第四話「エッフェル塔の人柱 前編」5
ローブの人物は、白髪に白髭、しかし体躯は隆々。
邪悪なサンタクロースとでも言うべき風貌であった。
「先に聞いたのはこちらだ。……だが、ある程度想像はついた。チェルノボグの闇か」
「……!」
「その術法、南スラヴのものだな。ヴォルフブが巴里くんだりで何をやっている」
「……そのイギリス訛りのフランス語に、東洋の風貌……」
ローブの男は、樫の杖を取り出し、玉兎へ向ける。
「……いずれにせよ殺してから聞けばいい!」
ローブの裾から、骨の鳥が次々飛び出した。
同時に、足元からは犬の骨が飛び出す。
「死体使いか……!」
だが、その程度の術式など大した問題では無い。
玉兎は不可思議なステップで、骨の群れを避ける行く。
「なんだと!?」
「反閇の前では、このような低級霊は近寄る事もできん」
反閇とは陰陽道独特の歩法である。
邪気を祓い、鎮める呪術的歩法であり、八卦と陰陽道を極めた玉兎には息するが如く扱える代物だ。
骨どもは場を清められ、力を失って行く。
「これほどの術師……やはり貴様、英国の黒服か! わざわざ巴里までお出ましとは思わなかったぞ」
「だったらどうする?」
「フフフ……手間が省けたというわけだ。私は、『アートマン修道会』が一人、カシュマール!」
「アートマン修道会……だと?」
玉兎がいぶかしむ。
芸術人などという意味ではあるまい。
ならばヴェーダにおけるアートマであろうか。
(インド系……? しかしそれにしては……)
それにカシュマールとはロシア語で「悪夢」の意。
こちらは本名とは思えなかった。
おなじスラヴ系とはいえ、南スラヴともロシアは相当に離れている。
いずれにせよ別の文化圏の術式を統合した秘密結社という事になる。
そんな組織を、玉兎は知らない。
(……これは……背後に全く新しい思想的指導者がいる……!)
「我らは貴様ら黒服が独占する神秘の解放を望む者なり!」




