いよいよ磐座めぐりの日だった。


 春人は胸の奥が少しだけ高鳴るのを感じた。


 調べられることは調べた。


 あとは自分たちの目で確かめるだけだった。


 夏の空には白い雲が高く浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ