異世界人よ、我が書房へようこそ(2回目)
ミステリー小説の方が捗ってるんで、ダラダラ更新するか思い切って更新止めるか迷い始めてます
「おお・・・!」
「どうじゃ?なかなかに洒落とるじゃろ」
現場に向かってみると、路地裏に続くレンガ調の壁の前でサラが仁王立ちで待っていた。その奥の壁には、阿賀野たちが異世界に来る時に通った扉が埋め込まれる形で設置されていた。
「路地裏の行き止まりに置くことで、来客数を制限できる。静かに書房で寛ぐのが好きと、お主の連れに聞いての」
「いいね。期待どおりの仕事だ」
試しに扉を開けてみると、見慣れすぎた八意書房の中が広がっていた。地下だから外が昼か夜かは分からないが、問題なく繋がるようだ。
折角なのでサラも連れて書房に入る。彩綾とアンネは慣れたが、知的好奇心の塊であるサラ学園長は店の主人である阿賀野を放って本の森へと駆けていった。
「やっほーい! こんな宝庫に巡り会えるとは!」
「迷子になっちゃいかんよー!」
「分かっとるー!」
ピューと擬音がつきそうなスピードで書房に消えていったサラ。あの調子だと、今日はずっとここにいるかもしれない。
だが、あの学園長は義理堅い性格だ。彩綾みたいに読むだけ読んで買わないなんてことはないだろう。見立てが正しければ、必ず毎回一冊は買っていく。
本好きなら大歓迎だ。どんどん見識を広げてほしい。自らが人類の成長と進化の原因になるなんて光栄な事だ。
「じゃあ、せっかくだし私たちも自由に見させてもらうわ」
「あ、私も行きます」
「おう、いってらー」
彩綾たちも本の海に飛び込んでいったところで、阿賀野は数十時間ぶりのティータイムを堪能することにした。
地下三階の中央テーブルで、熱めに淹れたレモングラスティーに小さじ一杯の砂糖を入れてよく混ぜる。
体感では久方ぶりの紅茶に薄っすらいつも以上の感動を覚えた。
いつからカフェインジャンキーになったのだろうと、カフェインにやられた頭をおかしい方向へ回していると、サラが2冊ほど本を持って寄ってきた。
「これ面白そうなのじゃ! アガノよ、これを買うぞ!」
彼女が差し出してきたのは、「世界で一番美しい化学反応図鑑」と「知識ゼロでも楽しく読める物理のしくみ」だ。どれも一般が読みやすく理解しやすい、売れている理系本の一つだ。
この2冊を数ある書籍の中から選ぶとは、骨の髄まで研究者なのだと改めて実感した。
「はい、毎度」
「うむ!・・・なあ、お主が良ければここでちょっと読んでいってもいいかの?」
「・・・まあ、いま買った本だしいいんじゃね?」
阿賀野の許可が下りたところで、サラは阿賀野の向かいに腰掛けテーブルに本を広げた。
目を輝かせながらページに齧り付く姿は、見ていて微笑ましさすらある。
決して彼女が合法ロリだからではない。
もう一度言う、決してない。
「なぁ、なぜ物体同士は引き合うのだ?」
サラが阿賀野に疑問を投げかけてくる。彼女が読んでいたページが目に入った。自然物理学の項目だった。
別に阿賀野は物理学者ではない。なので、彼の言葉でその疑問に答えるしかないのだ。
「そういう力が存在するとしか言いようがない」
「なぬ?」
「なぜ引力や重力があるのか。そんなの誰にも分からねえ。ここには膨大な本があるが、全てがここで分かるわけではない。
だからお前みたいな奴らは探究し、悩み、解決し、後世に知識を記す。違うか?」
なんでお悩み相談所みたいなことをしているんだろう。
阿賀野は真剣に語りながらも内心ではそう思っていた。
「それは解答書じゃねえ、ただの参考書だ。本に書いてあること鵜呑みにするから研究者も市民のバカどもも脳細胞が腐るんだよ」
「言い過ぎじゃなかろうか?」
歯に衣着せぬ物言いに苦笑いするサラ。だが、彼の言っていることは出鱈目でないことは確信できた。
「・・・なら、ワシは疑いながら読むこととしよう」
「おう、そうしろ。疑った上で正しいと思ったなら、それはお前にとって正しいもののはずだ」
目を向けることもなく、小説を読みながらそう答える。サラは改めて、彼の存在はこの世界にとって必ずや有益なものになると認識した。
「瑞樹さん、これ買っていいですか?」
「私もいいかな」
サラと静かに本を読んでいると、彩綾とアンナが戻ってきた。それぞれの手には、一冊ずつ文庫本が握られていた。
「彩綾のそれは、イデアの再臨か」
「学園ものらしくて、読みやすいかなって」
「いいけど、それめっちゃメタいミステリーだぞ? お前に読めんの?」
「ぶぅ〜! 失敬です」
悪い悪い、とニヤニヤしながら彩綾の頭を撫でる。これで大体は機嫌を直すからチョロいものだ。
「アンナのは・・・うっはマジか! 渋い本持ってきたなおい」
「漫画とは正反対のやつも読んでみようかなと思ったの」
「チャレンジはいいことだ。・・・にしても、まさかカフカの変身を選ぶとはね」
文学少女の冒険者とは面白いものだ。剣と魔法の世界になんとミスマッチなことだろうか。
面白いので、そのまま成ってしまってほしい。
ちなみに、彩綾の選んだ「イデアの再臨」とは、小説の中のキャラクターが主人公のメタ学園ミステリーだ。
だから、急に物の名前や存在が作者に消されたり、場面が変わったり、ページを戻らされたりするという新感覚ミステリーだ。
アンナのは、フランツ・カフカという海外作家の文庫である。簡単に言うと、ある日起きたら虫になった主人公の話だ。
これが良い感じに胸糞というか曇らせというか、形容し難いクセになる作品なのだ。
選書のセンスに関心しながら二人から代金を貰う。
そう言えば、明日は地球では平日じゃないか。彩綾を今日中に帰さなければならない。面倒なことこの上ないが、致し方ない。
「彩綾、オメエそろそろ帰った方がいいぞ」
「えぇ〜!? せっかくの異世界なのに・・・」
「どうせもう土産買ってあんだろ? 学生は勉強するのが本分だ。でないと大人になった時に欠陥人間になる。そんな奴は資本家に搾取されていればいい」
「なんか私怨まじってませんか・・・?」
「うるせえうるせえ。俺はこの世界で知識の伝道師になんだよ。そんで現人神になりたい」
「欲が開けっぴろげじゃぞ」
サラと彩綾にツッコミを喰らいながらも、阿賀野はこれからの異世界書店での活動に思いを馳せた。
阿賀野はあくまで知識や本をあげるだけ。それを有効活用されようが悪用されようがどうでもいい。
誰にも気づかれず、阿賀野の口角が歪んで吊り上がった。
マジかよ、下書き書いてから4ヶ月過ぎてるやん!




