第五話「エッフェル塔の人柱 後編」3
「ヴェロニカ!?」
「た、助けに来たよ。カッコイイでしょ?」
それはまさしく、倫敦で昏睡状態だったはずのヴェロニカだった。
明らかに人一人を持ち上げるのにきつそうにしているが、強がっている。
「どうして……いや、その姿は……」
ヴェロニカの服装こそ変わっていないものの、背中にはコウモリを思わせる巨大な羽根っが生えていた。
そして闇に黄金の瞳が煌々と輝いている。
「いやー、その、なっちゃったみたいなんだよね。吸血鬼」
「なっちゃったって……そんな軽く言うような事では……」
さしもの玉兎もあぜんとしている。
「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ。流石に重い……」
「……なら、エッフェル塔に下ろしてくれ」
「りょーかい!」
ヴェロニカは羽ばたき、エッフェル塔のアーチの上に玉兎を置いた。
「どうするの?」
「離れていろ。強力な術を使う」
「う、うん」
ヴェロニカは燕のように滑空し、その場を離れる。
「……カシュマールの術式は、黒の神チェルノボグ。対するは白の神ベルボーグ……だが、スラヴの術式は俺には再現できない」
正確には南スラヴに伝わる神である。
南スラヴは他のスラヴとは異なり、文化の流入と混血が激しく、独自の文化をもっている。
呪符を求め、世界を渡り歩いた玉兎とはいえ、全ての呪法に精通しているわけではない。
「しかし、おおよその推測はできる。拝火教にあるよう、善悪の二神対立であれば、能力もまた逆。ならば、あの黒の雷に対する白の雷が必要」
実際、カシュマールの術は離の式による雷によって弾く事が出来た。
「ならば――」
玉兎の体を構成する符が一気に展開。
上半身を残して、八卦の陣を描く。
膨大なエネルギーが玉兎を中心に放たれ始める。
『吾輩が状況を作るのだ』
危機を察したナポレオンは馬を走らせ、なんとエッフェル塔を駆け昇り始めた。
そして、そのサーベルが玉兎の首にかかり――
「九天応元雷声普化天尊!!」
凄まじい雷撃が、滝のようにエッフェル塔を包み込んだ。
九天応元雷声普化天尊とは道教における最高位の雷神。
その力を借りた、究極の雷撃である。
荒れ狂う電撃が、ナポレオンを、配下の骸骨兵を焼きつくす。
破壊の奔流が収まった時、玉兎の前には英雄が立ちつくすのみであった。




