表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/98

第25話 申し込み


 翌日の朝だった。


 陸は自転車を全力で漕いでいた。


 前かごには例のチラシが入っている。


 夏の日差しが容赦なく照りつけていた。


 けれどそんなことは気にならない。


 むしろ急いでいた。


「絶対食いつく」


 呟く。


 まず最初に向かう先は決まっていた。


 蒼太の家だった。


◇◇◇


 数分後。


「なにぃ!?」


 家の中から声が響いた。


 陸は思わず笑う。


 予想通りだった。


 蒼太はチラシを両手で掴んだまま固まっている。


「磐座!?」


「うん」


「古墳!?」


「うん」


「貸切バス!?」


「そこなん?」


 陸が突っ込む。


 蒼太は聞いていない。


 目が完全にチラシへ吸い付いていた。


「行く」


「即答じゃな」


「行く」


「まだ母ちゃんにも言っとらんじゃろ」


「行く」


 陸は吹き出した。


 話にならない。


 完全に決まっていた。


◇◇◇


 その後。


 二人はあかりの家へ向かった。


「面白そう!」


 あかりも即答だった。


「じゃろ?」


「バス乗れるんじゃろ?」


「そこなん?」


 蒼太が言う。


「蒼太にだけは言われたくない」


 あかりが真顔で返した。


◇◇◇


 明かりの家を出たあとだった。


「で、みゆん家どうする?」


 陸が聞く。


 みゆの家は少し離れている。


 学校へもスクールバスで通っているぐらいだ。


「行くじゃろ」


 蒼太は即答した。


「暑いぞ」


「磐座じゃぞ?」


「意味わからん」


 結局。


 二人は汗だくになりながら自転車を漕ぐことになった。


 みゆの家では少し様子が違った。


「おじいちゃん」


 みゆがチラシを見せる。


 祖父は老眼鏡をかけながら眺めた。


「ほう」


 小さく頷く。


「この辺か」


「知っとるん?」


 みゆが聞く。


「昔から色んな話がある場所じゃな」


「どんな?」


「さあな」


 祖父は笑った。


「わしも全部知っとるわけじゃない」


 そう言いながらチラシを返す。


「行ってみりゃええ」


 みゆは少し嬉しそうに頷いた。


◇◇◇


 最後は春人だった。


 事情を聞いた春人は首を傾げる。


「そんなにすごいの?」


 その一言だった。


 蒼太が振り返る。


 目が光っていた。


 陸が思わず後ろへ下がる。


「あ」


 あかりも察した。


「始まった」


「始まったな」


 みゆまで言う。


「磐座というのはな!」


 蒼太の説明が始まった。


 十分後。


 蒼太の説明はまだ続いていた。


 磐座とは何か。


 古代の祭祀とは何か。


 世界中の巨石文明とは何か。


 二十分後。


 まだ続いていた。


 三十分後。


 陸が空を見上げる。


「長い」


「長いな」 


 あかりも頷く。


 蒼太だけが元気だった。


◇◇◇


 その日の夕方。


 五人はそれぞれ家へ帰っていった。


 結局。


 五人とも参加することになった。


 申し込みの締切は数日後。


 見学会は来週の土曜日。


 まだ少し先だった。


 問題は参加費だった。


「二千円かあ」


 あかりが言う。


 小学生にとっては決して安くない。


「貯金ある」


 みゆが言う。


「俺も」


 陸が頷く。


 春人も何とかなると思った。


 蒼太だけが難しい顔をしていた。


「どうしたん?」


 陸が聞く。


「五百円足りん」


 全員が笑った。


「頑張れ」


「頑張る」


 蒼太は真顔だった。


◇◇◇


 翌日。


 蒼太はなぜか胸を張っていた。


「行ける」


「おお」


 陸が言う。


「金どうしたん?」


「借りた」


「借りたんかい」


 蒼太は頷く。


「母ちゃんに」


「返すん?」


「返す」


 力強かった。


「夏休みの手伝いで」


「何するん?」


「知らん」


「知らんのかい!」


 また全員が突っ込んだ。


 蒼太は腕を組む。


「たぶん草抜き」


「たぶんて」


「まあ頑張れ」


 陸が肩を叩く。


 蒼太は大きく頷いた。


「磐座のためじゃ」


「そこまで言うか」


 あかりが呆れる。


 みゆが笑う。


 春人もつられて笑った。


 見学会までは、あと一週間だった。


 申し込みの締め切りは数日後。


 けれど五人の気持ちはもう当日へ向かっていた。


 春人は空を見上げる。


 夏の空には入道雲が高く積み上がっていた。


 磐座。


 古墳。


 巨石。


 そして氷色の歌。


 まだ何もわからない。


 けれど、それらはどこかで繋がっている気がした。


 そんな予感だけが胸の中に残っていた。


 そして誰も知らなかった。


 その磐座めぐりが、氷色の記憶へ繋がる最初の扉になることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ