第19章 石の姉弟たちの始まり
——私達兄弟の始まりは、ある一人の男から始まった。私達に創造主と呼ばれている、私達を作り出した男だ。
この島に来る前は、この島より遥か遠くの国に住んでいて、そこで薬を作って売ったりして生活を立てていたらしい。
創造主はその国で一人の女性に恋をした。美しい人だった。と彼は言っていた。
その人と生涯を共に生きていくことを夢見ていたが、創造主は彼女から愛されることはなく、彼女は知らない男と結ばれた。
それでも、創造主は彼女を愛していた。命ある限り、彼女を愛し続けていこうと思っていた。
けれど、あるとき彼女が自分を愛することはこの先ないと悟ったとき、彼は彼女の側を遠く離れた誰もいないこの島へと移り住んだ。
彼女への叶わなかった思いを抱いて一人で生きていたがあるとき、男は自分に命を生み出す力があることに気が付いた。元々手先は器用だったので、この島にあるいくつかの石を用いて生き物を作り始めた。初めは小さな生き物を作った。創造主の作った生き物たちは初めの内はぎこちなく動いていたが、彼が知恵を与えてやると少しずつ生き物らしく動くようになっていった。
だんだんと生き物を作るうちに創造主は自分の叶わなかった存在が作り出せるのではないかと考えるようになった。
例えば、ずっと愛している彼女を作り出せるのではないかと。
彼は夢中になって、自分の記憶の中にある愛する人を作った。自分の持てる限りの知恵と記憶に残る彼女を注ぎ込んでエリシアを作り出した。エリシアは創造主の愛した女性にそっくりだった。
創造主はエリシアを愛した。エリシアも創造主を愛した。エリシアは創造主を愛するように作られていたから、創造主が望む言葉を吐いて、彼が望むように振舞った。創造主は誰にもエリシアを盗られたくなかった。かつて自分の愛した女性が別の誰かを愛した未来など来て欲しくなかった。だから、エリシアには自分以外を愛することができないように作った。
2人は仲睦まじく暮らしていたが、あるときエリシアに友人が必要ではないかと創造主は思うようになった。この島には自分とエリシアと創造主の作った生き物しかいない。それだけでは可哀そうだと思ったのだ。
創造主は次にエリシアの妹を作ることにした。エリシアは朗らかで優しい。妹は賢く静かにエリシアの話を聞いてくれるような存在が良いと思い、ティアキスを作った。
創造主の望み通りにティアキスはエリシアの良き理解者となり、エリシアの側にいていつも静かに彼女の話を聞いていた。
3人になった彼らの生活は賑やかになった。
人が増えれば賑やかになる。そう感じた創造主は次に賑やかなピエロのような人間を作り出した。
創造主が性別を与えずに作られた存在は創造主の人格の一部を引き継いだのか人格は男となった。エリシアに手を出されたくない創造主は、3番目の弟には異性愛を持たせないようにした。明るく楽しい男だったが、どこか中身のない男だった。
3番目にできた石の人間の名前はアリオンとつけた。
4人になった島はさらに賑やかになったが、創造主は少しずつ虚しさを覚えていた。
人間のように振る舞い、よくできていた彼らであったが所詮は自分の作った人形。
創造主は自分の虚しさや醜い執着をぶつけることのできる存在が欲しかった。そしてできたのが、エリュオスだった。
エリュオスは創造主の虚しさや愛する人への執着など、彼の暗い部分を一身にその身に受けた。それがどんなことになるか創造主すらわかっていなかった。
そして、最後に生まれたのがレグルスだった。彼は本来なら生まれる理由はなかったのだが、他の姉弟たちを作ったときの残骸が残っており、それを可哀そうだとエリシアが言うので作られた。
ほとんど何も願わずに作られた彼は、生まれたときは棒立ちで何もせずに立っているだけだったので、創造主が自ら学ぶための知識欲を与えたところ、自ら行動し生きる人形になった。
5人を作り終えたあと、ある日創造主は自由に生きろと言伝だけ残して忽然といなくなった。
エリシアは悲しみ、他の姉弟は狼狽えた。
彼らは創造主の帰りを待つことにしたが、100年たっても200年たっても彼がその島に戻ってくることはなかった。
愛想を尽かした2番目のティアキスは自らの姿を樹に変えて島の一部になった。3番目のアリオンは歌を歌いながら小さな小舟を作り島から出て行ってしまった。1番目のエリシアは創造主が戻ってくるかもしれないと言い、いつまでも島に残ることにした。
4番目のエリュオスはエリシアを愛していた。それが本当の愛なのかはわからなかったが、創造主のために残るといったエリシアの側にずっといることにした。5番目のレグルスもティアキスと同じように生きようとしたが、お前までティアキスと同じように生きるのかとエリュオス咎められ、仕方なく島を出て別の生き方を探すことにした。




