第五話「エッフェル塔の人柱 後編」5
「終わったの?」
その隣に、ふわりとヴェロニカが降り立つ。
「ひとまずはな……」
「よっし、じゃあ美味しいものでも食べに行こうよ!」
「……なぜそんなに元気なんだ。つい先日まで昏睡していたというのに」
「夜だからね。吸血鬼って、めちゃくちゃ夜に強いみたい」
にっ、と笑った口に鋭い犬歯がのぞく。
「……後悔してはいないのか? 人間ではなくなったんだぞ」
「うーん、元々上等な人生なんか送ってないしね。まぁ、あんたには借りがあるし、返すには丁度いいんじゃない?」
あまりにあっけらかんとした様子に、玉兎もあぜんとしてしまう。
「それより驚かれたよ。元娼婦の吸血鬼なんて歴史上初だってさ。はっはっはっ」
「……それについてはノーコメントにしておく」
吸血鬼に血を吸われた者は、その呪いで大半が死ぬ。
血を吸った吸血鬼が滅びた後なら、本人の生命力次第で助かる事もある。
だが、処女が血を吸われた場合、『確実に』吸血鬼となる。
これは、呪術の核そのもののため、防ぎようが無い。
「娼婦としちゃあ恥だけどね……ね? 嬉しい? ねぇねぇ?」
ヴェロニカは玉兎の腕を掴み、ぐいぐいと胸を押し当てるが、玉兎はそっけない。
「ノーコメントだと言っているだろう。……それにはしゃいでいる暇はないぞ。これから忙しくなる」
「え? でも悪党も倒したし、復活した死人も倒したんでしょ?」
「いや、術者はアートマン修道会を名乗った。そんな組織など聞いたことは無いが、間違いなく相当な力を持っているだろう。……奴は南スラヴの術式を使ったが、ロシア名を名乗っていた……おそらく、ロシアに指導者がいるはずだ」
玉兎の脳裏には、ロシアの『ある女性』の存在が真っ先に浮かぶ。
そして、それは確信にも近いものを感じさせた。
「……何より、他にも復活した者がいるはずだ。俺が来る前に、既に『穴が掘り返されていた』からな」
作業員は、『百年戦争』時の鎧騎士の幽霊だと言っていた。
だが、ナポレオンの時代は『第2次百年戦争』であり、そんな鎧騎士などいない。
「既に誰かが這い出して来ている……!」




