02 誘われない悲しみ!
しばらく椅子に座って休みながらボンヤリと人々の踊る姿を眺めていると音楽が止みました。
どうやら踊りの時間は終わってしまったようです。
すると今度は皆が喫茶室へと移動を始めます。
まるで歴史で倣う民族大移動のようね、などと思いながらまた私達は侯爵夫人の後にぴったりとついて人々の間をすり抜けるように移動する。
痛たた、ちょっと押さないでよ。
と心の中で呟きつつ、うんざりとしていた。
この人込みではお喋りを楽しむこともままなりません。
それでもやっとの事で喫茶室へとたどり着く。
どうも私達は一番奥の高台に居たせいで、喫茶室に入るのも最後の方になってしまったようですね。
入った時にはもう良い席は全部埋まっているようでした。
仕方なく隅っこのテーブルに腰を落ち着かせた私達でしたが、周りは勿論、知らない人ばっかり。
同じテーブルに座っていた人がチラリと私達に視線を落としてはスグ元に戻し、会話を続けていきます。
何だこの人達は、そんな感じの視線を向けられました。
どうも知り合い同士で固まっているテーブルに座ってしまったみたいですね……。
私達は居心地の悪い思いをしながら、それでも他に開いている席が無いので「こんばんわ」と挨拶をすると、座っている人達が一瞬会話を中断し私達へ会釈をして、再び自分達の会話を始めます。
気まずい思いをしているのは私とローズだけのようで侯爵夫人はあまり気に留めた様子もなく、腰を下ろしたとたんあれこれ自身のドレスを確認し始める。
「貴女達、私のドレスに解れた所はないかしら?やぁねぇ。折角新調したドレスなのにあんなにもみくちゃにされるなんて。ほら、もっとよく見て頂戴。大丈夫そうかしら?」
「……はい。見た所、特に解れなどは無さそうです」
「お母様、特に問題無いように思えます」
「あらそう、良かったわ」
侯爵夫人は私達の言葉に喜んだような笑みを浮かべました。
「買ったばかりで破けでもしてたら大変だったわ。良かった、何もなくて」
そう、ニコニコした笑顔でおっしゃいました。
「だってこれ、結構なお値段がしたのよ?それに舞踏会場を見回しても、私よりセンスの良いドレスを着ている人はいなかったわ」
「そうですね、お母様のドレスより良いドレスを着ていた人はいないと思います。そうよね?シビル?」
「え、えぇ!そうですとも!」
いきなり話題を振られたので、ちょっとどもってしまった。
「でも……舞踏会場で知り合いに会えないのは居心地がとてもとても良くありませんね」
「そうねぇ、あの人がいれば紹介して貰えたかもしれないけどねぇ」
と、やっと思いだしたかのようにカード室にいったきり戻ってこない侯爵の話題がでました。
「それに……」と、私はここで声を落として。
「このテーブルにいるのは私達以外お知り合いばかりのようですよ」
「そうなのよねぇ……でもここ以外に席もそうそう空いてないし……」
そう言って、初めて侯爵夫人もバツの悪そうな顔をします。
「早くあの人が戻ってこないかしら」
「お父様がまだ戻ってこないって事は、カードには勝っているって事じゃないかしら?」
そう言ってローズは視線をカード室の方へ向けます。
カードに勝っている、というは侯爵にとっては良いことだとは思うけど、今の私達にとってはそうでもないのです。
「せめて顔見知りがいればねぇ……。去年知り会った、ええと名前はなんとおっしゃったかしら……。とにかく知り合いに出会えればそちらに席を移すのだけれどねぇ……」
そう侯爵夫人がおっしゃった時です。
「あ、お母様、お父様が戻ってこられた見たいよ」
視線をカード室の方へ向けると、ローズの言う通り侯爵がこちらへ近づいてくる様子が見えました。
そのホクホクとした顔を見る限り、ローズの言う通りカードで勝たれたようですね。
「おぉ、ここにいたのか、随分と探したんだぞ」
「私達こそ、随分と貴方をお待ちしてたんですよ」
「おや、そうだったか。いやぁ、中々カードから抜けられなくてね。わはははは」
と、機嫌が良さそうに笑いました。
この分ではカードで大分勝ったのでしょうね。
「所でどうだったローズ、シビル、舞踏会は楽しかったかね?」
「全然よ、お父様。人込みも凄いし、誰もダンスに誘ってくれなかったんですもの」
ローズの言葉に私も頷く。
それを聞いた侯爵は、「おや、お前たち、誰にも誘われなかったのか?」
などと無神経な事を言い始めます。
「貴方がカードなんかにいかなければ踊りのお相手が出来たんだけれど、貴女達は本当に残念だったわね」
「私と?はははは、こんな年かさと踊ってもローズとシビルは嬉しくないさ。今日は到着が遅れたせいもあるかも知れないな。次は上手く相手が見つかるだろう。ところで……お前」
「なんですか、貴方?」
「ちょっとそこでダルリンプル子爵とそのご夫人に会ってね。ぜひお前にも挨拶をしたいそうなんだ、一緒に来てくれないか?」
「あら、ダルリンプル子爵夫妻もいらしてたのですか。分かりました。では私は挨拶に行ってきますね」
そう言って侯爵夫妻は人込みに紛れて行ってしまいました。
後に残された私達はお互い顔を見合わせるとどちらからともなく溜息を吐くのでした。




