第17章 新たな来訪者
風の強い日、またも新しい来訪者がやってきた。
見たことのない燃えるような赤く長い髪に金色の瞳。一見女性のようにも見えたが、細身でしっかり筋肉のついたしなやかで美しい男の人だった。
「ここに5番目はいる?つーかいるよな?」
急に目の前に現れ、名も名乗らずにその人は尋ねてきた。
——また、一体どこから現れたの?
外で草むしりをしていた私の前に、音も無く現れるのだから、びっくりする。
「……あの、どちらさまでしょうか?メリアさんのお知り合いの方ですか?」
「メリア?ああ、違う。ここから5番目の力を感じたんだ。どこにいる?」
「5番目?……一体誰のことでしょう?」
「とぼけんなって。そうしろってあいつに言われてるのか?」
足をとんとんっと鳴らし、私の反応に明らかに苛立っているのがわかった。
とはいえ、5番目なんて……心当たりがあるとするなら。
「レグルスさんのことですか?」
「レグルス?ああ……あいつ、そんな名前だったっけな。そう。たぶんそいつだ。それで、そいつは今どこにいる?」
——なんだか、嫌な感じの人だな……。
口調が偉そうというか、こちらをいかにも見下している態度だった。
私のことをじろじろ見ながら男は感心したように話始めた。
「しかし、5番目が人間と暮らしてるとは意外だな。あいつ使いものになるのか?置き物としてそこら辺に突っ立ってるだけじゃないのか?」
「……そんなことはないと思いますけど」
「本当かよ?まともに話ができるのか?あいつ何もできないだろう?まあ、言うことを聞いておとなしく手伝いしているだけの召使いとかなら上出来かもな」
――やっぱり嫌な人だな。
「レグルスさんは今、ここにいません。また改めていらしてください。あなたがいらしたことは伝えておきますから」
ふと、男の人の目の奥が怪しく光ったように見えてぞくりとする。
「あんた5番目と仲良いのか?それなら、ちょ~っと俺のやること手伝って欲しいんだよな。俺から言うだけじゃ、あいつ言うこと聞かなそうだからさ。なあ」
レグルスさんの兄弟はヴェルミラさんの宝物庫から逃げるために、彼を身代わりにした話を思い出した。
この人は恐らく、レグルスさんを差し出した人なのではないだろうか。
「あの、私はここの管理人をさせてもらっていて、ここからそう簡単に離れられないんです」
「わかんねえかなぁ。……言うこと聞けよ」
彼の周囲にバチバチっと火花が散った。
魔法だ。
どうしようと思った瞬間、私の後ろから大きな黒い生き物が飛びかかった。
「クロードさん?!」
大きな黒い蜘蛛が彼を羽交い締めにする。
「何だよこいつ!この!」
眩しい閃光がクロードさんの下から放たれるとクロードさんの足が2〜3本吹き飛びクロードさんが前のめりに倒れた。
「クロードさん!」
思わず声を上げたが、怪我を負ってもクロードさんの猛追は止まらない。口を開き、牙を剥き、部外者を排除しようと襲いかかっている。
「うぜえなあ!邪魔すんな!」
バチバチバチッと火花がさっきより強く光ったそのとき——。
「やめろ、エリュオス!」
レグルスさんが現れたと同時にクロードさんと男を引き剥がす。
エリュオス——と呼ばれた彼の強い力は眩しい光を放って消えた。
「遅えよ5番目!」
「なぜ来た。エリュオス。魔女のことなら私は関係ない。ヴェルミラの元に戻るんだな」
「ちげえよ。もうあいつのこと何てどうだっていいんだよ。うまく逃げてこれてよかったじゃねえか」
「だったらなんだ?……ここにいる人達に手出しはしないでくれ」
「へえ……お前本当に人間みたいな生活送っているのか?失敗作だったくせに」
心底馬鹿にしたような声をかけるエリュオスをレグルスさんは静かに無表情で見つめていた。
「俺らの生みの親がくれた欠片。あれを渡せよ。そうしたら消えてやるよ」
すっと彼は自分の胸に手をあてると手がするすると胸の中に入っていき、胸の中心で何かを探るような動作をしたあと深い青色の美しい宝石を胸から取り出し、エリュオスに向けた。
「持っていけ。そして、ここにはもう来るな」
「ちげえよ。1つじゃねえ。お前を動かしてる全部が必要だ」
「それはできない」
「なんだと……?お前に俺のことを拒否する理由なんてあんのかよ?」
「私にはここでの生活がある。置き物になってしまっては彼女の仕事の手伝いができない」
急に私の話をされて驚いていると、レグルスさんがそっとこちらを見つめた。
「なんだ?そいつのことをずいぶんと大事にしてるんだな。何が目的だ?ついにお前もちゃんとした身体が欲しくなったのか?なあ、あんた、こいつをどうやって手懐けたんだ?俺たち兄弟の中ではこいつの心と身体が一番中途半端で不出来だったんだ。生まれたときなんて、歩き出そうとしたらすぐに身体が壊れて悲惨なもんだったぜ」
レグルスさんは黙ってエリュオスの話を聞いていたが、すっと目を伏せたのが気になった。
「まあ、俺たち兄弟ができたあとの残り物で作ったから仕方がないんだけどさ、身体が動いただけで壊れるからって多少は頑丈に作り直してやったのに、今度は心が不出来だからか動くことも話すことすらしなくてさ。しょうがないから、俺らの創造主が学ぶ心を付け足してやったんだけど、結局大したことはできなくてさ」
「そんなことありません」
思わず言葉が漏れてしまい、しまったと思った。でも、レグルスさんを馬鹿にする彼の態度はどうしても許せなかった。
「レグルスさんはすっごく真面目なんです。ここでみんなと一緒に暮らしていくために、いつも私の話をよく聞いてくれます。教えたことは1回で覚えてくれるし、間違えたことは絶対にしないんです。今は生活に慣れていなくてできないことは多いかもしれませんが、私はレグルスさんのこと劣っているなんて思ったことありません」
エリュオスのほうを見た。不機嫌でもなく、かといって真面目にこちらの話を聞いているわけでもなさそうだったけど、言葉が止まらなかった。
「お二人のこと、よく知りませんがあんまりレグルスさんのことを悪く言わないでください。少なくとも私は……ここにいてくれていることに感謝しています」
エリュオスが明らかに不機嫌になったのがわかった。何が彼の癪に障ったのかわからなかったが、眉間に皺がよる。
「そうかよ。それは結構なことだ。よかったなあ5番目。お前のことを大切に思ってくれるやつができてさ」
――一瞬だった。
「スミ!」
レグルスさんの声が聞こえたときには、目の前にエリュオスの横顔が見えた。さっきとは比べものにならない火花が周囲を散っている。
私は後ろからエリュオスに抱きかかえられるように両腕を掴まれ身動きが取れなくなっていた。
「離して!」
必死に抵抗を試みるがびくともしない。
「俺たちの故郷に来い。レグルス。来なかったら、こいつも俺の一部にする」
エリュオスの横顔からは何の感情も読み取れなかったが、何も感じさせない表情が逆に恐ろしかった。
「やめろ!エリュオス!」
「てめえは俺に指図できるような存在じゃないんだよ」
「エリュオス!」
エリュオスを止めようと手を伸ばしたレグルスさんの目の前に大きな雷が落ちた。強い光に思わず目を閉じて周囲の音が静かになったとき、恐る恐る目をあけるとそこは静かな風の音と波の音が聞こえる場所に変わっていた。
どうやら、また私は連れ去られてしまったらしい……。




