03 お茶に誘われました!
侯爵夫妻の姿が見えなくなって暫くしたころ、同じテーブルにいるグループから私達はお茶に誘われました。
それに私達は有り難くお受けする事にしたのです。
「あぁ、そうだ。貴女あのお話しをしてみたら?私達では解決できなかった事も、もしかしてこのお二人なら解決方法を提示してくれるかもしれないわよ?」
その言葉を皮きりに一人が頷きました。
「私はルイーザ・コンラッドと言います。これは私が実際に体験したお話しです」
そして私達の顔を見回すと話し出したのです。
「ある夜の事です。私はふと目を覚ましました。
その夜はなんだか寝苦しい夜だったのです。
……今から考えると何らかの予兆を感じ取っていたのかもしれません。
私は『なんでこんなに寝苦しいんだろう?』と、疑問に思いました。
こう言ってはなんですが、私は寝つきが良くて夜中に目が覚めるなんて事は滅多に無かったんです。
いつも朝までグッスリでしたから。
私は少し寝返りを打って姿勢を変えると再び目を閉じました。
……しかし、普段ならスグにでも訪れるはずの眠りが一向に訪れてくれないのです。
私は必死に眠ろうとしました。
しかし、眠ろうすればするほど目が冴え、心の底から不安が湧き上がってきました。
どのくらいそうして格闘していたでしょうか?
不意に時計の音、……もしかしたら別の何かの音だったかもしれませんが、聞こえました。
その音をきっかけとして、私は寝るのを諦めるとベッドから身体を起こすと窓へ近づきました。
せめて眠くなるまで外の様子でも見ている事にしよう、そう思ったからです。
私は窓に掛けられたカーテンを開きました。
窓からは月のボンヤリとした明かりが部屋に差し込み照らし出します。
その時でした、不意におかしな音が聞こえる事に気が付いたのです。
『カサカサ』と何かがこすれ合うような音でした。
最初は窓の外から聞こえる音だと思いました。
風に吹かれた木々などがこすれ合う音が、窓を通じて聞こえてきた、そう思ったのです。
でも、違いました。
その音は部屋の中から聞こえてきたのです。
私はビックリして月明りで薄暗く照らされた部屋をじっと見つめました。
でも結局のところ、その不気味な音は部屋のどこから聞こえてくるかは判らなかったのです。
薄暗く照らしているといっても所詮は窓から差し込む月明りです。
部屋全体を照らしているわけではありませんでしたから。
私にはその音はその月明りさえ届いていない部屋の暗闇から聞こえて来るように思えました。
まるでその暗闇から何者かが這い出てくるような気がして、私は恐怖に襲われました。
普段の私ならきっと叫び出してしまうに違いない、激しい恐怖です。
でもその時はまるで声を失ってしまったかのように声が出ませんでした。
それでも、その音の正体を見る事ができたらきっと叫び出していた事でしょう。
……その時です、不意に別の音が聞こえました。
例えるなら小さな笛を抑えて吹くような非常にかすかな柔らかい音でした。
その音は何処から聞こえて来るかは分かりませんでした。
その時私は亡くなった姉が言っていた『呪いの笛の音』の話を思いだしたのです。
私はパニックに成りかけながらもドアに駆け寄ると鍵を開けて部屋の外にでました。
そして開いている客間の部屋に駆け込むと鍵をかけ、ベッドに蹲ると毛布を被りました。
私は、一睡もせずにそのまま夜を明かしました。
……長い長い夜が明け、明るくなると私は恐る恐る自分の部屋へと戻りました。
でもそこで見たのは乱れたベッドとカーテンが開け放たれた窓だけで特に怪しい物はなにもなかったのです」
そこまで話すとルイーザさんはカップに手を伸ばし、僅かに残ったお茶を飲み干す
「ふ、不思議なお話しですね」
私は思ったお話しとは違って恐怖体験だった事で、すこし声が震えていました。
いや、恋のお話しとかそういう関係の話だと勝手に思っていたので。
でも私とは違ってローズは目を輝かせてそのお話しを聞いていました。
そうだった、ローズは私とは違ってこういった話が大好きなんだった。
「さっきも言ったけど夢でも見ていた可能性は無いの?」
同じテーブルにいた一人が言いました。
するとルイーザさんは静かに首を振る。
「あれは絶対夢などではありません」
「あ、ちょっと良いでしょうか?お話しの中で『呪いの笛の音』という言葉が出てきたのですがそれは一体何なのでしょうか?」
ローズが口を挟む。
「差支えなければそこのところをもう少し詳しく教えてくれませんか?」
「ちょっとローズ」
私は慌ててローズの言葉を遮りました。
自分から話されるなら兎も角、出会ったばかりの人にそんな根掘り葉掘り聞くのは失礼だと思ったのです。
でもローズはそんな私をやんわりと制して、
「だって気になるじゃない?」
と言ってのけたました。
ルイーザさんは少し戸惑っているように見えました。
話すべきなのかどうなのか迷っている感じです。
でも結局は「……わかりました」と、言って話してくれたのです。
「私の家では『呪いの笛の音』という話が伝わっているんです。真夜中にその笛の音を聞くと不幸が訪れるというそんな話です。でも私はそんな物はおとぎ話だと思っていました。子供を怖がらせて夜更かしせず早く寝るように仕向ける、そんなお話しの一つだと思っていたのです」
「でも、それが違った?」
ローズの言葉にルイーザさんはコクンと頷くと秘密めいた話をし始めたのでした。




