第16章 レグルス
レグルスさんはどの仕事も黙々とこなす人だった。
教え始めた頃は慣れない作業に側で見ていないと心配な時もあったけど、今は仕事を任せても特に問題はない。
掃除も、洗濯も、朝食作りも、水汲みや力仕事でも不満や愚痴を漏らすこともなく、ただ終わるまで黙々と続けられる人だった。
本当に何も言わないので心配になって、仕事は大変じゃないかと聞いてみても「特に問題はない……」
としか言わなかった。
それでも、私が一緒に仕事をしているときや仕事が終わったときに感謝を述べると不思議そうな顔をして、たまにコツンとおでことおでこをくっつけることがあった。
「これってなんの確認をしているのですか?」
「君の感情を読んでいる」
「えっ?!」
思わず、レグルスさんからぱっと離れる。
「そういうの勝手にやっちゃ駄目ですよ……せめて、一言聞いてからやってください」
「そうなのか?すまない、あまり相手の表情や言葉から感情を読むのが苦手なんだ……」
「言葉通りに受け取ればいいんじゃないですか?」
「そうなのか?」
「たぶん?まあ、結局のところ相手を信じるしかないような気がしますけど」
「そうか……君は私のことを不快に思ったりしたことは無いか?」
「いいえ?全然」
レグルスさんが本当に?と思ってそうだなと思ったのでこつんと自分のおでこを彼のおでこにくっつけた。
「嘘じゃないですよ?」
結局、おでこをくっつけ合わせていた。
「本当だ……」
ふっと彼が笑った。
その顔を見て、ふと思い出した。
この顔!私が元の世界で見ていたネット配信のドラマに出ていた俳優さんに似ている!
「レグルスさんのその姿って元から何ですか?」
「なぜ、そう思う」
「私がいた元の世界によく似た人を見たことがあるので、懐かしいなと思いまして」
「ああ……君の中で好意的に見ていた人物に似せて変身したからな……」
「えっ!」
この人、今とんでもないことを言ったような……。
「君の前に表した姿は全てそのときに必要だった姿にすぎない」
「どういうことですか?」
「私にはこれといった明確な姿が存在しない。だから、どこか他者のいる社会で混ざって生活するためには、そこにいる者達と同じ姿をとらなくてはならなかった。まあ、大体同じ姿をしていても本物からすると偽物は見抜かれてしまうようで、どこに行ってもうまく馴染めなかったが……君は問題なかったみたいだな」
レグルスさんがそっと微笑む。
得体の知れない何かが変身して側にいるというのは、正直気味が悪い気がしなくもないけれど、メリアさんも受け入れてくれたし、彼から何か害を受けたわけでもないし、どこに行ってもうまく馴染めなかった。という言葉が引っかかってしまって、それ以上は聞けなかった。
「ドラゴンの姿も必要だからとっただけで、ドラゴンではないんですか?」
「ああ。危険なときにあの姿に変身するとだいたいの生き物は怖がって近づかなくなるから」
「そういう理由があったんですね。とはいえ、本物と同じような能力みたいなものまで使えるなんて、すごいですね」
「そうか?あくまでも、似せているだけで本物には敵わないさ」
そう言って彼は、自嘲するように少し笑った。




