第13章 強欲の魔女
「まあああ!一体どういうことなの?!」
ヴェルミラさんの叫び声が聞こえる。
魔女さま!魔女さま!あいつが!と口々に壊れてしまった宝物たちが私を責めたてる声が聞こえる。やばい!私はガラスケースを抱えて一気に走り出した。
目の前が光ったと思った瞬間、閃光が足元にバチリと音を立てて跳ねた。
ヴェルミラさんの魔法だ。
「早く来い!」
ライオンさんの呼ぶ声が聞こえる。ヴェルミラさんはさぞやお怒りだろう。その姿を想像するだけで恐ろしく振り返る気にもなれない。
ライオンさんのいる部屋から赤い光が飛んでいくのが見えたと同時に私の後ろで何かが弾ける音がした。
どうやらライオンさんが魔法で私を守ってくれているらしい。赤い光が生き物のように私を避けて後ろへと飛んでいく。
息が上がって、足がもつれてくるが止まるわけにはいかなかった。
ライオンさんのいる檻が見えてきたとき頭上を覆う大きな影がよぎったと思うと目の前には出会ったときと変わらない美しい貴婦人姿のヴェルミラさんが息一つ荒げずに立っていた。
「美しいでしょう?その宝石……」
ヴェルミラさんがにっこりと微笑む。紅い唇が横にぃっと開く。
「それ、とても気に入っているの」
一歩、一歩ヴェルミラさんが近づいてくる。口は笑っているけれど、目は笑っていない。
おずおずとガラスケースを抱えたまま後ずさるとおしりがドンっと何かぶつかった。ハッとして後ろを振り返ると宝物たちが私を逃さないように立ち塞がっていた。
――どうしよう……。
「いい子だから、それ返してくれるわよね?」
ヴェルミラさんの声は妙に優しくて逆に恐ろしかった。
返せ!返せ!と後ろの宝物たちも迫ってきて、もうダメだ……と思った瞬間、ヴェルミラさんの後ろから恐ろしい獣の咆哮が響いた。
宝物もヴェルミラさんも一瞬その場にうずくまって動かなくなった。
「こっちだ!」
ライオンさんの声が聞こえた瞬間、私は急に走り出した。自分でもどうして走り出せたのかわからなかった。
うずくまるヴェルミラさんの横を走り抜け、ライオンさんの檻に走る。後ろから少しずつみんなが動き始めたであろう音が聞こえる。
「ライオンさん!これ!」
「私に向かって投げつけろ!」
「ええ!?」
「いいから、早く!」
思わぬ提案だったが、止まってるわけにもいかず振り上げて、ライオンさんに向かって思いっきりガラスケースを投げつけた。
「待ちなさい!」
ヴェルミラさんの声が聞こえるのと同時にガシャン!と大きな音を立てて、ガラスケースが割れ、青い宝石が転がり落ちるのが見えた。
転がった宝石は重力に引き寄せられるようにライオンさんに向かっていき、ライオンさんが大きな口をあけると宝石をごくりと飲み干した。
「ああ……なんてこと……」
ヴェルミラさんの悲痛な声が聞こえたと同時に、かっと檻から強い光がはなたれ、思わず目を腕で隠す。
光が収まったところで、恐る恐るライオンさんのいるほうを見ると……彼を閉じ込めていた檻は壊れて、先程までのライオンだった姿が大きな翼を持ったドラゴンへと変化していた。
「嘘……どういうこと……?」
唖然としてドラゴンを見つめていると、ドラゴンは大きな口を開き、あっ!と思ったときには私を口に入れて丸呑みしたのであった。
「待ちなさい。レグルス。話が違うわ」
ヴェルミラはドラゴンの前に立ちはだかると脅すような声で言った。
「あなたはエリュオスの代わりにここに入ったのよ。その宝石は約束の証。勝手しないで頂戴」
ドラゴンはため息をつくように深く息を吐いた。
「ヴェルミラ。エリュオスはあなたに約束をしたかもしれないが、私が承諾した覚えはない。約束を果たさないエリュオスを連れ戻してくれ」
「どちらでも構わないわ。私はあなたの持ってる宝石を気に入っているのよ。あなたもこの宝物庫に入ったら、全て私の物なのよ!どこにも行かせないわ!」
ヴェルミラが手をかざすと複数の茨の蔓がドラゴンの周りを取り囲み、身体をあっという間にぐるぐる巻きにした。
しかし、ドラゴンも力が戻ったのか、その蔓を手で引きちぎり、口から赤い炎を吐いた。
辺り一面、あっという間に燃え出す。
「なんてことをするの!」
ヴェルミラがサッと手をかざし炎を鎮火させる。
すると見計らったようにドラゴンは大きく羽を羽ばたかせると天井へと飛び上がった。
「待ちなさい!」
ドラゴンは大きく息を吸い込むとまた大きな声で咆哮をあげる。すると宝物庫は突然地震にあったかのように震え、天井からバラバラと欠片が落ち始めたと崩れ始めた。
崩れた天井からドラゴンはあっという間に空へと舞い上がった。大きく羽を羽ばたかせると魔女の屋敷の上を大きく旋回してどこかへ飛び去って行った。




