第五話「エッフェル塔の人柱 後編」1
死霊使いカシュマールは、その命を使い死者を蘇らせた。
それは、大英雄ナポレオン・ボナパルト。
ワーテルローの戦いで破れたナポレオンは、英国に投降した。
1821年、流刑地である英国領セントヘレナ島で死亡した為、遺体は暫く英国にあったが、倫敦から巴里にある廃兵院に1840年に返還されている。
『生きたいと思わねばならぬ。そして、死ぬことを知らねばならぬ』
ナポレオンの顔に精気は無い。
それどころか、髑髏が透けて見える。
人間の骨格に、魂が纏わりついたような状態であった。
「カシュマールめ、巴里の廃兵院から遺体を盗み出したか……」
天から降り注ぐ雷は、未だやまず、エッフェル塔を伝って地面に広がる。
そして、当たり構わず骸骨の兵士を蘇らせていく。
「エッフェル塔は、呪いを放つ塔ではなく……収束する為のものだったというわけか……! 欧州中からかき集めた呪力で、死者を蘇らせるための……!」
今で言う広告塔ではなく、むしろ逆。
誘蛾灯のように呪いを引きよせていたのだ。
巴里もまた、倫敦に負けず劣らず血塗られた歴史を持つ都市である。
紀元前においては、ヴェルキンゲトリクスがローマと戦うも、これに破れローマの支配下となった。
そのローマも崩壊、フランク王国が支配する。
カロリング朝ではカール大帝に見放されヴァイキングの襲撃を受け続け、ヴァロア朝では百年戦争やペストなどによる災禍に次々に見舞われる。
その百年戦争の中、イングランド王によって巴里は支配される。
ジャンヌ・ダルクの奮戦も空しく、巴里が奪還されたのは彼女の死後。
その後も宗教戦争にあけくれ、サン・バルテルミの虐殺をはじめとして血は流され続けた。
フランス革命は言うに及ばず、そして登場するナポレオンの元でも多数の血が流れたのは歴史書に詳しい。
そんな地に建てられた呪いの塔は、恐るべき力を得るに至っていたのである。




