第15章 来訪者
朝から暑い日が続く夏のような日にその人はある日突然やって来た。
初めて会ったとき、カッコいいよりも、この人どこかで見たことある顔だな……だった。
髪は濃い茶色で少し彫りが深く、瞳も濃い茶色だった。思慮深そうな落ち着いた雰囲気の男性がカミラの宿り木に訪ねてきたのだ。
ここ、カミラの宿り木はメリアさんがおかしな人が訪れたりしないように魔法がかけてあり、外から来る人は珍しかった。もし、訪れるならメリアさんから一言予定が伝えられているはずだ。
今のメリアさんは6~7歳の小さな女の子に成長していた。
今日、メリアさんから来訪者がくるなんて聞いてないな……。
突如目の前に現れた人になんて声を掛ければいいか、一瞬迷ってしまった。
「こんにちは……?あの、どなたかのお友達の方でしょうか?」
「ああ」
そう言うと、じっ……と私を見つめて来た。まじまじと男の人の顔をよく見ると綺麗な整った顔立ちだった。正面から直視するとなんだか照れる。
——とはいえ、どっかでこの人の顔を見たことあるような……。
「君に用があってここに来た」
「私?」
こんな端正な顔立ちのイケメンの知り合いなんていないけど……。
絶対に私じゃない。そもそも男性の知り合いなんて、この世界ならポピンさんぐらいしかいない。あとは前に勤めていた食堂の店主さんとか……誰かの紹介?私を?誰が?
「すみません……。どなたかのご紹介でしょうか?私はお会いしたことがないと思うのですが?」
「いや、会ったことはある。……そうか、この姿ではなかったな……」
ふむ。とその人は顎に手を当てて考え込むと手を頭上にあげてスライドさせるように下におろした。すると、顔だけがライオンに変わった。
「この姿ならわかるかな?」
「……あっ!もしかして、宝物庫の!ライオンさん!」
驚いた!この人(人?)人間にも変身できるんだ!……すごいな。それにしても、なぜまた私の前に現れたのか?
「君に頼みがあってここに来たんだ」
「私に?どんなご用件でしょう?」
「その、住む場所を探しているんだ」
「なるほど、それならメリアさんに相談してみましょうか」
魔法の力があっても入ってこれるというなら、たぶんこの人は大丈夫な人なんだろう。
彼を連れて、メリアさんがいつもいる庭園へと入っていく。メリアさんはクロードさんといっしょに日向ぼっこをしていた。
「メリアさん。すみません。今、ちょっといいですか?」
「いらっしゃい。スミさん。どなたかいらっしゃったみたいね」
見た目は小さな女の子で幼い話し方をするのに、精神と知能はずっと大人の彼女のままらしい。ちぐはぐではあるが、落ち着いて上品な雰囲気はそのままだった。
クロードさんがいつもより強く反応する。私と出会ったときとは明らかに様子が違う。メリアさんの前に立ちふさがり、それ以上近づくなと言わんばかりの反応をしている。
「大丈夫よ。クロード。恐ろしい者ではないわ」
メリアさんに声を掛けられて、クロードさんが本当に~?と疑わしそうな反応をする。ライオンさんの周りをうろうろと観察しながら歩き回り、ときどき前足でちょん、ちょんとライオンさんの足元に触れて確認してみている。ライオンさんはというと、クロードさんの行動に対して特に気にも留めていないようだった。
「私がヴェルミラさんに攫われたときに助けてくださった方なんです。今、住む場所を探されているそうで、空いているお部屋をご紹介できないでしょうか?」
「そうねえ。できないことはないんだけど……うちのお部屋は金貨3枚からなの。あなたに払えるかしら」
——金貨3枚?!そうなの!
「金貨以外では駄目か?」
「そうね。できるだけ住む人の支払うものに差はつけたくないのよ」
「ふむ……そうか……なら、この話は無しだな」
「えっ!そんな、あっさり?!他にも頼れるところがあるんですか?」
「いや……特には……」
わざわざ、ここに来るなんてそれなりに事情があったのかと思ったんだけど、そうじゃないのかな。
ライオンさんの表情は特に変わらず、困っているのか、そうでないのかよくわからない。
何だか……気まずい空気が流れる。
「……あの、私と同じように住み込みで働くっていうのはどうですか?ライオンさん力仕事得意そうだし、井戸からお水汲んでもらったりとか、どうですか?そういう人、いてくれたら助かるな〜って、ちょっと思っちゃったんですけど……」
しどろもどろになりながら、彼のフォローに入る。私にとっては命の恩人ではあるし、つい口を出してしまった。
「あら、そうなの?そうねえ、スミさんのお仕事分担する相手がいてもいいかもしれないわね。できますか?うちの家で働くことになるけど」
「ああ。それで住ませてくれるなら、特に構わない」
「なら、そうしましょう!お部屋はそうね……バルコニーを挟んでスミさんのお隣はどうかしら?」
「だ、大丈夫です」
なんとかなった。
思わず、は~っと息を吐く。すると、ライオンさんと目があった。
「よかったですね」
「ああ、ありがとう……」
「お仕事の分担はスミさんに任せるわ。あなた、お名前は?」
「レグルスだ」
そんなカッコいい名前だったのか。端正な彼の顔とよく似合っていると思った。
「いつから、こちらに来られるかしら?」
「今日からでも構わないか?荷物はない」
「あら、でもお部屋の掃除をしないと」
「それなら、私が!」
「あら、そう?レグルスさんにお仕事を教えながら一緒にお掃除したら?ちょうどいいじゃない」
メリアさんがポンっと手を叩く。
「そうですね。構いませんか?」
「ああ……」
レグルスさんを連れて館の中に入る。階段を昇ってバルコニーの左隣が私の部屋で、バルコニーの右側がレグルスさんの部屋になる。
「このお部屋です」
普段使わない部屋は滅多に入らないのだが、足を踏み入れるとほこりが舞った。ベッドにもほこりが積もっている。……これは空気を入れ替えて掃除しないとだめだ。窓を開けて空気を入れ替える。
「まずは、掃き掃除から始めましょうか」
「わかった」
私が腕まくりをすると、彼も真似をして自分の服の腕をまくった。




