ファッションショー
「それにしてもノア君は可愛いわね~。こんな可愛い人初めて見たわ~」
「それだけじゃない。ノア、帽子取ってみて」
「うん」
俺はエヌに言われるがまま帽子を取る。まぁこの人曰く心は男らしい(?)ので大丈夫だろう。
「……綺麗な黒髪」
モーレさんは芸術品を見た時の様にうっとりとした表情で俺のことを見つめる。やはりこの世界の人にとって黒い髪というのは特殊な物らしい。心は男と言っていたモーレさんですら乙女の顔になっている。いや俺からしてみればモーレさんも普通に乙女なんだけどね?
「でしょ?これが私の未来の旦那さん」
「だからエヌと結婚するとは一言も言ってないからね?」
「じゃあ今から私と婚約を──────」
「しません」
「むぅ……」
「むぅ」じゃありません「むぅ」じゃ。そんなポンポンと婚約を迫られても断られるのが普通でしょうが。
「ふぅ……ごめんなさいね、あまりの可愛さに意識が飛びかけちゃったわ」
「あ、いえ。全然気にしないでください」
可愛さで意識が飛びかけるって……いやまぁそんな時もある……か?いやないな。
「それで今日はどうしたの?エヌちゃんはまた男を引っかけるためのお洋服が欲しいのかしら?」
「服は欲しいけど今日は違う。ノアに気に入られるような服が欲しい。あとノアが着る用の服もいくつか欲しい」
「それは良いわね!こんなに可愛いんだからおしゃれしたらもっと可愛くなるはずだもの!ふふふ、お兄さん張り切っちゃうわぁ!」
そっか、こっちの世界のオネェの人って女の人が自分の事お兄さんって言うのか。一瞬俺の頭が「????」の状態になったけど変な顔してないよね?大丈夫だよね?
「まず私から。楽しみは最後に取っておくのが私の流儀」
「ふふ、分かったわよ。好きなようにお洋服を見て……と言いたいところだけどエヌはいつもの感じでいいかしら?」
「うん、全部モーレに任せる」
「任されました。さ、それじゃあこっちにいらっしゃい」
「ん」
そう言うとエヌは試着室へ入っていき、モーレさんが店内に並んでいる服を慣れた手つきでささっと選び試着室にいるエヌへと手渡した。
それからしばらくして着替え終わったエヌが試着室から姿を現す。スラリとしたズボンに高級感のあるシャツとその上にジャケットを羽織ったエヌが現れる。前世でボーイッシュな女の子と仲良くなり、一緒に遊ぶ機会があったのだが、その時に見た物とよく似ている。
「どう?ノア」
「うん、すごくかっこいいと思うよ!」
流石は貞操観念逆転世界、女の子が着る服も男っぽくなっている。普段エヌはローブを着ているせいであまり違和感を感じなかったがやはりおしゃれをするとなるとこう言うかっこいい感じの服を着るのだろう。個人的な意見では可愛い系の服の方が似合いそうなんだけどなぁ……。
「ふふん。私は美少女だからね、大抵の服は似合う」
俺に褒められたのが嬉しかったのかエヌは胸を張りながら自慢げな顔をする。
「モーレ、次の服も持ってきて」
「全くもう人使いが荒いわね~」
口ではそう言いながらも既に似合いそうな服を選んでいたのか、先ほど同様慣れた手つきで洋服を手に取りそれをエヌへと渡した。
それからしばらくエヌのファッションショーを眺め感想を言う時間が続いたが、彼女の着た洋服はどれもかっこいい系のものばかりだった。やっぱり女性がスカートを履く文化はこっちにはないんだなぁ。
「ノア、一通り見てみてどうだった?」
「うん、どれもかっこ良かったよ」
「ふふ、これでノアも私に惚れた?」
「いやそこまでは行ってないかな……」
「むぅ……ちなみにノアはどの服が一番好きだった?」
「えっと……」
どれもかっこ良かったけど……スカートとかの可愛い系の服を着ているところを見てみたいなんて言えないよなぁ……。
エヌが来た服はどれもこれもかっこよく、彼女の魅力を惹き立てていた。俺がこちらの世界の男性観であったならエヌのことをかっこいいと思い、惚れていたかもしれない。しかし俺はこちらの世界の人間ではない。そのためかっこいいエヌの姿を見ると同時に可愛い服を着たらもっと似合うのにという考えが頭をよぎってしまうのだ。
「あら、私のセレクトに納得いかなかったかしら?」
俺が言い淀んでいるのを疑問に思ったのかモーレさんがストレートな質問をぶつけてくる。
「あ、違うんです!どれもかっこ良かったのは事実です、けど…」
「けど?」
「その……エヌが可愛い系の服を着ているところを見てみたいなぁって思っちゃって」
しばしの静寂が店内を包み込む。やっぱり俺変なこと言いましたよね!!だってこっちの世界だと女の子はかっこいい服を着るのが普通なんですもんね!!
やってしまったと一人頭を抱えていたが、どういう訳かこの静寂はモーレさんの笑い声によって終わりを迎える。
「……ふふ、ふふふふ」
「あの……モーレさん?」
「分かってるじゃないノア君!!そうよねぇ!?エヌは絶対にスカートとか可愛い系の服が似合うわよねぇ!?」
「あ、はい、似合うと思いますね」
え、なんか急にテンションおかしくなったんですけど?普通に怖いんですけど?
こちらに顔を寄せ、ギラギラとした瞳で俺の目を見るモーレさんに若干の恐怖を抱く。一体どういうことなのかとエヌに視線を向けるとエヌは「言っちゃいけないこと言ったねノア……」みたいな感じの視線で俺のことを見つめていた。あれですか?所謂地雷を踏んだってやつですか?
「やっぱりノア君も思うわよね!エヌはかっこいい服より可愛い服が似合うって!!嬉しいわ、私の考えを理解してくれる人が近くに居てくれて!!そうよ!別に女の子がスカートを履くのはおかしくないのよ!!さぁエヌ、ノア君もこう言ってることだし可愛い服を着ましょう!!」
「いや。前も言った私は可愛い系じゃなくてかっこいい系の服が好きだって」
「あの、モーレさん」
「何かしら!?」
テンション高いなこの人。
「女性の人がスカートを履くのって普通なんですか?」
「もちろん普通よ!だって男性だってズボンを履くじゃない?それと同じで女性がスカートを履くのも普通よ。街で女性がスカートを履いているのを見なかったかしら?」
うーん……言われてみればいたようないなかったような……女性の人がスカートを履くのが普通って言うイメージがあるから頭に残って無いなぁ。
「じゃあ逆に男の人がスカートを履くのは……」
「これも普通よ。まぁ人によっては苦手って人もいるけどね」
「そうなんですね」
「ノア、今日もスカート履いてる男居たよ?」
「え、ほんと?」
「うん、普通にいた」
まじか……街の雰囲気を楽しむのに全力だったからか全く気付かなかった。ってことはズボンが男女関係なく履かれているの同様、スカートも男女関係なく着られているのか。
「それじゃあエヌちゃん!可愛い服も着てみましょうか!!」
「やだ」
「ノア君に好かれるチャンスなのよ?ほら、ノア君も何か言ってあげて」
「エヌの可愛い服着てるとこ見てみたい……な?」
「ん、着る」
「あのエヌからすぐにYESを引き出すなんて……ノア君……恐ろしい子!」
首を傾げ、まるでアニメのヒロインの様にお願いをしてみたところなんと即了承を得られました。どうやら俺ってこの世界だとめちゃくちゃ顔が良いらしい。あまりにもちょろすぎる。
「着てみたけど……どう?」
しばらくしてエヌが姿を現す。清楚さを至る所から感じるワンピースに身を包んだエヌに俺は言葉を失う。控えめに言ってめちゃくちゃ可愛い。
「……ノア?」
「あ、うん!すごく似合ってるし可愛い……よ?」
「うふふ、ノア君はこっち系の服を着ているエヌちゃんの方が好きみたいね~」
「モーレ、こういう系の服ちょうだい。細かいところは任せる」
「ふふ、かしこまりました」
そう言うとモーレさんは俺の近くから離れていき、その代わりにエヌがこちらにゆっくりと歩いてい来る。
「……どう?」
「うん、すごく似合ってるしすごい可愛いよエヌ」
「……そっか」
エヌは俺の言葉を聞いて今日一番の笑顔で微笑んだ。




