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怖いし誰?

「うん、満足した」


 かっこいい系の服の次は可愛い系の服のファッションショーが始まった。彼女の着る服はどれも可愛く、何度自分の心臓が跳ねたかもう分からない。やはり洋服を扱っている以上、モーレさんは人並外れたセンスを持っているのだろう。彼女が選んだ服は全てエヌに似合っていて可愛かった。


「どれを買うかは決めたかしら?」


「さっき来た可愛い服全部」


「はーいありがとうございまーす」


「え、あれ全部買うの?」


 何事も無かったかのように大人買いをするエヌに俺は困惑の声を上げる。全部って……結構あったしこのお店の洋服ってそんなに安い物じゃないよね?


「うん。私はAランク冒険者。お金なら余るほどある」

 

 あ、そうでした。エヌってこんな感じだけどちゃんと強い人だったわ。俺に対する言動があれだからつい忘れちゃってた。


「はい、お待たせ。エヌちゃんはいつもうちで買い物をしてくれるから少しだけ安くしといたわ」


「ありがとモーレ、また今度買いに来る」


「いつでもお待ちしてるわよ」


「それじゃあそろそろ──────」


「あら?ノア君の服は見なくていいのかしら?」


 満足した表情で店を出ようとしたエヌの脳に電流が走る。ドアへ向かおうとしていた体を回れ右し、モーレさんの方へと全力ダッシュ。


「忘れてた。今すぐ用意して」


 エヌはモーレさんに今までに見たことないほど食い気味で俺の服を用意させようとする。モーレさん……あなたが黙っていればこのまま大人しく帰れたというのに……。


 服を女の子と見に行くときの護身術、「感想を聞かれたら答えそれ以外は影を潜め物静かにやり過ごす戦法」を実行していた。これは2人の姉に連れ回された結果自然と身に着いた自分独自の戦法、ちなみに勝率は5割を切っている。というかお姉ちゃん達のテンションがやけに高い時くらいしか通用しませんでした。


「いやほら、今日はたくさん買ったしまた今度でいいんじゃ──────」


「だめ、今すぐノアもたくさん着替えるべき」


「たくさん洋服持って歩くのも大変だと思うし──────」


「大丈夫、いざとなれば魔法の力で何とかする」


「……」


 駄目だ、これは完全に逃してくれない目をしている。こうなった時の女の子は何を言っても効果がないってお姉ちゃん達から学んだんだ。


「はぁ……わかったよ」


「うん、お金は私が出すからたくさん試すのが良い」 


「じゃあノア君借りてくわよ~」


「私は別にここで着替えてもらっても良い。むしろここで着替えて欲しい」


「それは絶対にヤダ」






「あの……これ着るんですか?」


「そうよ?何か変だったかしら?」


「イエナンデモナイデス」


 という事で試着室に入った俺はモーレさんから服を渡される。しかしここで問題が発生する。なんとなく、何となくは予想していたことだが手渡されたのは各所に可愛いデザインが施されたゆるふわな洋服withスカート。まぁね?貞操観念が逆転してるからこうなるんだろうなとは分かってたんだけどね?


 着方が分からないというわけではない。小さい頃から姉たちにお人形遊びよろしく女の子の服を良く着せられていたため着方自体は分かる。だからと言って着たい訳じゃない。というか着たくない。


 でもこのまま一生出てこないと不思議に思われるし、もしかしたら「一人で出来ないなら私が手伝う」とか言ってエヌが乱入してくる可能性もあるしなぁ……。


「はぁ……しょうがない…か」


 俺は大きなため息を吐きながら今着ている服を脱ぎ始めた。





「はい、着ましたよ──────ってエヌ!?」


 試着室のカーテンから顔を覗かせるとそこには鼻血をだらだら垂らしているエヌの姿があった。


「ごめん、衣擦れの音がちょっとエッすぎただけだから気にしないで欲しい」


「えぇ……」


 片手で鼻を抑え、もう片方の手で親指を立てるエヌに俺は困惑の声と共に彼女に冷めた視線を送る。流石のティオもここまではない……って言おうと思ったけどティオなら全然鼻血流しそうだなと思ったのでやっぱりこの話は無かったことにしてください。


「どう?ちゃんとサイズは合っていたかしら?」


「あ、はい大丈夫でした」


「それはよかったわ。……ちなみに姿を見せないのは何か理由があるの?」


 顔だけしか見せない俺に疑問を持ったモーレさんが至極当然な質問を投げかけてくる。ぐっ……やはり見せないとダメか……。


「あの……自分こういう服あんまり着ないので恥ずかしいというかなんというか」


「大丈夫よ、ここには今私とエヌちゃんの二人しかいないんだから」


「分かり……ました」


 エヌに見られるのが嫌だという話なんですけどね?でも着た以上見せないといけないか……。はぁメンタルがごっそり削られる音が聞こえる。


「……」


「その……どう…かな…?」


 俺が着させられたのは所謂ゴスロリ衣装である。自分の髪色と同じ服の至る所にフリルとリボンがあしらわれており、特に袖口やスカート部分が重点的に装飾されている。以前もこういうゴスロリ衣装を姉に着させられたがその時以上の恥ずかしさが込み上げ、エヌの顔をまっ直ぐ見ることが出来ない。


「えっと……エヌ?」


 俺はエヌが無言なことに疑問を抱き、下に向けていた視線をちらりとエヌの方へと向ける。目に移ったのは目を大きく見開き、口をほんの少しだけ開けた状態のエヌの姿だった。


「エヌ?大丈─────ぶっ!?」

 

 顔を上げ、声を掛けようとしたその瞬間凄まじい速度でエヌが俺の方へと詰め寄り俺の身体をグイッと抱き寄せる。


「ノア好き!ノア可愛い!好き、好き、好き!結婚しよう!今すぐ結婚しよう!」


 もう少し近づけばぶつかってしまう距離でエヌは今までに見せたことの無い表情で俺に結婚を迫ってくる。彼女の顔は空腹時に得物を見つけた猛獣のような獰猛さと街角で推しのアイドルと偶然出会ったファンの興奮を足したような顔をしていた。何が言いたいかと言うとすごく怖い。


「ノア今からすぐに宿屋に行こう!大丈夫、私がノアのことをすぐに気持ちよくさせてあげ──────ふべっ」


「こら、暴走しないの」


 欲に頭を支配されていたエヌがとうとう俺の身体……下半身に手を伸ばそうとしていたタイミングでモーレさんからの鉄槌が下る。鉄槌を下されたエヌは後頭部を抑えながらその場に小さく蹲る。モーレさんが居なかったらどうなっていたか……想像もしたくない。


「ありがとうございますモーレさん、めちゃくちゃ助かりました」


「良いのよ、男同士助け合っていかないとだからね。それとその服良く似合ってるわよノア君」


「そう……みたいですね。でも僕あんまりスカート得意じゃないんですよ。それにエヌがああなっちゃうならこれは着ない方が良いかなって」


「それはそうね。エヌが発情して暴走すると中々止めれる人がいないから困るのよねぇ」


 発情という言葉を聞いて俺は納得する。なるほど、あの時の切羽詰まった表情はそういう事だったのか。……今すぐこの服を脱いでもよろしいか?


「あ、じゃあ僕この服脱いできますね」


「だめ」


 モーレさんに断りを入れて着替えてこようしたその瞬間、下の方から短い否定の言葉が飛んでくる。声のした方を見るとそこには先ほどとは違い、冷静さを取り戻した(?)エヌの姿があった。


「駄目じゃないよエヌ。エヌが暴走しちゃうから脱ぐんだよ?」


「じゃあやだ」


「そんな子供みたいなこと言っても無理なものは無理です」


「じゃあ暴れないからノアの事見させて欲しい。せっかく着たんだからもうちょっとじっくり見させて欲しい。ノアは私がおしゃれした姿を見た。なら私もノアがおしゃれしているところを見る権利がある」


「……それならまぁいいけど」


 確かに自分だけエヌのおしゃれした姿を見るだけ見て自分は見せないというのは不公平ではある。


「絶対に暴れないでね」


「大丈夫、絶対に暴れない」


「その手の動きだと信用できないんだけど!?」


 手をワキワキとさせながらゆっくりと距離を詰めるエヌに俺は声を荒げる。暴れない人はそんな戦闘態勢みたいな手つきをで近づいてこないんですよエヌさん。


「大丈夫、怖くない。私、良いエルフ」


「どこが怖くないエルフなの──────」


 カランカラン!


 再びエヌとの距離が0に等しくなったその時、お店の扉が勢いよく開かれた。


「黒の天使様、私と結婚してください!!」


 ……誰???

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