命を奪うことに罪悪感なし
ドラマってなんでリアリズム入れると冷めやすいんだろう
西門付近に剣と盾が描かれた看板を見つけた。ここが初心者の武器屋とかいうヤツか。看板下にブリギッド鍛冶房と書かれていた。ケルト神話の鍛治女神の名を冠するとは、ただの鍛冶屋じゃないのかもしれない。
「ここよ。気をつけてね、店主は少し気難しいから」
「めんどくさそうだな。ここの店主ドワーフか何か?」
「いえ、普通の人間よ」
人間なのに小難しいとか、普通の厄介野郎なんじゃなかろうか。
「どーゆう人なんですか?」
「何というか、現実主義?」
要領を得ないアンネの説明に彩綾は不安になりながらも、店のドアを開けた。カランカランとドアに付けられた鈴が鳴る。中は案外シンプルな内装で、普通のロングソードや盾、防具から小物まで売られており、品揃えも申し分ない。そんな店の奥のカウンターで、目つきの悪い赤いショートヘアの女性がこちらを見ている。アンネよりも勝気が強そうだ。
「やあカムラン」
「よう。新入りでも案内してきたか?」
「そんなとこ。この子の武器が欲しくて。弓で何か良いものはない?」
知り合いのアンネが問いかけても、カムランという女性のコチラをみる態度は変わらない。
「その前に一つ聞きたい。アンタ達は何のために武器を使う?」
「あ?・・・あーなるほど、これが小難しいってことか」
カムランという女店主は、どうやら新人の冒険者にこのような問答をするのが通例となっているらしい。答えがよくなかったりすると、下手すれば売ってくれなかったりするとかそんな所だろう。
だが、彩綾はともかく阿賀野は武器を特別必要としていない。妥協して買いに来たにすぎないのだ。だから、この問答は彩綾だけ答えればいい。そう思って無視を決め込んだが、逃げ道は簡単に封じられた。
「お前も答えろよ」
「うぇ、俺もかよ・・・」
これは参ってしまった。阿賀野も頭数に入れられている。まあ、この店に踏み込んだ時点で避けられない運命だったのか。
「彩綾、お前先に答えろ」
「私ですか?んーーー・・・」
しばらく悩んだ末、彩綾の目が開かれた。自分なりの答えが纏まったようだ。
「生きるため、ですかね」
「ほう、その意気は?」
「冒険者さんも軍人さんもそうですが、国のためや金のためと言いつつも、一番の目的は自己防衛。つまり自分の命を守るために戦います。自分の命を守れないと、人の命も守れませんので」
「へぇ・・・ロマンチックなこと言うと思ってたが、案外良い点突いてんな。よし、合格だ」
「ありがとうございまーす!」
「何これ?ジャンプで読んだことあるワンシーンなんだけど」
「水差さないで」
「アッはい」
彩綾については、阿賀野もカムランと同じ印象だった。最初に会った時は、年相応の夢見る乙女だったのに、知らん間に中々のリアリストになっていた。阿賀野の教育の賜物(?)なのかもしれない。
「よし、じゃあ次はアンタだ。何故武器を使う?」
「アー畜生、めんどくせぇな・・・」
今度は阿賀野の番が回ってきた。後頭部をガシガシと掻き面倒そうにする阿賀野だが、カムランに問われるまでもなく、最初から彼の答えは決まっていたし変わらなかった。
「彩綾の生きる為ってのも悪くねえが、俺にとっちゃ・・・・・・俺の魂の格を上げる為、かね」
「・・・ん?」
どうやらカムランにも理解し難かったようだ。その様子を見た阿賀野は、己の回答を詳細に話し始めた。
「人間は常に誰かと競争するし、何かと対価に相手から得る。商売しかり、試験しかり。武器で魔物や人殺す時も同じさ。もし自分に価値や運命があるのなら、そいつは相手を殺している。間違っても殺されはしない。つまり、魂の格が上だったのさ。
魂とは命の価値であり、存在の価値だ。だから、俺は敵や獲物を殺せればそれでいい、他人が死のうがどうでもいい。負けて死んだら無価値、敗北以外の何者でもない。
だから俺は勝つ、殺して勝つ。誰もが、自分の命が最も価値があると信じて疑わないからだ」
いつぞやのナチスのような芝居がかった演説をここでも披露する。知識と思想を知り尽くした人間だからこそ、その分の深みが生まれていた。阿賀野の回答を聞いたカムランは
「いいね!素晴らしい!」
非常に満足していた。
「そうだ。武器とは結局命を奪う道具。だったら、それを分かっていてなお何のために使うのか。この二人はよく分かってるな」
「あんたもな。命を奪うモンを使っておきながら、いざ殺した時に後ろめたさを抱くなんて言語道断だ。そんなんだったら素手で挑めばいい」
「私も別に軍事訓練みたいなことをしていたわけではないですけど、物の本質というか、本当の意味は何があっても変わらないとは思いますよ」
どうやら、阿賀野たちをかなりお気に召したようだ。当初のぶっきらぼうな面が打って変わって笑顔である。
「よし。そんなお前らにおあつらえ向きのがあるよ。着いてきな」
カムランによって店の奥へと通される。そこには、店舗には売られていない非売品であろう武具や防具が置かれていた。
「ほえ〜、これ全部自作ですか」
「当たり前だ。ここは鍛冶屋であって武器屋じゃねえんだからな」
カムランはそんな武具の中から、一つの弓を取り出した。
「これならお前に合うだろ。イチイの木で作った弓だ。弦はギアスパイダーの糸を使っている。頑丈なのに柔軟性もあって威力と飛距離が良い。矢も軽くて硬い素材だから女のお前でも大丈夫だろ」
「あ、ありがとうございます!」
イチイの木で作られた弓は、西洋より東洋寄りの長弓に似ていた。この形なら、弓道部の彩綾にとって扱いやすいことこの上ないだろう。
「次にお前さんだな。」
「結局俺もかい。そうだな、ナイフがいい。片刃で返しのないヤツ」
「うーん・・・ならコレだな」
悩んだ末にカムランが持ってきたのは、なんの変哲もない黒いナイフだった。
「片刃で返しがないから抜けやすい。刃渡り7センチで黒いから闇に紛れて暗殺もできるぞ」
「誰が暗殺貴族やねん」
地球人にしか分からないツッコミを入れるが、実際にこのナイフは使い勝手が良い。握ってみると分かるが、かなりしっかりと滑り止め加工がされている。戦いで武器を捨てることはあっても、敵に奪われることは避けなければならない。
だから、この黒くシンプルながらも高性能なナイフを、阿賀野は使う前から気に入った。
「いいね。申し分なし。で、いくらコレ?」
「いや、今回はタダでやるよ。その代わり冒険者として大物になれ。それが武器の支払いだ」
「ふぅ〜カッケェ。乗ったわ」
手に入れた武器を各々携帯する。彩綾は背中に、羽柴は腰の帯に携えた。
そこに、カムランから素朴な疑問が飛んできた。
「お前ら初心者なんだろ。魔物はともかく、山賊とかを捕まえたり殺したりすることに普通は抵抗あるんだが・・・」
「わ、私は少し怖いですね・・・」
「ぜーんぜん?」
阿賀野の抵抗がない発言に彩綾は勢いよく振り向いた。同じ地球の、しかも戦争や銃社会とは無縁に近い日本で育っているのに、何故だと一瞬よぎったが、すぐに納得した。そうだ、阿賀野瑞樹はそーゆう人だった。自分のようなただの学生とは遥かに違うのだ。
「俺のいた国じゃあ治安が良い分犯罪に厳しくてな。異世界ほど命は軽くなかった。だから貴重なんだよ、戦争以外で殺す経験なんて。ここなら合法だ。祖国じゃできない未知の体験が俺を待ってるんだ」
「・・・なかなかにぶっ飛んでる奴だね。最後に一つ、殺すことに罪悪感はあるかい?」
「あったら俺は菜食主義者になってらぁな」
「・・・よし!アンネ、こいつらはこの先しぶとく生き残るぜ。将来が楽しみだよ」
「良かったわね。お眼鏡にかかって」
用ができたらまた来ることを約束し、カムランの鍛冶屋を立ち去った。今度こそ西門を通り、遠くに見える森に向かう。
たかがウサギ狩りに、イレギュラーイベントだけは避けたいと危惧しながら森へと足を進める一行だった。
「あ、やべえ。フラグ立てちまった」
「一人で何の話してんの?」
芸人がゴリゴリのアクションやってたら超面白いね。
絶対映画館に行くわ。




