04 秘密のお話!
「知っている人もいるでしょうけど、私にはヘンリエッタという姉がおりました。二年前に亡くなられたのです。その亡くなられたお姉様が亡くなる数週間前から言っていたのです。『最近夜に笛の音みたいな音が聞こえる』と……。私はそれを聞いて『きっと風の音かなにかじゃないの?』と言って笑っていました。一旦はそれで納得したように見えたお姉様でしたが、それでも完全に納得は出来なかったらしく、事あるごとに怖いと仰っていました。でも、有る晩……」
そう言って言葉を切ると、ルイーザは私達の顔を見回しました。
その瞳には本当に恐怖を感じた人特有の色が浮かんでいるように私には思えました。
『ゴクリ』と、誰かの喉が発した音が聞こえました。
若しかしたら私が鳴らした音だったのかもしれません。
「その日はなぜか寝苦しい夜でした。普段の私は寝つきが良いと思っているのですがその日はなかなか寝付けずにいて、やっと眠りに落ちたかと思ったら、夜中に目を覚ましてしまったのです。するとその時です。私の耳に微かな笛の音が聞こえた、ような気がしました。その夜は比較的風が強く、風の音が部屋の中からも聞こえたので気のせいだったかもしれませんが、その時は笛の音だと感じたのです。私ははっとしてベッドから身を起こすと部屋のドアを開けてそっと耳を済ませました。でも、その時にはもう笛の音は聞こえなくなっていました。それでも私は何とも言えぬ不安が心の中に広がりそっと部屋を出たのです。私が部屋を出ると足は自然とお姉様の部屋に向きました。するとお姉様の部屋から苦しそうなうめき声が聞こえてきたのです。私は慌ててお姉様の部屋のドアを叩き声をかけました」
「『大丈夫ですか?お姉様?』
でも、それにたいする返答はありませんでした。私は急いでドアを開けようとしましたが、内側から鍵がかけられ開けることは出来ませんでした。私は必死にドアを叩いてお姉様に呼びかけました。
『お姉様!私です、ルイーザです。このドアを開けてください!』
するとドアの向こうでガチャンと音がしてドアが静かに開けられました。お姉様が内側から鍵を開けられたのです。ドアが開かれるとそこにはお姉様がドアにもたれかかるように立っておりました。そのランプで照らされたお顔は真っ青で、呼吸は荒く、やっと立っているように思えました。私は急いでお姉様の元へと駆け寄るとその弱々しいお身体を受け止めました。そうしながら私は何度も何度もお姉様に呼びかけましたが、もう息も絶え絶えになっていました。そして必死に、搾り出すような声で言ったのです。
『る、ルイーザ……き、気を付けて……笛の音……部屋の中に……あぁ、恐ろしい……鋏……針……』
そう言ってお姉様はビクビク痙攣すると動かなくなってしまいました。
私は大きな声で悲鳴をあげました。すると暫くしてその声を聞きつけて使用人がやってきましたがその頃にはお姉様の意識は完全に失われていました。
……その後の事は正直あまり覚えていません。どうやら私も気絶してしまったようです。気が付いた時には翌日の昼頃でした。そしてその時、私はお姉様が亡くなられたことを知ったのです」
辛い記憶を呼び覚ましてしまったのか、ルイーザさんはそこまで話すと俯いてしまいました。
そんなルイーザさんのお話しを聞きながらローズは時折頷いたり、先を促したりしていたのですが、何かを思いついたかのように質問します。
「お姉さんのお姿を最後に見た時、笛の音は効かれましたか?」
「そう言えばお姉様のうめき声が聞こえた時、微かに聞こえていたかもしれません。……でもその時は必死だったので聞き間違いの可能性もあります」
「そうですか、ではその時屋敷にはどのような方がいらしたのですか?」
「……そうですね、幾人かの使用人の他は私とお姉様、それにおじ様だけです」
「おじ様?」
「はい、私達の両親はすでに亡くなっていて、長らく外国で暮らしていたおじ様が戻って来てくれて後見人として私達の屋敷で同居しているのです。幸い両親は大きな財産を残してくれていたので、遺言によっておじ様はその財産を私達が結婚するまで管理してくれています」
ローズの質問に、なぜそんな事を聞くのだろう、そんな不思議な顔をしてルイーザさんは答えてくれています。
「それで結局の所、お姉さんの死因は何だったのですか?」
「……それが良く分からないのです。お医者様は心臓麻痺だろうとおっしゃられていました。お姉様には目立った外傷もなく毒物特有の症状も無かったようなのです。それに部屋には内側から鍵が掛けられていて、窓から侵入したような形跡もありませんでした」
「そうですか、ルイーザさんはその夜に笛の音がした事を誰かにお話しになりましたか?」
「はい、おじ様に話しました。するとおじ様は我が家に伝わる『呪いの笛の音』の話を持ち出し、『もしかしてヘンリエッタは呪いに巻き込まれてしまったのかも知れない』そう言ってあまり今の話は人に言わないように、と言われました」
その話を聞いたローズは普段はみせない様な不敵な笑みを浮かべ、腕組をし、まるで挑発するような眼で何かを考え込んでいる様子でした。
そして私は気が付いてしまったのだ。
そう、そのポーズはローズが好きな娯楽小説、『レディ・探偵パスカル夫人』の挿絵にそっくりの恰好だったのを。




