第11章 魔女のお気に入りの宝石を盗む方法
――困った。
本当に困ってしまった。盗んでこいと言われても、どうしようもない……というのが今の状況だった。
ライオンさんから言われたあと、何度か魔女のお気に入りの宝石に近づいてみようと試みたが、ことごとく失敗に終わった。
まず、宝物庫の宝物たちに見つかれば追いかけ回されるし、運良く近づけたとしても、宝石を守る宝物たちに遭遇して殺されそうになるのである。特に魔女のお気に入りの宝石が飾られている山の下には鎧を着た騎士が鎮座していた。
私が近づこうとすれば、腰の剣を抜いて振りかざしてくるのだからどうしようもなかった。
何か方法はないのかな?とはいえ、便利な魔法など知らないし、私には宝物たちをあっという間に倒す力も持っていない。
万策尽きたと言わんばかりの顔をしてライオンさんの元に行くと、彼は相変わらず寝息を立ててすやすやと眠っていた。あの宝石を盗む以外で何かできることはないかライオンさんに聞いてみよう。
「ライオンさん」
私が声をかけるとライオンさんの耳がピクリと動いた。また左目だけをそっとあけてこちらを見つめる。
「宝石を盗ってきたのか?」
「いえ……そういうわけでは……」
「ならなんだ?」
「あの……宝石を盗む以外に何か他のことはありませんか?」
退屈そうに大きなあくびをするとライオンはいかにも面倒くさそうに鼻をふんっと鳴らしてこちらを見つめる。
「ないな。あの宝石以外、他に欲するものなど何もない」
「そうですか……」
あの宝石に何か価値があるのだろうか。どうしてライオンさんはそこまであの宝石にこだわるのだろう?
「あの宝石はあなたの物なんですか?」
「なぜ、そう思う?」
「あなたがずいぶん気にしているなと思ったものですから……盗んでこいだなんて言うし。何か思い入れのある物だったりするんですか?」
ライオンさんは黙り込んでしまう。何かまずいことでも聞いてしまったのだろうか?
「あれは私の一部だった。兄と入れ替わりにここへ入るとき魔女に代償として渡したものだ」
「一部?何か体のパーツとか、そういうことですか?」
「今のこの姿は一時的な仮初にすぎない。魔女がこの姿でいろというので今の姿をしているが、本来はもっと違う姿なんだ。今は元に戻る力が無い。……あの宝石は私が元の姿へ戻るために必要なのだ」
「なるほど?」
つまり、ライオンさんは本来別の姿をしており彼の兄弟をヴェルミラさんの宝物庫から逃がすために、ここにやってきて兄弟の身代わりとなるかわりに姿をヴェルミラさんの望む通りに変身したが、その際に自分の身体の一部が盗まれてしまい元の姿に戻れなくなってしまった。
……ということらしい。
「ライオンさんが元の姿に戻れれば、ヴェルミラさんにも負けない力が戻るってことですか?」
ライオンはこくりと頷いた。
そうとなれば、やはりあの宝石を盗まなくてはならない。困ったな、どうすれば……。
「その、ライオンさん?という呼び方はなんだ?」
「あっ……えっと……私の元いた世界のライオンという動物にあなたがよく似ていて……」
「ほう……?それは一体、どんな生き物なんだ?」
興味があるのか、いつもの気怠そうな目とは違い話の続きを促すようにこちらを見つめている。
「猫とよく似ていて、ってこの世界には猫はいるのかな……えっと、なんて説明すれば……」
「頭をこちらに……」
ライオンさんはそういうと、宝石の場所を教えてくれたときと同じように顔を近づける。
ライオンさんのおでこに私のおでこをくっつける。今度は前のように目の前に映像が流れることはなかった。
「なるほど……確かに似ているな……ふむ……」
彼は自分の尻尾をじっと見つめると尻尾がするすると形を変えて私の知っている尾の先が毛で膨らんだライオンの尻尾に変化した。
「すごい……」
思わず声をあげるとライオンさんがこちらを見た。
「今は一部だけだが、力が戻ればもっと忠実に変化できる」
「盗む以外に方法はないのでしょうか?例えば、ヴェルミラさんに交渉してみる……とか?」
ライオンさんは目を伏せて黙り込み首を横に振った。
「あまり期待はしないほうがいい。恐らく、代わりの対価を求められるだけだ……私のように」
――そうだった。ライオンさんはそういう事情でここにいたのだった。いらないことを言ったな……。
私が唸っているとライオンさんが部屋の奥の宝物庫を見つめて呟いた。
「ここの物たちはあまり大切にはされていない」
「えっ?」
「宝物庫とは名ばかりで、ヴェルミラは手に入れるとその対象に興味が無くなってしまうんだ。だから、ここに入れられてしまった時点でヴェルミラからすれば、すでに本人の目的は満たされている」
私の目を見るとライオンさんは呟いた。
「ここにいる物たちが多少壊れたところで、あの女は気にも留めない。……まぁ、少しは嘆くだろうがね」
「それって……」
「……もしも、宝石を手に入れられたら私のところに来てくれ。君を助けることは約束する」
それだけ言うと、話はもう終わりだと言わんばかりに彼は目を閉じてしまった。




