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八意書房と異世界読者  作者: ディスマン


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13/20

チート持ちは異世界が楽でいいよな

みなさんお気づきになられましたね?

これは冒険活劇じゃありません、異世界書店知識チート物語です。


今のところは、ね?

 手頃な宿に二泊で部屋を押さえた阿賀野は、中に入るなりベッドに体を放り投げた。今まで散々暗い書房で幸せな読書をしていたというのに、学園の講師とかギルドメンバーとか、なんだか馬車馬のように働いた気分だった。

 疲れ果てた体に、家とは違った布団の感触が沁みる。憂鬱だ。私は貝になりたい。

「液体になってスライムみたいですね」

「経験値低そうだなオイ。はじまりの町出れねーじゃん」

「ごめん何の話?」

 非常にめんどくさい(しこり)は残ってしまったが、当初の目的は脱退できたので取り敢えずよしとしよう。

 さて、次はどうしようかな?

 できることなら書斎の机から一歩も動かないくらいインドアでありたい。

「どっちにしろ今日やれることとかもうないだろ」

「そうですね。明日には扉は国内に移設してもらえるでしょうけど、それまで何もやるべきことないですからね」

「ふ〜ん・・・・・・なら明日はクエスト行ってきたら?魔法の使い方とか広げた方がいいんじゃない?」

「あそっか」

 そうだ、すっかり忘れてた。ここで天理魔法の解釈を広げればこの先困ることも減る。・・・よくよく考えたら、向こうに帰った時にめっちゃ便利じゃないのか?


 いや、結局今やることは変わんないや。

「よし寝よう」

「結局寝るのね・・・」

「明日になんなきゃやることやれねえからな。おやすみぃ」

「早っ」

 ベッドに潜ってすぐ寝息を立て始めた阿賀野。考えても仕方ないし、明日になんなきゃ何もできない。

とすればやることは一つ、


考えることをやめる。


「zzz」

「瑞樹さんが一番頭使ってましたもん。そりゃ疲れますよ」

「・・・そうね。こんな変人でも疲れるのよね」

「ふふふっ、瑞樹さんが聞いたら喜びますよ」

「なんで?普通怒るでしょ」

 アンネは、更に阿賀野を変な人間だと思った。一般人に「変な人だね」なんて言おうものなら、そんなに良い思いをしないのがこの国の普通だと思っていたのだ。それをこの男は逆に嬉しいと思うらしい。


「『変であることは他とは違うこと。つまり、自分は自分としてこの世界に存在している証だ』って。珍しく熱弁してましたね」

「なるほど、要するに変や他と違うことは個性なんだから誇れってことね」


 彩綾が中学の時に、みんなと違うことでいじめられていた友達がいた。彩綾は阿賀野に相談を持ちかけた。阿賀野にとっては知ったことではないが、それで恩を売って本を買わせようと思い、彩綾の頼みを受けることにした。

 阿賀野がどうやって解決したかと言うと、魔法学園の時と同じように、校長に頼んで一コマだけの授業を執り行ったのだ。

 そこで阿賀野は、デイヴィッド・J・リンデンの著作である『あなたがあなたであることの科学 : 人の個性とはなんだろうか』という本を教材に、いかに個性というものが素晴らしいかを説いた。

 人はどこまで同じで、逆にどこから違うのか。それをふんだんに解説した後に、彼は友達を壇上に上げてこう言った。


「この子は虐められているらしいね。虐めていない人もこの中にはいる。だが虐めている人もいるわけだ。その子は笑顔で大きく返事してね〜。・・・・・・あれ?なんで誰も手上げないの?人を虐めているという個性があるんだぞ?誇れよオイ」


 これはまだ中学生のいじめっ子に重くのしかかった。観念して前に出てきた生徒は、阿賀野に叩かれることも叱られることもなかった。

「いい意味で人と違うことがどれだけ素晴らしいか分かりましたね?」

 これにて、2人は仲直り。その後は阿賀野の言葉に感銘を受けた複数の生徒が、図書館に行ったり阿賀野の書房で本を買ったりするようになった。


「ってことがあったんですよ」

「・・・なんか、ただの知識が豊富なだけの変人かと思ってたけど意外だわ」

 彼が興味あるのは知識の普及と探求だけだと思っていたアンネは、阿賀野の人間味が深い一面を知れて少し嬉しかった。

 そうか、この気持ちか。アンネは阿賀野が追い求めている「知る楽しさ」を知ったのだ。


「じゃ、そんな彼に(なら)って私たちも寝ましょうか」

「そうですね。おやすみなさい」

「おやすみ」


 異世界初の夜は呆気なく、それでも一度も出来ない経験の終止符には相応しかった。









-2日目-


「よっしゃ、魔物や盗賊ぶっ殺すぞぉ!」

「・・・サーヤ、昨日のエピソードって嘘じゃないわよね?」

「まぁ、アレ見たら揺らぎますよね・・・」


 快眠で始まった異世界2日目、阿賀野の疲れは吹き飛んでいた。アンナが起こしに来た時には、彼は既に着替えを終えて持ってきた本を読んでいた。

「お、はよー。お前も読むか?『黒死館殺人事件』多分絶対読めないけど」

 ムキになって阿賀野から本を奪って読んでみたが、1ページ目で挫折(ざせつ)した。シンプルに何書いてあるか分からなかったからだ。やっぱり読書家ってすごい。今度図書館で本を読んでみようと決めさせらるほどの読解力の差を思い知らされた。

「あ、まずは飯だな」

「瑞樹さんは魚かサラダでいいですか?」

「おう」

「肉とか食べないのね。菜食主義なの?」

「いえ朝にお肉とか食べるとお腹弱くなっちゃうんですよ」

「ダセェ体質だなチクショー」

「あっはっはっ!」

 そんな意外な弱点があるとは、同じ人族なんだなと思える。これから先も彼に振り回されると思うと杞憂だが、退屈はしないと確信している自分(アンネ)がいた。





 腹ごしらえを済まし、ギルドへと歩く。まだ朝だからなのか、通りの交通量は少ない。若干霧が掛かる通りに、書房のような静寂を感じてホッとする。

 ギルドの中に入ると、朝で他の冒険者が少ない。壁に貼られたクエストも手頃なのが何枚かありそうだ。その中から適当なのを一枚剥がして受付嬢のところまで持っていく。

「これで」

「おはようございます!はい、ホーンラビット5匹の討伐ですね」

 阿賀野が選んだのは、ホーンラビットというウサギ型の魔物討伐だ。脚力が高く、足が速い上に木を跳躍して襲いかかってくる。昨日図書館で魔物は大体全部調べた。

「はい、受理しました。目的地は西門の先にある森林になります。クエストの期限は夕方になりますので、お気をつけてください」

「オーケー。そんじゃ行くか」

「武器は?」

「俺らはいらん」

「え?私は欲しいんですけど」

「防御魔法あんのに?」

「それでも心細いですってぇ!」

「あー分かった分かった。そんなに言うなら武器屋行くぞ。ってかお前武器とか使えんの?」

「あ、大丈夫です。私弓道部入ってますので」

 え、初耳なんですけど。そんな格式高い部にいんのお前?・・・まあいいか。使える人間なら別に問題ない。

「サーヤは弓ね。アガノは本当に要らないのね?」

「んんん〜。じゃあナイフで」

「よし、じゃあ行きましょう。西門の近くに初心者用の武器屋があるわ。余裕で買える相場だから大丈夫よ」

一先(ひとま)ず、彩綾の強い要望により武器屋に行くことになった。俺の天理魔法よりずっと汎用性高いし殺傷力あるのに、今度きっちり防御魔法講座やらないとダメだと阿賀野は思った。

スシロー行きたい。

酒飲みながらえんがわ食いたい。

それがダメなら葛西の居酒屋に行きたい。

とりあえず酒が欲しいでごわす。

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